第3章 洗礼編

第19話 洗礼

 時は流れて、俺は7歳になった。乳幼児死亡率が高いこの世界、7歳になれば教会で洗礼を受け、正式に社会の仲間入りをする。俺の場合、大体の誕生日は分かるのだが、正確な日にちまでは分からない。村ではみんな1月1日に歳を取る年齢カウント方式を採用していたからだ。というわけで4歳半の時に貴族の仲間入りをした俺であるが、誕生日は1月1日で登録され、実質6歳半くらいで洗礼を受けることになる。平民から貴族の養子になる場合、よくあるパターンだ。


 教会で洗礼を受けた瞬間、音声とともにこんなメッセージが流れた。


「クラウス・フォン・アルブレヒトをワールド住民に登録しました」


 そして自動的にステータス画面が現れ、このように表示された。




名前 クラウス

種族 ヒューマン

称号 アルブレヒト伯爵養子

レベル 3

状態 良好


HP 33

MP 21,583,406

ST 33


VIT 33

MND 21,583,406


STR 51

INT 3,157

AGI 23

DEX 2,281


+スキル


+装備




 これまで自分のスキル取得進捗度しゅとくしんちょくどしか見られなかったが、やっとステータスの詳細が明らかになった。教会での洗礼が、この世界のプレイアブルキャラの判定基準というか、ここからやっと「ゲームスタート」ということのようだ。


 この時以降、他の人物に鑑定を掛けた場合にも、同じように詳細なステータスが見られるようになった。これまでは、自分と同じくスキルのレベルや次のスキルレベルまでの必要試行値が見えるだけだったのだが、試しに鑑定をかけてみると、このような結果になった。




名前 アレクシス

種族 ヒューマン

称号 アルブレヒト伯爵

レベル 27

状態 毒


HP 50

MP 2,170

ST 150


VIT 150(-100)

MND 2,170


STR 70

INT 1,180

AGI 50

DEX 80


+スキル


+装備





名前 ベルント

種族 ヒューマン

称号 バッハシュタイン男爵次男

レベル 23

状態 毒


HP 110

MP 120

ST 180


VIT 180(-70)

MND 120


STR 100

INT 350

AGI 70

DEX 50


+スキル


+装備




 …毒ですとな?




 なんか鑑定してみたら毒って見えたんですけど、と告げると、ちょっとした騒ぎになった。アレクシス様もベルント様も心当たりがあって、「あー、ね?」みたいに顔を見合わせていたが、それを耳にしたディートリント様が鬼のような形相で、「あのアマ」とつぶやき、扇を一本へし折った。


 どうもアレクシス様のお母さんが第二夫人だか第三夫人だかで、三兄弟の母親はそれぞれ違うらしい。第一夫人は自身の子よりも優秀なアレクシス様が気に入らず、ことあるごとに母子共にイビリ倒して来たとのこと。アレクシス様が飛び級を繰り返して宮廷魔術師への道を急いだのは、命の危険もあってのことらしい。そして宮廷魔術師になったらなったで、立派に手柄を立てて、自身で伯爵位の称号まで手に入れてしまったことで、家を出た後も継続的に嫌がらせがあるそうだ。


 以前から毒を盛られた疑いがあり、定期的に光魔法で解毒を受けていたが、通常の解毒魔法で除去出来ないとなると、重金属でも残留しているのかもしれない。とりあえず、俺が生やしてきたスキルで何とかできないかと思い、アレクシス様にソファーにうつ伏せになってもらった。今回は背中から失礼する。


 まずはクリーン。体の表面が綺麗になる。次にリフレッシュ。体の内側から疲労物質が消える。


「おお…内側から疲れが抜けていく…」


 確かに、目に見えない汚れのようなものが洗浄されている手応えがある。だが、まだ何かが残っている感覚もある。内臓のあちこちに、散弾のようなものを感じる。これが重金属なのだろうか。切って取り出すわけにもいかないし…そうだ、錬金術で、何か無害なものに変えてみてはどうだろうか。


 無害といえば、シリコン?違うな。塩?それも違う気がする、そうだ、水に変えたらいいんじゃないだろうか。体の中の小さな塊の一つ目がけて錬金術スキルを照射し、水に変換してみる。すると


「おお…あ、あがっ…!」


 アレクシス様がビクンビクンと痙攣を始めた。ディートリント様が小さく悲鳴を上げて、アレクシス様に駆け寄ろうとしたが、ベルント様に止められた。


「へ、へぎぃ…中が、中がぁぁ…すご…あ”あ”あ”あ”あ”」


 うつ伏せになっていて顔は見えないが、明らかにあの「脳汁」の時の反応である。うつ伏せでよかった。10分ほどしてアレクシス様の反応が止まり、今日は一旦このくらいで終わろうかということになった。長年内臓に負担を掛けてきた物質を、一度に取り去るのは、却って体に良くないかもしれない。


 ベルント様は慣れた手つきでアレクシス様を抱き起こし、顔はディートリント様に見えないようにして、そっと執務室の奥のベッドルームまで運んで行った。ディートリント様は、手で口を抑え、衝撃を禁じ得ない様子でそれを見守っていた。




 その後、無言で執務室を辞去した後は、ベルント様の部屋で同じことをした。


「ぎっ!ぎっ!ぎもぢい…ぎもぢいいいいいン!」


 ベルント様の方がリアクションヤバいんだよな。ちょっと声が鼻にかかって、オネエっぽくなるところが余計気まずい。まあ、元来真面目な気質だし、奔放な年下の主人を補佐して、気苦労もあるんだろう。ちょっとマッサージとかリフレッシュとか、おまけしておいた。


 気絶したベルント様をベッドに残して部屋を辞去すると、廊下にディートリント様がいらした。


「あなた、あの施術、私にもなさい」


 え、いいの。ヤバいんじゃ?



✳︎✳︎✳︎


2024.10.08 ステータス表記を一部改変しました

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