第14話 ファストフード
サンドイッチについては、最初からパンが存在するので、簡単にできた。案の定、庶民の食卓には類似の食べ物があったらしい。パンを高級な柔らかいものに、中の具も豪華なものに変えれば、貴族にも十分通用する食べ物になった。そりゃあそうだ、元々サンドイッチはお貴族様がゲーム中につまみやすいように作られた食事だからね。
そこでハンバーグの開発開始ですよ。包丁で根気良く叩くとか面倒なこと、いちいちやってられないから、ミートミンサーを探したが、この世界にはまだなかった。まあ、あったら既に、ハンバーグくらい存在してるだろうな。
元々不勉強な俺、ミンサーの仕組みは何となく分かっても、それを人に説明して製品化する自信がない。じゃあ、フードプロセッサーがあればいいんじゃないの。あれなら容器と刃のついたプロペラと回転動力があれば、もっと単純に肉を細かくできる。なんなら玉ねぎだって微塵切りにできるだろう。
土魔法でそれっぽいパーツを作って、錬金術で鉄に加工して、いざ組み立て回す…というところになって、4歳児の作った粘土細工が元では、ちゃんと機能しない。何度か試行錯誤して、ええいやってられるかということで、結局ボウルの中で風魔法で粉々に切り刻むことにした。
ハンバーグは、ツナギが多くて安っぽいヤツの方が美味しい。貧乏舌の前世の俺がそう言っている。もちろん肉肉しいのもいいが、貴族なんて元々肉なんかカタマリで嫌というほど食ってる。パン粉、牛乳、卵、玉ねぎ多め。そして香辛料。ツナギが増えるほど柔らかくて、ひっくり返す時には高い調理技術が要求されるが、焼き上がったハンバーグは、これまでの貴族料理と一味違って、大ブレイクした。
ハンバーグの良さは、その応用範囲の広さと懐の深さにある。ドミグラスソースで、まるでシチューのように旨味たっぷりに食べることもできれば、トマトソースでよりジューシーに、チーズを包んでこってりと。おろしソースでさっぱりしたものもいいし、大豆を混ぜれば女性にヘルシー、苦手な野菜を刻んで入れればお子様もパクパク。お年寄りにも食べやすい。ピーマンに詰めて焼くと、あの苦いピーマンが取り合いになる。はっはっは、そうだろうそうだろう。
ここで満を持して、大ぶりなバンズに大ぶりなハンバーグを挟む。野菜とチーズもたっぷり挟み、芋を揚げたものも添えて。これが貴族の若者、とりわけ軍人にウケた。早速軍の食堂のメニューに加わり、また軍人の行きつけの酒場でも、ハンバーガーが供されるようになった。そして、ツナギ多めでカサ増し効果ばっちり、安い肉や屑肉も美味しく腹一杯食べられるので、ハンバーグとハンバーガーは、庶民にも広がっていった。
もちろんサンドイッチも同様に広まっていった。こちらは小ぶりで上品なフィンガーフードとして、軽食、お茶請け、立食パーティーで供されたりした。「貴族のゲームのお供」というストーリー性も良かったらしい。出来る貴族の社交のたしなみ、みたいなトレンドで受け入れられていった。また、中身を工夫すれば栄養もしっかり取れる。アレクシス様もベルント様も、執務で忙しい時でも手軽に食べられると評価してくれた。やがて、激務の文官たちの間で、10秒チャージのバランス栄養食として、すっかり定着。やめたげて。人、増やしてあげて。
そしてこれらはすべて、アレクシス様の魔術研究の副産物として発表され、彼の評価はどんどん高まっていった。本人は、あまりに目立ちすぎるのは嫌そうだったけど。貴族の嫉妬って怖いもんな。なお、サンドイッチもハンバーグもハンバーガーも、すべてそのままの名称で世に広まっていった。異世界に轟くサンドウィッチ伯爵とハンブルクの名声。胸熱。
こうして俺は、この世界で悲願だったハンバーガーセットにありつけることとなった。そしてそうこうしているうちに、いつしか料理スキルが生えていた。これでもっと、食べたい料理を再現できるようになるだろう。
なお、ハンバーグが広まるにつれ、風属性の魔術師の需要が高まり、彼らもまた連日あちこちでへとへとになるまで肉や野菜を粉砕する仕事に駆り出された。そのうち、俺が作った試作品から、手動のフードチョッパーが製品化され、爆発的に広まったが、その後はハンバーガーに合う炭酸飲料の需要が更に高まり、彼らの仕事が減ることはなかった。
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