第13話 インディカ米

 さて、先日購入したインディカ米。和食には合わないが、洋食やエスニックならば、むしろインディカ米の方が本家。とりあえず簡単なものからだ。米をコンソメスープで炊けば、パエリアというかピラフっぽいものになるんじゃないだろうか。以前の俺は、米を炊くということをしていたが、普段調理していたのはジャポニカ米で、インディカ米ではなかった。しかも機械で炊飯していて、水加減は容器の目盛り通りに入れるだけ。なので、鍋で調理するのはイマイチ自信がない。まあ、少なければ後で水を足せばいいし、多すぎたらリゾットになるだろう。


 見よう見まねで炊いてみると、割とちゃんとピラフになった。鍋の底のおこげがまたいい。元々のスープに具がいっぱい入っているから、軽食ならばこれだけで行けるだろう。料理長が喜んでいた。彼はドライフルーツやフルーツ牛乳からのマブダチである。


 だがまだだ、まだ終わらんよ。見せてもらおうか、インディカ米のポテンシャルとやらを。


 まずはこないだ買った香辛料を鍋に豪快にブチこんで、弱火でじっくり炒める。カレー粉って、まずじっくり炒めて作るって、なんかで見たことある。どの粉をどのタイミングで入れて、どんだけ炒めるとか分からない。小一時間ほど炒めてみたところ、なんとなくしっとりしてきた気がするから、こんでいいんじゃないだろうか。


 スパイスの香りは、厨房を超えて、やしきいっぱいに充満する。使用人たちがどこからともなく集まって、厨房の内外にひしめいて、俺の一挙手一投足を固唾を呑んで見守っている。俺は、鍋に残っていた朝食の残りのスープに、炒めたスパイスミックスをおたま1杯ほど投入し、混ぜて温め直してみた。


 コレじゃない。そこはかとなくコレじゃないんだけど、なんとなく、カレースープというか、スープカレーのようなものが出来上がった。


 そこからは、使用人で味見合戦が始まった。完成度はともかく、黄金よりも高価な香辛料が、ガッツリと効いているスープ、そうそうお目にかかれない。のちにこれは、黄金のスープと名付けられた。


 香辛料がふんだんに使われた料理は、実はそんなに珍しくないらしい。宮廷料理には、財力と権力を誇示するために、敢えて香辛料を多く使うものがある。だが、それは特別美味しいものでもないそうだ。なんとなく、高い香辛料を入れとけば、お高級でしょ、どうよ、ってことらしい。


 これからは、俺が(錬金術というチート財力をもって)香辛料なんかいくらでも買うから、この黄金スープをどうか完成させてほしい、と料理長に持ちかけると、彼は涙を流しながら、身命をしてでも!と忠誠の意を明かした。いやいや、俺が食べたいだけだからね?身命とか賭しちゃダメだから。


 なお、香辛料だけを炒めることしか考えていなかったが、そういえばカレーには生姜やニンニクも入っていたな、玉ねぎも炒めるんだっけな、と思って、香辛料と共に炒めてみたら、びっくりするくらい旨いスープカレーのルウ的なものができた。これを機に、俺が厨房に入ると、料理人たちがザザッとこちらを向き、敬礼するようになった。やめたげて。




 ピラフ、黄金のスープことスープカレーの後は、チャーハン、チキンライスからの、オムライス。その後、厨房を堂々と使わせてもらえるようになった俺が、独身男性一人暮らしの定番料理を試し、堪能たんのうしていたところ、それらはすべて料理人たちに記録され、再現され、アルブレヒト邸の名物となった。そして主人たるアレクシス様やベルント様の食卓にのぼるようになると、オムライスにはアレクシス様が、黄金のスープにはベルント様がハマった。一度オムライスに旗を立ててみたところ、オムライスには必ず旗を立てるように厳命された。


 黄金のスープについては、あまり高価なスパイスを大量に購入すると、王室やそこらに目を付けられるんじゃないかと思ったのだが、普段慎重派のベルント様がハマってしまってストッパーがいない。好きなだけきんを錬金して、スパイスを買い込めとおっしゃる。彼は一度傾倒するとブッ壊れるタイプのようだ。まあ、スパイスには薬効があるし、体にいろいろ良いらしいよってフォローしたところ、スパイスはアレクシス様が薬効を調べるために購入して研究しているということになった。


 案の定、輸入ルートかどこかから、香辛料の大量購入の話が漏れ、「研究目的で買ってます」設定がすぐに役立った。研究成果を見せてみよと王宮から命が下されて、宮廷で黄金のスープを披露したところ、貴族の間で大流行。体に良いらしいという評判まで相まって、国内で栽培できるものは何としてでも栽培せよ、という勅命まで出された。ええ、お陰様でもう栽培してますよ、アルブレヒト邸では。乾燥させたホールスパイスを、種子に巻き戻して、生育地域外でも栽培できる。植物魔法はチートである。なお、栽培を始めたもののうち、この地域で普通に栽培できるものは、苗にして献上しておいた。香辛料の商人には悪いが、この国で作れないものはこれまで以上に売れるだろうから、勘弁していただこう。


 黄金のスープことスープカレーのお供に、インディカ米まで売れ出した。俺が栽培してもいいけど、裏庭のスペースにも限界がある。米の流通量が増えて、手に入りやすくなったら、願ったり叶ったりだ。時代が俺に追いついてきた。ジャンクな世界の到来は、すぐそこである。

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