第9話 溜まりゆく課題
アルブレヒト邸にて、貴族の子弟的生活が始まって、1ヶ月ほど経った。午前中はマナー講師と家庭教師によるマナーと基礎学習教育、午後は自由に過ごす。読み書きの勉強が進み、研究室に置いてある本が少しずつ読めるようになってきた。読めるようになってはきたが、元々勉強が得意ではない俺なので、学術図書を読んでもつまらない。魔法の本も、なんというか全てが回りくどく難解に書いてあって、読み手に分かりやすく伝えようという意思が全く感じられない。幸い、家庭教師はものを教えるのが上手く、読み書きから歴史から基礎の魔法論から、易しく噛み砕いて説明してくれた。彼女の話を興味深く聞いていたのが良かったのだろう、周りは俺に対して「珍妙な知識を持つ気味の悪い子供」ではなく、「知識欲が強くて利発な、伯爵に見出された子供」という印象を持つようになった。
一方、スキルを生やすことについては、少し行き詰まっていた。研究室にこもっても、面白くない本、実験器具が置いてあるくらいで、話し相手もいない。メイドは付いているが、どこまで話していいか分からない。することといえば、アレクシスに出された課題レポートを書くことくらいしかない。それも、ちょっと口を滑らせてしまったことを、詳しく———例えば発酵食品で腸が綺麗になるとか、軽い運動が頭痛と動脈硬化に効くとか、昔テレビで見たような雑学みたいな奴だ。ところでテレビって何だっけ。
必然的に、庭で過ごすことが多くなった。小さいとはいえ貴族の邸宅、小さな庭園に、多少体を鍛えて汗を流すような場所くらいはある。庭の一角を借りて、土をいじってみたり、植物を育ててみたり、木剣を振るってみたりした。木剣を素振りしていると、護衛が通りかかって、「坊や、こうやって振るんだよ」と面白半分に型を教えてくれた。その通りに振っていたら、無事「剣術Lv1(1/20000)」が生えてきた。これこれ、これですよ。剣道じゃない、剣術を生やしてみたかったのよ。
あの後、錬金術も頑張った。ソイルで土を出し、粘土状にして好きな形にして、金属に加工して固める。今のマイブームは、手裏剣だ。手裏剣や
庭の木に的を設置して、こっそり手裏剣を投げて投擲術をレベル上げしていると、忍術が生えてきた。忍術キター!ヤバい、夢が広がる。とりあえず当面は手裏剣投げを頑張って行こう。どんな忍術が使えるようになるのだろう、ワクワクする。
なお、手裏剣の投擲を繰り返していると、「火遁」「水遁」「土遁」などのスキルが生えてきたが、中身はそれぞれ火魔法・水魔法・土魔法だった。忍術ブーム、約1週間で終了。
錬金術を生やしてから、魔力はもっぱら錬金術を伸ばすのに使っていたのだが、材料として都度ソイルを使用していたので、土魔法も順調に上がっていた。土魔法の生活魔法ソイルから、Lv1で土壌改良に続いて、Lv2でロックパイル、Lv3でロックウォールが生えてきた。使ってみた感想、どれもソイルと土壌改良の応用というか、最初からまとまった量の土を、硬質化した状態で出現させるのが、土魔法の進化の方向っぽい。なるほど、ソイルと土壌改良を繰り返していれば、上のスキルが生えてくるはずだ。
水魔法も同様、水の出る量が多くなった。火魔法も、火力が大きくなった。水も火も、規模が大きくなるばかりで、大した進化がないんだな、と思っていたら、風魔法を上げることで進化した。風魔法は、気体の制御だけでなく、運動の指向性を司っているようだ。ふと、弾丸って回転運動を加えると直進性が保たれ、命中精度が上がるって聞いたことあるなと思って、水魔法に回転運動と指向性を加えながら発射したところ、イメージ通り弾丸状に飛んで行き、「ウォーターバレット」が生えた。同様に、火魔法に風魔法を組み合わせると「ファイアバレット」、土と組み合わせると「ロックバレット」となった。
そういえば、土や水は魔力が物質として出てくる魔法、風魔法の本質は運動の指向性を司る魔法であるが、火魔法って何なんだろう。火というのは化学反応であり、プラズマなんだよな。これって分子や電子の運動を制御しているんだろうか。ああ、もっと前世で勉強してくればよかった。
火がプラズマなら、雷だってプラズマなんじゃないかと思って、手から出る火を眺めていたところ、火が次第にパチパチと電気を帯び、無事雷魔法が生えてきた。分子や電子を制御してるんなら、もしかしたら水をファイアで温めるだけじゃなくて、凍らせることもできるんじゃないかと思ったら、氷魔法が生えてきた。氷魔法が、水魔法と火魔法のハイブリッドで生やせるとは思わなかった。
なお、光魔法はプラズマとはまた別物のようだ。火魔法から光魔法に連続的に変質することはなかった。どうやって発光現象が起こっているかは謎である。アレクシス様に聞いたところ、光魔法の光は聖霊の光であると言われている、ということだ。どちらかというと、科学ではなくてスピリチュアルな世界の話なのかもしれない。
そして、光魔法のことを聞くのに、うっかりバレット系のスキルやプラズマの話なんかを漏らしてしまって、そこから盛大に質問攻めに遭った。俺もあやふやな知識しか思い出せない(そもそも前世の俺はちゃんと勉強してないっぽい)ので、何となぁく、の説明しか出来ないのだが、何時間も拘束される羽目になった。後日レポートを提出すると約束することで、ようやく解放された。俺はまだ4歳児、字を覚えたばかり。課題ばかりが溜まっていく。
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