第4話 冬の過ごし方
辺境の村に冬が来た。周辺地域には、30センチほどの雪が降る。大人たちは細々と細工物をしたり、身の回りの衣料品を繕ったりして過ごす。子供たちは親の手伝いをしたり、天気の良い日は広場で雪遊びをしたり。
大雑把に言うと、暇である。
暇なので、異世界ご用達のリバーシを作ってみた。もちろん3歳児の技量でできることは少ないから、板を分けてもらったり、平べったい小石の片面に色を塗ってもらったり、暇を持て余している大人たちに手伝ってもらったのだが。
当然「異世界って何だ」という思考が頭をよぎるが、もう気にしないことにした。俺にはこの世界とは違う世界で生きていた記憶が、ぼんやりと残っている。なんとなく、この世界の仕組みに気づいている。だけど具体的にそれがどういうものなのかはさっぱり思い出せない。ちょっと変わった村の子供、そんでいいじゃないかと自分に言い聞かせている。
あやふやな記憶をもとに作ったリバーシは、やはり大ヒットした。暇を持て余した大人も子供も夢中になった。板はたちまち増産され、一家に一枚は備え付けられた。この寒いのに、皆こぞって河原まで出かけて、石を拾ってきた。
昨年は皆、狩のスキルが上がったので、干し肉が豊富にある。大人たちは秘蔵の酒をちびちびやりながら、リバーシを打っている。そこに子供も混ざる。どうやらこの村で一番リバーシが強いのは、隣の家の10歳の男児らしい。鑑定スキルで見ると、演算スキルと高速思考スキルが生えていた。
一方、リバーシと並行して、新たなスキルを生やすことも流行した。狩猟で狩ってきた獲物にクリーンを掛けまくっていたら、聖魔法が生えていた。ステータスから解説文を読むと、生命に敬意を払ったかららしい。試しに村の共同墓地に向かってクリーンを掛けたら、聖魔法は伸びていった。毎日墓地までクリーンを掛けに行くうちに、なんだか広範囲の浄化魔法まで覚えてしまった。この世界では普通にアンデッドモンスターがいるらしいので、いざという時に安心、かもしれない。
今は冬なので農作業ができないが、昨年は狩が好調で村の食糧事情が良くなった。ならば、来年は農業が伸びたら面白いんじゃないか。そう思って、土間の片隅で実験を始めた。
農業といえば、土魔法とか植物魔法とか、そういうのが有効なのではないかと思うのだが、今は土がパラパラと出てくるだけの、土属性の生活魔法ソイルしか習得していない。これをまず伸ばさなければならない。
ソイル、ソイルと念じるごとに、手からパラパラと土が出てくる。一回がたった一握りの土であっても、何度もやっているとツボいっぱいくらいの量になってきた。ある時、手から出る土が増えた瞬間、音声と共に
「土魔法のレベルが上がりました」
「土壌改良Lv1を習得しました」
という文字がポップしてきた。
土壌改良のスキルは、土の性質を変化させられるらしい。粘土、砂、鹿沼土、腐葉土、珪藻土など、イメージが及ぶかぎり、それらしい土に変化するようだ。腐葉土や珪藻土なんか、土とは別物なんじゃないかと思わなくもないが…。
とにかく、作物が育つっていったら、腐葉土なんかがいいのかな、などと思い、ツボの土を腐葉土にしてみた。そういえば、プランターで作物を育てるなら、小石を敷いて、下の方は水はけを良くするんじゃなかったか。プランターが何なのか今ひとつ思い出せないが。
ここに、来年用に畑に蒔いてあった麦の種を、一粒拝借して埋めてみる。ウォーターのスキルで微量の水を撒き、ライトの呪文で小一時間光を当てる。ハウス栽培みたいで面白い。果たしてこんなもんで麦が育つか分からないが、ぶっちゃけ植物魔法のスキルでも生えないかなと思って、面白半分でやってみた。
一晩経って朝になって、土間に出た母が騒いでいる。
土間の隅に置いたツボから、立派な麦が青々と生えていた。そして
「植物魔法のスキルを習得しました」
「成長促進Lv1を習得しました」
案の定、メッセージが流れてきた。
鑑定のレベルが上がって、スキルの習得方法も見られるようになった。なんらかのスキルを使って、植物の育成を促進して、植物を一定の大きさまで育てると、取得できるようだ。ツボの麦に向かって
「成長促進」
と唱えると、麦は見る見る実を膨らませ、黄金色に色づいた。種から収穫まで、1日とかからなかった。
面白くなって、ツボの土を再び改良し、採れた種を植え、水をやり、光を当て、成長促進をかけると、数時間で倍々ゲームで増えていった。俺が夢中になっている間、家族はそれを固唾を飲んで見守り、やがて村長を呼んできて、気がついたら大勢の大人が小さなあばら家にひしめいていた。
その冬、各家では土魔法を習得し、水魔法と光魔法を使って植物魔法を経て、ツボで麦を栽培するのが大流行した。やがて麦以外の作物でも応用できることが分かり、厳冬の最中に豆やトマトまで出回った。余った作物を村外れに置いておいたら、山の獣がやってきてそれらを食べていた。時々作物を狙った獣を狩って、村の食糧事情はますます潤った。
来年、春になったらやろうと思っていたことが、冬の間に達成されてしまった。
本来冬の間は、干し肉や干し野菜、豆などをかじって過ごすものなのだが、今では食卓にパンや肉や野菜が豊富に並んでいる。これでご飯があれば完璧なんだけどな。いつか米が見つかるといいな、などと呑気に考えていた。
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