第一章(十四)



「それにしてもアリアさんのその恰好、目立っちゃいますねぇ」

 イチの言葉にそれは確かにとアリアも困った顔で自分の格好を見下ろす。

 長いロープに身を包んでいるとはいえ、ひらりと覗く煌びやかなドレスは見るからに上流階級の者だと分かってしまうし、これから逃げるのにも忍ぶのにも全くもって適していない格好である。

「そうだ、アリアの服を用意しようか」

「ったって、ここからじゃ知っている服屋も靴屋も遠いぞ? 行くにしたって、お前の……サガミのあの移動方法だって、そう何回も使えるもんじゃないだろ」

 ワカサが肩を竦めれば、ならとイチが言葉を続ける。

「おれの袖を通してない服、使います? どうせなら女性と分かりにくい方がよいでしょう?」

「ええっ、どうしたのイチ」

「なんだ、たまには気が聞くじゃねぇかと言いたいが、なんかあるんじゃないだろうな」

 サガミとワカサが僅かに驚きとどこか胡散臭げに見てくるのを失礼な! とイチが頬を膨らます。

「ちょっとした、アリアさんの新たな一歩への門出祝いですよ。まあ、男物の服を差し上げて祝いとかあれですけどね」

 そう言いながら、片目ウィンクしてアリアに微笑んだ。

「ありがとう、えっと、イチ」

 さっきまでイチに対してと少しばかり人をからかうところに腹立たしく思っていたものだから、反応がしどろもどろになる。

 そんなアリアの心情などお見通しなのだろう、イチは大して気にすることなく「どういたしまして!」とニコリと笑う。

「なんかイチにしては、珍しい優しさだよね」

「だよなぁ、気味わりぃな」

 そんなにイチの気遣いが不思議で仕方ないのだろうか。サガミとワカサが何か探るように見ている。

「ちょっと、人の親切心に難癖付けないでくださいよ。そうそう、サガミさん」

 憤然とした表情のイチだったが、すぐさまにこやかな表情に変わる。

 いや、にやりとした表情だった。




 

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