第一章(十一)
少し離れたテーブル席へワカサが座ると、サガミ「えーっとね」と、口火を切る。
「紹介するね、こちらはアリア」
言いながらどこかちょっと困った笑顔で、アリアを見てくる。
その表情はさっきはごめんねとでも言いたげなものに見えた。
アリアは気にしてないわとばかりに小さく頭を横にふるうと、すっと席を立って、ワカサに向けて礼をした。
「はじめまして、アリア・オズ・キャンベルと申します。以後、お見知りおきを」
すっとドレスの裾を摘まんでふわりと挨拶するアリアにワカサは一瞬、目を丸く見開いたが同じように立ち上がり短く礼をし名乗り上げた。
「ワカサ・エル・オーエンだ。アンタの横に暢気に座ってるサガミのお目付け役みたいなもんだ」
「? お目付け役?」
「そう、あんた、少しの間で分かったんじゃないか? そいつがとんでもなく暢気で自由人なの」
「…………」
確かに、あの出会いがしらの会話ときたら――と言いそうになるのぐっと飲み込み、思わず片手で口を覆い笑いをこらえる。
そんな二人の会話に、サガミは「えぇっ」と不満気な声を上げた。
「アリア、そんな僕だから連れてきたんだから、笑うの止めてもらえる」
「まだ、笑ってないわ。でも、ワカサさんの言う通り暢気だったんだもの」
「やっぱりな」
呆れた様子のワカサと、ふふっと笑いを思わず漏らしたアリアに、サガミはふむっと見比べて「まあ、二人が息が合ったならいいか」と呟いた。
いいのか、それでとアリアは思わず言いたくなったが。
イチはにこにこと聞き役に徹することにしたようで、会話には加わらない。
「で?」
「でって、何? ワカサ」
「あのなぁ」とぼやいて、ワカサが言葉を続ける。
「あーっと、そのアリアだったか? お嬢様? だよな装いからして。言ってただろう? あんな説明じゃ、大雑把すぎるんだよ。どうしてそのアリアというお嬢様を連れてるんだ」
もっともな疑問である。サガミはというと「そうだよねぇ」とのほほんとした様子で呟き
「うーん、家出なのかなんなのか、判断しにくかったんだけど……なんか悪漢? っぽい人たちに に囲まれてたのを攫ってきただけ、かなぁ」
「はっ」
ワカサの口から、間抜けな声が漏れた。
彼の猫目が丸く見開かれ口は大きくひらいているのを見て、ずいぶん幼い表情だなと、アリアは場違いな感想を持ったのだった。
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