第一章(十)
「あらー。噂をすればですねえ、サガミさん」
「あー、だねぇ。やっほー、ワカサ。遅かったね」
「えっ」
店のドアを開け現れた人物――短い黒髪をあちこちハネさせているワカサと呼ばれた少年は、きっとアリアの横に座るサガミを眼光鋭く睨んだ。
かなり凶悪な目つきである。
らんらんと光る猫目に、アリアは思わず身をすくませた。
「ああああっ?! おいっ、なに暢気に茶なんか飲んでんだ! つか、横の奴なんだ。また拾ってきたのか?!」
横の奴、とはアリアのことを指しているのだろう。
まるで犬猫拾ってきたかのような言い草に、思わずアリアはむっと頬を膨らませる。
「ワカサさん、女の子にその言い方は失礼ですよ」
「イチの言う通りだよ、ワカサ。拾ったんじゃなくてね、連れてきたっていうか、えぇっと……ねぇ? アリア」
「ちょっ、そんな大雑把な経緯の説明でいいの? 彼、凄い睨んでるじゃない! もっとこう、ちゃんとした説明を」
「おい、サガミ」
アリアの言葉を遮るように、視線はサガミに固定したまま、瞳を細めてワカサと呼ばれた少年は言葉を続ける。
「お前、まーたあいつからの面倒ごと引き受けやがったな」
面倒ごととは、なんのことかとアリアは小首を傾げサガミを見て、固まった。
「ワカサ、その話なら今はしないよ。アリアが聞いていても、続ける気?」
その場の温度が数度下がったように、冷たい声だった。
サガミの顔は笑っているのに瞳はあたたかさがない。
アリアは先程まで朗らかに話していた人物とは別人かと疑いたくなった。
驚き固まって動かないアリアと、思わずぐっと呻き黙るワカサの様子に、イチが見兼ねて「まあまあ」と声をかける。
「サガミさんにワカサさんも、アリアさんがびっくりしてますよ。とりあえず紅茶でもいかがですかワカサさん。ほら、美味しいリンゴたっぷりパイの生クリーム添えなんて食べません?」
数十秒、ワカサは眉間に深く皺を寄せて思案した後、はあっと深い息を吐いた。
「食う、サガミ、とりあえず今の状況説明しろ」
そう言葉を続けて、こちらへ歩みを進めてきたのだった。
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