第一章(七)
「あれー? めずらしいねサガミさん。来たかと思えば、女の子連れてるじゃん」
アリアはその声の主の第一声になんとなく、むっとした。
その店は細い裏路地の奥の方にあった。
サガミとアリアが来るのが分かっていたように、開ける前に店のドアががちゃりと開いたかと思えば少年特有の高い声で、先ほどの第一声が辺りに響き渡ったのだ。
にこにこ、いや、ニヤニヤと言った方が正しいか。
そんな表情を浮かべた割烹着姿の色白な少年。
あちこちハネたくせっ毛ある薄桃色の髪を後ろで団子にまとめ、大きな藍色の瞳をきらきらと輝かせてサガミとアリアを交互に見るなり「そうかそうか、ついにサガミさんにも春が来たんだねぇ」と、嬉しそうに呟いている。
「春って、まだ春の季節じゃないと思うよ、イチ」
「あっ、でも、ここの星は二月でもう春のような陽気だよね」とかぼやくサガミに、アリアが袖を引っ張り
「ね、ねぇ、ちょっと! なんかめちゃくちゃ変な誤解されてる気がするんだけど」
誤解といてよとばかりの仕草が、逆に勘違いを深めているのを知らぬアリアである。
イチと呼ばれた少年はにんまりとほほ笑むと
「やだな、一人もんに気を使ってくれてるの? いいよいいよ、気を使わなくって。今日は二人のお祝いに美味しいものご馳走しちゃおうかな! ほら、入って入って」
勝手に解釈して勝手に決めてくイチに呆気にとられるアリアをサガミがにっこり笑って見る。
「まぁ、ご馳走してくれるみたいだから入ろうよ。大丈夫、イチは信頼できる人だよ、ちょっとゴシップ好きの近所の人みたいなところあるけどね」
「……全然大丈夫に聞こえないわよ」
アリアはサガミの言葉に口元をひきつらせると、諦めたようにため息ついて、勇気を固めて店の中へと入っていった。
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