第一章(四)


*****



 細い路地裏を静かに、足早にアリアは駆け抜ける。

「っ、はぁはぁ」

 全速力など、いつ以来だろうか。普段はおしとやかに、慎ましくと制限されていたアリアにとって久しぶり過ぎる運動量だ。

 ただ、懸命に走り抜いた。

 後方からの複数の足音、立ち止まるわけにはいかない。

「っ」


 そして。

 空から、邂逅は訪れる。

 足をもつれさせ思わず転び、追い付かれ、危機一髪のところだった。


 路地裏に追い詰められた、アリアの前。


 たんっ。

 

 クリーム色のロングコートを翻して軽やかに着地する人物。

 その姿にアリアには一瞬、天の助けだろうかと本気で思ってしまったくらいだ。

 しかしながら。

 当然それは、たんなる偶然、通りすがりの人であった。

(……っ、助けじゃないわよね、っていうか)

 見た目が貧弱、特別強そうでも、どう見ても助けに入ったという風でもなかった。

「あれ? こっちの道だったはずなんだけどなぁ、あの喫茶店」

「っ、ちょっ、なに! あなた!」

「君、ここの近くに住んでる人? ちょっと道を尋ねたいんだけど」

「な、なっに、い」

「」

 一人の少女と複数名の男たちが暗い路地で対峙してるという緊迫した状況の中、暢気な声で聞いてくる彼に、アリアは口をぱくぱくとさせる。

 それにその人物――少年はにっこりほほ笑むと、悠長にも名乗ったのだ。

「僕はサガミ・エデル・ラスティ、この星に観光で訪れたんだけど案内お願いできないかな?」

「……はぁぁ?!」

「そのかわり、何か一つ、お礼をするよ」



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