第一章(三)


 意気込んで飛び出したものの、すぐに見つかって取り囲まれているという状況なのだから。さぞ追ってきた彼らには、アリアの逃避行はバカげた反抗に見えているだろう。

 そして、あの彼にも。

「これで満足致しましたか、アリア様」

「……っ」

 やはりこの従者の、トヅカの掌に踊らされていたのだ。薄暗い路地裏は、一歩後ずさると背後は壁だ。

 もう、逃げ場はなかった。

 どれだけ足掻こうと、変えれない悔しさにアリアは唇を噛みしめる。トヅカを睨みつけるも、彼はただ感情のない瞳で見つめ返すだけだ。

 ぐらりと、足元が崩れそうになるのを堪える。


(これでおわるの? 私のきぼうは、みちは)

(いいえ、いいえ! おわれないわ)

(それに。だって)


「うーん、よくわからないけど君、迷子じゃなくて家出だったんだね。迎えがきたなら、僕の後ろから離れてくれないかな? 巻き込まれるのはちょっとさ」

 そう言いながら、黒のキャスケットを深く被ったハニーブラウン色の髪をした青年が、困った笑みを浮かべて振り返る。


(まだ、道はある。彼がいる)


 ほんの偶然の出会いだ。けれど、アリアにとっては充分な希望ある出会いに見えた。

「ある意味、迷子よ。人生のね」

「それはまた、大変な迷子だね」

「……お願い、サガミ」


 助けて。


 少女の小さな囁きに、サガミと呼ばれた青年は小さく嘆息した。


 サガミ・エデル・ラスティ。


 彼は突然、アリアの逃走劇場に飛び入り参加した、通りがかりの人物だった。




 



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