第3話 なっちゃんとレノンの帰り道
「肩に力が入りすぎ。拳を構えるなんて斬新なポーズだね」
レノンに笑われてしまった。
結局のところ、手に入れた写真は一般的なもの。
おちゃらけたレノンの姿もはっきりと写っているし、恐怖心と緊張から変顔を披露するなっちゃんの姿もはっきりと写し出されている。
景品は一つも手に入れることが出来なかったけれどクレーンゲームも堪能してから、ゲームセンターから足を踏み出した頃には既に外は薄暗くなっていた。
人通りの少なくなった大通りを真っ直ぐ進むとやがて、大きな交差点に差し掛かる。
レノンは交差点を渡った先に家がある。
なっちゃんの家は交差点を渡らずに右へ足を進めると、10分ほど進んだ先にあるため、レノンとは交差点の前でお別れである。
「なっちゃん。楽しかった。また遊ぼうね」
笑顔で手を振るレノンの声かけに対して、なっちゃんは苦笑する。
「私も楽しかった。有り難う。気を付けて帰ってね」
また遊ぼうねと口にしたレノンは事故に遭ったことに気づいていないのだろう。
そして、その事故で命を失ってしまったことに気づかぬまま、この世をさ迷う事になるのだろうか。
また遊ぼうねと返事をしてしまえばレノンをこの世に縛り付けてしまう気がして、気を付けて帰ってねと言葉を続ける。
悪霊にならなければよいけどと考えるなっちゃんには霊感がある。
霊と共に行動を共にしたことは今回が初めての事で、高校に入ってから仲良くしてくれていたレノンに、もう会えなくなるのかなと考えたなっちゃんの気分が激しく沈む。
レノンの背中を呆然と見送っていたなっちゃんの肩に、ふと温もりを持った人の手が触れる。
二度肩を叩かれて、背後を振り向いたなっちゃんの視界に焦った様子の初対面の男性の姿が視界に入り込む。
「友人がふざけたポーズを取ってるから写真を撮ったんだけど……」
携帯電話の画面に写し出されている写真には男性の姿と、端っこに小さく写るレノンの姿がある。
男性の差し出した画面には、心霊写真が写し出されていた。
「ごめん。有り難う」
咄嗟に状況を教えてくれた男性に向かって礼を言ったなっちゃんは、同時に身を翻してレノンの元に全速力で駆け寄った。
歩行者用の信号機は赤色。
車が行き交う交差点で、レノンの腕を手に取り力任せに引くとレノンを巻き込む形で背中から地面に倒れこむ。
「レノン、双子のお姉さんか妹さんがいる?」
顔面蒼白となったなっちゃんの問いかけに対して、レノンは小さく頷いた。
「双子の姉が……隣街の学校に通っているけど」
なっちゃんの行動が読めなくて首を傾げて問いかけるレノンに対して、なっちゃんは尚も問いかける。
「仲は?」
なっちゃんの問いかけに対してレノンは即答した。
「いいよ。お揃いの服を買ったり、一緒に出掛けたりしてる」
「レノンも連れてく気だ」
仲が良い妹も一緒に連れていくつもりなのだと、瞬時に悟ったなっちゃんは、事故現場で車の下敷きになっているレノンと良く似た容姿を持つお姉さんの姿を見たから状況を把握する。
対するレノンは事故現場は目撃したものの、車の下敷きになったお姉さんの姿を見ていないから激しく混乱中。
なっちゃんとレノンの元にたどり着いた男子生徒が、携帯電話をレノンの目の前に差し出した。
画面にはふざけたポーズを取る男子生徒の姿と、横断歩道の前に佇み信号機が青色に変わるのを待つレノンの姿が写し出されている。
レノンの背後、少し右寄りに佇むレノンと同じ容姿を持つ幽霊の表情は無。
車が通るタイミングを見計らっているかのように両手を胸元の高さに持ち上げて、レノンの背中に向かって構える幽霊の存在が写し出されていた。
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