第2話 なっちゃんとレノンの帰り道

「え……」

 思わず声を漏らしてしまったなっちゃんの視線が、隣に佇むレノンに移る。

 再び車の下敷きになっているレノンの姿を視界に入れたところで気がついた。レノンの幽霊と話をしていたのだと。


 大きく目を見開いたまま仰向けに横たわるレノンが致命傷を受けていることは簡単に想像することが出来る。

 

「私達にも何か出来ることがあるかな?」

 レノンの目の前には背の高い男性が2名佇んでいる。レノンは小柄だから車の下敷きになっている自分の姿が見えていないのだろうか。

 心配そうな表情をするレノンは事故現場に向かって足を進めようとする。


「知識が豊富な救急隊員に任せた方がいいよ」

 レノンに事故現場を見せてはいけないような気がして、咄嗟に声をかけてしまった。

 幽霊をみたら極力、視界に入れないように気を付けていたけれども、今回は既に言葉を交わしてしまっているため後の祭りである。

 今更レノンの存在に気づいていないふりをすることも出来ずに会話を続けざるおえない状況である。


「それもそうね。私達が出来ることは無いか。寄り道をするんだよね。カラオケに行く? それともゲームセンター? 飲食店でもいいね」

 穏やかな口調で言葉を続けるレノンの問いかけを耳にして、なっちゃんは動揺を見せる。

 

「寄り道……そうだね。どうしよう」

 あまりにもレノンが鮮明だったから霊であると気づかなかったため、久しぶりに寄り道をしようかなと答えてしまっていた。

 しかし、霊だと分かった今の素直な気持ちはレノンと二人きりになるのは怖い。

 寄り道をせずに真っ直ぐ家に帰ろうと急に意見をひるがえしたら、レノンはどのような反応を示すだろうか。

 

「カラオケに行こうか?」

 レノンは寄り道をする気満々である。


「喉の調子が悪いからカラオケはやめておこう」

 幽霊であると分かったため、二人きりになるのは怖い。

 家に一直線に帰ろうと言う勇気も出ずに、なっちゃんは冷や汗を流す。

 飲食店に行った場合、個室に案内されてしまったらレノンと二人きりになってしまうと考えたなっちゃんの脳裏にゲームセンターが過る。


「ゲームセンターに行こうよ」

 ゲームセンターには帰宅途中の沢山の生徒達がいる。

 人が大勢いれば、恐怖心も少しは鎮まるだろうかと考えたなっちゃんに対して、レノンは笑顔を見せる。


「久々だね。一緒にプリクラを取ろうよ」

 瞬く間にテンションを上げたレノンは明るい口調でプリクラを撮ろうよと考えを口にしたけれども、なっちゃんは首を左右に振る。

 心霊写真を咄嗟に思い浮かべてしまったなっちゃんは首を左右に振る素振りを見せた。

「今日は化粧をしていないし寝起きで顔が浮腫むくんでいるからプリクラはちょっと、クレーンゲームをやろうよ」

 レノンをクレーンゲームに誘うなっちゃんは背後を振り向いた。


 レノンは背後にいたはずなのに気づけばレノンの姿がない。

 周囲を見渡す素振りを見せたなっちゃんは、既にプリクラを撮るために箱の中に移動したレノンの姿を視界に入れる。

 上半身だけを覗かせてなっちゃんに向かって手招きをするレノンは爽やかな笑顔を浮かべている。

 

 レノンと二人でプリクラを撮る事になる。

 既に個室に移動してしまっているレノンに今更、プリクラを撮るのは嫌だと断ることは出来ない状況の中でなっちゃんは恐る恐る箱の中に足を踏み入れる。

 

 既にお金は投入された後だった。

 設定を行ってから筐体きょうたいに内蔵されたカメラに向かって身構える。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る