帰り道のちょっとした怖い話

しなきしみ

第1話 なっちゃんとレノンの帰り道

 終礼しゅうれいが終わり慌ただしくなった校内で、机に突っ伏して居眠りをしていた女子生徒が目を覚ます。

 腰まである長い茶色の髪の毛と、濃い茶色の瞳が印象的な女子生徒である。


「クラスメートが教室から出て室内が静寂に包まれても尚、居眠りを続けているなんて、なっちゃんらしいね」

 爽やかな笑顔と穏やかな口調。和やかな雰囲気を醸し出す女子生徒は肩に僅かにかかる長さで切り揃えられた黒髪と、黒色の瞳が印象的な女子生徒である。

 なっちゃんと呼ばれた女子生徒は寝ぼけ眼のまま、呆然と周囲を見渡す素振りを見せる。

 頭が覚醒しきっていないのだろう。

 数秒間の沈黙後、大きく目を見開いたなっちゃんは盛大にため息を吐き出した。

 

「うわぁ……まじか。寝過ごしたし」

 六時間目の授業が開始して早々、教師が怒り狂っていることにも気づかずに深い眠りについてしまった。

 ほんの少し机に突っ伏すつもりだったのに、気づいたら帰宅する時間になっていた。

 なっちゃんは現在の時刻を確認して唖然とする。


「高槻先生怒ってたよ。授業中に寝ちゃだめだよ」

 先生に怒られてもなお熟睡していたなっちゃんの姿を思い浮かべて苦笑する友人の名前はレノン。


「全く気づかなかった。昨夜は夜遅くまで起きていたから……」

 頭を抱えるなっちゃんは昨夜遅くまで起きていたため寝不足だった。

 普段は授業中に居眠りをすることのないなっちゃんは、授業中に熟睡してしまったことを激しく後悔する。

 

「一先ず気を取り直して帰ろうか。寄り道する?」

 落ち込む友人に対して気を取り直してと言葉を続けたレノンは鞄を手に取り教室を出て正面玄関に向かう。

 

「寄り道かぁ」

 帰り道の道中に飲食店やゲームセンターがある。

 

「久しぶりに寄り道しようかな」

 大勢の生徒達で賑わうゲームセンター内を思い浮かべつつ、窮屈そうだなと想像するなっちゃんはか細い声で呟いた。

 正門を抜けて学校敷地内から足を踏み出すと、すぐに交通量の多い大きな交差点に差し掛かる。

 普段から人通りの激しい道路ではあるものの、今日はやけに人の数が多い気がする。

 周囲を埋め尽くす人の数。四方八方から聞こえる人々の声が重なりあって、何を言っているのか分からないほど騒がしい。


 遠くで聞こえていた救急車のサイレンが、瞬く間に近づき学校正門前の交差点に続々と到着する。

 

「何があったんですか?」

 自分よりも背丈の高い大人達の背中が視界を遮っているため状況が分からない。

 側に佇む背の高い男性に声をかけると、すぐに返事があった。


「多重事故がおこって、複数の車が歩道に乗り上げたらしい。数名の学生さんが車の下敷きになっているらしいよ」

 普段は歩道を行き交う人々が事故を目撃して足を止めた。

 何とか車の下敷きになった生徒達を引きずり出そうとして、大人数で車を持ち上げているらしい。

 

 救急隊員が到着したため、瞬く間に開けた視線の先。

 乗り上げたタイヤが、レノンの首を押し潰していた。

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