第41話 いざバーベキュー
服を選び終え、モールの出口に向かっている時だった。
(あれ?)
携帯端末のようなものが並んでいる、ポップな売り場が目についた。
近づいて説明を見てみれば、どうやらゲーム売り場のようだ。
「って、ゲームあるんだ!」
一瞬驚いたものの、すぐに何もおかしくないと気付く。クラシックな生活をしているからつい忘れがちだが、ここは恐らく南雲新菜の世界よりも未来なのだ。ゲームがあって当然だし、何ならもっと高性能なものがあっても不思議ではない。
「それは庶民の好むものだ。クモイ家のようなお家柄の人間には相応しくない」
そうでしたね。この世界、上流階級はあえて古めかしい生活を好むんでしたね。文明の恩恵を受けている人ほど、自然を極端に賛美するのは、この世界でも変わらないようだ。
(でも、欲しいなぁ……)
最近は起きていられる時間が長くなった分、結構暇なのだ。
値段を見る。
(……新型のPS5かな?)
庶民の娯楽と言うなら、値段も庶民らしくしてほしい。
業務用の精肉店で肉の塊やその他を買い揃え、いよいよバーベキューのスタートだ。ちなみに、買って来た軽装を身に着けて出てきた私に、WBの皆からは歓声が上がった。その様子に、マックスが渋い顔をしていたけれど。
「大丈夫なのか?」
金串に野菜や肉を刺している私の手元を、マックスは落ち着かない様子で見つめている。
「そんな鋭利なものを手にして、もしも刺さりでもしたら」
「そうはならな……あ痛っ!」
「! ニーナ!」
マックスは慌てて私の手から金串を取り上げ、私の手を見る。
「傷は……、ないか」
ほっと息をつくマックスに、私は苦笑する。
「大袈裟だよ。そんな怪我するような力で刺してないし」
「『痛い』と悲鳴を上げただろう。いいからお前はそこで控えておけ」
明らかにマックスが声を掛けたから、集中を欠いた結果なんですが?
「また仲間外れにする」
「そうではない」
「マックスいちいち口うるさい。ちょっと放っておいて」
「ニーナ!」
私が作ったお手本を元に、WBたちも手に手に金串と食材を取り、形を作る。
「ニーナさん」
イギーが出来たものを私に見せる。同じ姿のイヴォンと並び、双子のように。
「こんな感じでいかがですか?」
「わ、すごく上手!」
さすが手先が器用なイスキロトムス型だ。二人が作ったものは、食品サンプルかと思うくらい形が整っている。私が褒めると、イギーは嬉しそうに歯を見せて笑い、イヴォンは控えめにはにかんだ。
「料理って、初めて……」
ボソリと低い声でつぶやいたのは、ウチで唯一の鳥型WBのヒースだ。
「ヒース、楽しい?」
口端を上げているヒースに言うと、彼はコクリと頷いた。
「ん……、肉をズグッと刺すときの手ごたえ、嫌いじゃない」
(ちょっと怖いこと言ってる)
彼の型名はすごく長くて、なんとかかんとかサンデルシと、言っていた気がする。サンデルシしか覚えてない。家で生活する分には名前さえ覚えていればいいんだけど、闘技場にエントリーする時は型名も入力しなきゃいけないので、ちゃんと記憶しておかなければ。
「ねぇ、ニーナ」
「何、ヒース?」
「闘技場、飛行型が必要な時はいつでも呼んで。僕、そのために毎日鍛えてるから」
「うん、ありがとう」
「本当に呼んで」
ヒースの赤い目がきらりと光る。
「訓練ばかりじゃ、つまらないよ。訓練は実践のためにすることだから。ちゃんと僕を、仕合に出して」
意外と好戦的!?
「ヒースは怖くないの? その、あそこに出れば殺されちゃう可能性もあるわけだよ?」
「怖くないわけじゃないよ。だけど」
ヒースは金串で、大きめの肉を勢いよく貫く。
「自分の力を確認できるのは、真の戦いの場だけだから」
「そっ、か……」
野球少年が、練習を毎日しているのに試合ではベンチウォーマーになっている、あの感覚なのだろうか。たとえ体を壊しても、力を試したいと思うものだろうか。
(ディルクだけじゃないんだ。考えてみればWBって元々戦争用に生み出された存在だし、程度は違えどみんなそう言う気持ち持ってるのかな)
「ニーナ」
マックスの声に顔を上げる。
「そろそろ材料がなくなるぞ」
「えっ?」
見ればトレイの上には、串に刺した肉と野菜がピラミッドのように積み上げられている。
「いつの間にこんな量に!」
「みんなでやれば、一瞬っしょ!」
陽キャアルマジロのゼブロンが、同型のゲイルとテトスの肩に手を回し、ニコニコ笑ってる。ん? 肩? その位置、肩でいいんだよね? 甲皮の上だからよく分からないや。
バーベキューコンロに火を起こし、私たちは焼き始める。
「いい匂い」
みんなが鼻をうごめかせ、目を輝かせる。
「調理してる最中って、こんないい匂いするモンなんだ。ヤバいっしょ!」
「えぇ、本当にぃ~。普段の缶の食事よりぃ~、ガツンと来ますねぇ~」
アルマジロたちがキャッキャしているのを、私は微笑ましく眺めていた。
「そろそろ食えるのではないか?」
巨大な熊のようなヴィンセントが、金串に手を伸ばす。ちょいとひっくり返すが、遠目にもまだ表面を焙っただけに見える。
「中まで火が通ってないと思うよ?」
「そうか? だが……」
ヴィンセントは鋭い目つきとなり口周りをベロンと舐める。
「……旨そうだ」
(おっふぉ!)
野生丸出しのヴィンセントに、気持ちが昂る。よきケモっぷりだ。
(彼らは人工生命体のはずだけど、やっぱり中身に獣的な部分を残しているのかな?)
肉、食べ慣れない人が食べるとお腹壊すし、ずっと調理済みの缶詰やレトルトパウチを食べて来た彼らの胃には刺激が強そうだけど。
(牛刺しや、レアステーキってのもあるくらいだから大丈夫かなぁ……)
「じゃあ、まず私が試しに食べてみるね」
そう言って串を手に取ると、マックスが慌てて私を制止した。
「ニーナ!」
「……またぁ?」
「『また』じゃない。どうしてお前はそう、己の身を顧みんのだ。腹を壊しでもしたらどうする。まずは俺が毒見をする」
失礼だな。その串、私が刺したんだが?
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