第23話 聖杯
男に言われた唐突な救世主という言葉に驚く。どう考えてもバートの文書に自分の事が書いてあったとしか思えないが、何を書かれたらそうなるのかわからない。
「そ、そんな、大層な者ではありません」
まずは文書と
「大執事が送ってきたという事は、余程確度が高いんだろう」
内容はわからないが、自分達を売ったり悪い様にする内容ではないと思える。ひと芝居打つ必要があるなら事前に共有して欲しかったが、今そんな事を考えている余裕はなかった。
「それは、どうでしょう。ただうまく行く確率は高いと思っています」
こうなれば詐欺師まがいの勝負に打って出るしかない。
「そうかね。君は司祭の私に何を求む」
早々に核心をついた質問を投げられた。だがどことなく協力的に感じる今、ここは素直に言った方が良いように思える。
「この教会が管理する、古文書があれば閲覧させて頂けないでしょうか」
「なるほど。なるほど。確かに大執事の手紙と一致しているな」
司祭を名乗る男は少し考え込むような素振りを見せる。
「この教会には古文書はいくつか存在している。だが部外者の君に見せることは、教会の教えに反している。わかるか。大執事は命懸けで君にこの文書を託しているのだよ」
引いていた血の気が一気に戻るような気がした。やはりバートは味方してくれていたのだ。それどころか、この男に命懸けと言わせるほどの文書を自分に託してくれていたのだ。
司祭は続けた。
「だがね。私はまだ君と心中しようと思うほど信頼をしていない。ここで古文書を見せたことが漏れれば、司祭である私でさえ命は無いからね」
含みを持つ言い方に感じる。信頼を得るための行動を求めているのだろうか。
「ところで君は教会に所属する気はあるのかね」
「いえ、まだ教会のことをちゃんと理解できておらず。検討したいと思っています」
「そうか。だがね、先も言った通り部外者には閲覧させるわけにはいかないのだよ。そこで私からの提案なんだが、形式だけでも教会に所属しておくというのはどうかね」
「形式、と言いますと」
「うん、信徒になる際に皆がやる簡単な儀式みたいなものだよ。対して時間もかからない」
「それをやれば直ぐに閲覧させてもらえるんですか」
「本来は無理さ。だが君は特別だ。何せ大執事の遣いだからな」
何か嫌な予感がしていた。だがそれ以外の方法も見つかっていない。
「わかりました。お願いします」
「おお、そうか。では準備させよう」
そう言うと、司祭は立ち上がり大きな声で人を呼びつける。間髪を入れずに先ほどの長身の男が入ってきた。きっと扉の前で待っていたであろう。男に向かって司祭は聖杯の準備をするよう指示を出した。
男に連れられ、1階の聖堂に通される。最前列の椅子に座り待つと、男は赤いローブを着た2人の信徒を連れて戻ってきた。1人は盆を手に抱えており、その上には金色に光る聖杯が乗せられている。
バートに聞いた話を思い出していた。教会はこの儀式を通して信徒を洗脳をしていると。どのくらいの効果なのか。1度飲むだけでも効果が出るのか。
そうこう考えているうちに、聖杯は目の前に差し出されていた。他に選択の余地もなく、それを手に取った。聖杯は想像以上に重く、メッキなどではないように思える。中を覗くと透明な液体がキラキラと聖杯の金色を反射させていた。
3人の男の目線がこちらに向けられている。こんなことなら飲むふりをする
飲むのを
バートは途中から飲むのを辞めたと言っていた。つまり1度くらいならば問題ないはずだ。
恐る恐る、聖杯を口元に近づける。ひんやりとした金属が唇に触れ、そしてひと口の水が口の中に流れ込む。水に味はなく、渇いていた喉を潤しながら胃に流れ落ちていく。何の変化もない。そのまま聖杯を傾け、残っている水を飲み干した。
盆が差し出されるので持っている聖杯を置く。
「目を閉じて祈りなさい」
男の声で信徒達は跪き、目を閉じる。見よう見まねで跪き目を閉じた。赤いガラス窓から降り注ぐ光が
暫く目を
廊下に見える非常灯の灯りを頼りに、朦朧とした意識の中、歩みを進めた。
どこへ向かっているのか、何もわからないまま、暗い病院の廊下をゆっくりと進む。点滴スタンドの軋む音だけがギシギシと響いていた。
突然強烈な頭痛に襲われた。そして低い声が耳元で語りかけてくる。
「レベッカを
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