第24話 命懸けの攻防
「レベッカを捕えろ」
その声が何度も頭の中で鳴り響く。あまりの頭痛に
酷い吐き気がする。フラフラと進む歩みを止めて、その場に嘔吐した。
「こいつ平気なんですか」
「聖杯の儀を終えて体調を崩す奴も稀にいる。すぐ慣れるから問題ない」
声の方を見ようと試みるが、視界が歪みそのまま転んでしまった。
「おい、しっかりしろ。この先で違いないか」
顔は見えないが、長身の男の声だとわかる。肩を軽く叩かれ、目が覚めたようにハッとする。意識を保つだけで精一杯だった。浅い眠りにみる夢のように、自分の感覚がはっきりと感じられない。
手を動かすと、ザラザラとした物が触れる。ここがどこかもわからない。1つわかることは、立ち上がり進まなくてはならないことだ。
男の手を借りてその場で立ち上がり前を見た。視界には大柄の男と海岸線が見える。大柄の男には見覚えがあった。だがどこで見たのか、思い出せない。
「さあ、どこにいるのか言え」
「舟の中にいます」
自分の意思に反して、言葉が出る。何の話だろうか。大柄の男を先頭に3人で砂浜を進んでいく。正面には船着場が見えている。男の手にはスレッジハンマーが握られていた。あれは、確かレベッカの家に押し入ろうとしていた男が持っていたものだ。
この男はあの時みた1人か。再びレベッカを捕まえる為に派遣されたようだ。
「どの舟にいる」
長身の男は自分の腕を支えながら質問を投げかける。
「レベッカは」
力を振り絞り、1
「あれか」
支えていた手を放され、その場にへたり込む。
チャンスはここしか無い。朦朧とする意識の中で、ナイフを探すが、腰に付けていた麻袋が無くなっていた。
大きく深呼吸をして立ち上がる。近くの砂浜には瓦礫や木片が散らばっている。ゆっくりと進み、20cm程の
長身の男は立ち止まり手前から漁船を見上げている。大男は桟橋を歩いている。長身の男を通り抜け、桟橋を進む。そして漁船に片足をかける大男の左の喉に、目一杯の力で木の杭を突き立てた。
破れたホースから水が噴き出るように、真っ赤な血が宙を舞う。ごぼごぼと声にならない声を出しながら、目を見開いた大男はその場に倒れ、桟橋と漁船の隙間から海に落ちた。
振り返るが長身の男からは、舟が邪魔で見えていない。
杭は無くなったが戦うしかない。
桟橋から砂浜に戻ろうとすると、長身の男は鬼の形相でこちらに迫っていた。
「貴様、何故命令に背いた」
男の手には短い剣が握られている。
驚き、桟橋へ引き返す。桟橋には運良くスレッジハンマーが転がっていた。急いで拾い上げ、男に向かって振り回す。怯んだ男を見て更に1歩踏み出した。
男はすっと下がり距離を取っている。少しずつ男に詰め寄り、間合いに入ったところで踏み込みながらハンマーを振る。その瞬間、男は右手で持った剣を前に突き出した。剣はハンマーを持っている右腕の上腕を切り裂いた。
「うわああぁ!」
思わず大声で叫び、バタバタと後退した。立場が逆転し今度は男がジリジリと詰め寄ってくる。片手だけでは重いハンマーは振れず、持ち上げることで精一杯だった。
その時、男の後ろで動く影を見た。影の方を見ないように男を注視し、威嚇する声を上げる。
「うおぉぉ!」
男は意に介さない顔で、また1歩こちらに近づいた。そしてその瞬間、男は後ろから伸びた腕に握られたナイフで首を掻き切られる。男は剣を放り出し首を抑えたまま、前に倒れ込んだ。
そこには真っ赤なナイフを握ったレベッカの姿があった。
ハンマーを放り、彼女と抱き合った。
男は少しの間、悶えていたが、すぐに動かなくなった。
「一体何があったの」
「わかりません。聖杯の水を飲まされてその後の記憶が無いんです」
「なんで聖杯の水なんか飲んだのよ」
「そうするしか古文書を見せてもらえる方法が無くて」
「で、見せてもらったの」
「いや見せてもらってはいないです」
「ちょっと。騙されてるじゃない」
「そうみたいですね。でもこれでやっと見れるかもしれません」
「どういう事」
「良いですか、聞いてください」
そうして、咄嗟に思いついた案をレベッカに伝えた。
「悪く無いわ。うん。それなら成功しそう。それに何よりあの下衆オヤジをぶち殺せる」
「殺すのは最終手段ですよ。基本は温厚に」
「あんた今さっき殺されかけたの忘れたの?そんな生半可な気持ちじゃダメ。やるなら徹底的によ」
「まあ、はい、確かにそうですね」
夕方になる頃、再び教会に戻ってきた。レベッカと目を合わせ、お互い黙って頷く。レベッカは後ろ手にロープで縛られた状態だ。
教会の扉を開き中に入る。以前よりも静かに感じた。右手の階段を登ると、ローブ姿の男が1人廊下を歩いていた。
「何をしている」
敢えて機械的に答える。
「レベッカを捕らえた。司祭の元へ連れて行く」
「司祭は司祭館に戻られた。教会の裏手に行け」
そう言い男は立ち去った。都合がいい。そこにはきっと司祭だけしかいないはず。
言われた通り教会を出て裏手に周ると、数10m離れた場所に小さな建物が建っていた。ノックをし、出てくるのを待つが誰も出てこない。
仕方なくノブを捻ると戸は普通に開かれた。
ごくりと唾を飲み込み建物に入っていく。
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