第17話 老人の家
町外れの家の
お尋ね者になっていたら訪問するのはリスクだが、屋内に寝泊まりしたいという欲も確かにある。レベッカと目を合わすと、彼女も同じ思いを持っている様に感じた。
何も会話しないまま、ゆっくりと街道を進み、気がつけば家の前まで来ていた。どうしようかと決めあぐねて立ち尽くしていると、突然家の扉が開かれた。
そこにはえんじ色の
「入れ」
そう言って老人は家の中へ入って行く。罠だったらどうするのか。そんなことを思いながらも老人のあまりにあっさりした態度に、どこか安心感を覚え、素直に従った。
部屋は広く、大きな丸いテーブルを中心に綺麗な家具が並んでいる。床には
レベッカを見ると、彼女もその内装の豪華さに見惚れている。
「座ったらどうだ」
部屋の入り口に立ったままの2人に対し、老人はキッチンから声をかけた。
2人を気にする素振りも見せずカップの飲み物を飲む老人を見て、手元のカップに目を向けた。
きっと毒は入っていないだろう。分かってはいるものの一抹の不安がある。レベッカを見ると、こちらが飲むのを期待しじっと見つめていた。意を決して口にすると、カップにお似合いな茶葉の香りが口中に広がる。少し癖のある味ではあるが、それは紅茶だった。チラリとレベッカを見て頷き、問題ないことを伝える。その様子を確認して、レベッカもカップを手に取った。
茶の影響か、はたまたリッチな空間の作用か、緊張は少し
「あんたは誰なの。ただの親切な老人じゃないでしょ」
「中々の物言いだな、お嬢さん。私はこの家に住む親切な老人だよ」
老人は皮肉を込めた言い方をして、肩をすくめた。
「ごめん。だけど、その。老人ではあるでしょ」
「いいえ、結構だよ。少しからかっただけさ。もちろん私は老人だし、君たちが想像しているように、ただ道端にいた見ず知らずの人間を招き入れたわけでもない」
カップの紅茶を一口飲み老人は続ける。
「私は教会と関わりのある人間だし、君たちがお尋ね者になっていることも知っている。けれども茶に毒が入っていなかったことからもわかるように、君たちをどうこうしようという気はないよ」
「私たちはお尋ね者になっているんですか」
「そりゃ殺しをしているんだ。当然、教会の内部には伝わっているよ。だが幸運にも君たちが
「その、どうして色々教えてくださるんですか。私たちを招き入れたあなたの目的は何ですか」
「君はせっかちだね。
行動と発言は一致しているが、どうにも信じきれなかった。本当に何の狙いもなく招き入れたのだろうか。探るように質問を続けた。
「では親切に甘えて質問させて下さい。私たちが、殺めてしまった人が特別と言うのはどう言う意味ですか」
「君たちは彼らを見て何も感じなかったかね」
「いえ。まるで操られている様な感じで、人間味を感じませんでした。機械的に動いている様な」
「ふむ。その通りだよ。彼らは魔術によって動いている
「魔術…」
想像はしていた。それでもどこかで実在するわけないと言う思いが
だが老人の話ぶりから、それが現実だと実感し始めてしまった今、体の奥底から湧き出るような不安感に苛まれていた。
「何じゃ。そこからか。もう少し色々
露骨に失望した様子の老人が続ける。
「お前たちは今、何を求む」
「平穏な暮らしよ」
考える隙もなくレベッカが答えた。それを聞き老人は深くため息をつく。
「それは叶わない」
「どうしてよ」
「この世界は滅びゆく運命だからじゃ」
レベッカは何か言い返そうと口を開いたまま、言葉を失っている。世界が滅ぶ。それはゲームや物語でしか聞いたことのない
「何故、滅ぶのですか」
「経典は読んでいないか。この世界の創造主が新しい世界を作るためじゃ。もう十分な生贄は集まっている」
「生贄って」
「この世界に生きる全ての人じゃ」
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