第14話 日記
『※翻訳できない部分は「━」と記す。
・再び赤い世界に閉じ込められた。最初に見た崩れた教会とは異なる、大きな教会を見つけた。外では大勢が集会をしている。2人の赤いローブの男が離れたので後を追う。
・赤ローブは、町で一晩過ごした後に森の方へ向かった。自分も後を追うが、やはり寝ないで過ごすのは ━ だ。
・何と言うことだ。漁村の家から人を連れ出し、私のすぐ目の前で首を落とした。こんなの神に仕える人間の行いではない。見つからない様にこの ━ から抜け出す必要がある。
・赤ローブを見失ったが、━ からは離れることができた。ここはどこか分からない。
・眠っても、世界から離脱していない。遂に赤い世界に閉じ込められた。━ できる場所を探す必要がある。
・森で赤ローブに尋問された。家を聞かれたが、まだ頭と体を離れ離れにされたく無かったので、手に取った石で殴り倒した。もう1人も腰を抜かしていたがやるしか無かった。主よ、母よ。私を許してください。
・川を渡り、森に遺体を隠した。1人分の服は貰うことにした。この近くにも赤い集団の集会所がある。仲間のフリをして参加しよう。
・"マルダの信者か"と聞かれた。わからなかったが、そうだと言うと何故か歓迎された。経典を借りることに成功した。
・━ だ。何故なら彼らは我々の神を崇めていない。何か奇妙な生き物を熱心に崇めている。経典も当然バイブルと全く異なる。コーランやスートラとも異なる。
・マルダの教会に通って久しい。作法は身につけたが、心は少しも変わらない。彼らが崇拝するのは邪悪なものだ。司祭の部屋にある、書物に詳しい情報があるようだ。
・神よ。この悪夢から目を覚させてください。この世のものではない悪魔を見た。犬の様だが犬ではない。生き物かどうかもわからない。北にあった集落は丸ごと無くなってしまった。人が生きながら食われる、あんな光景を見たく無かった。
・何とか司祭の書物を持ち出す事が出来たが、もう教会へは戻れない。山へ向かう。
・
・遠出をする。湖に捨てても良かったが、未来の誰かのために書物は残すことにした。漁村の南にある森の奥、いつの日かに信者2人を埋葬したあの場所の近く。石のスタチューの中に置く。
・久しぶりにペンを持つ。英語ももうほとんど書けない。私は確かに、かつて違う世界にいた。私が信じるものは主のみ。本当の神を失うくらいなら、自ら命を断ち、主の元へ行けることを願う。アーメン。』
元の日記もそこで終わっていた。日記の後半では顕著に文字が下手になっている。記憶が失われているのだろうか。
転記したのは全体の5分の1にも満たない。レベッカにどれだけ伝わるかはわからないが、一度この内容を元に会話をした方が良い。もしかすると化け物の話などは噂程度には知っているかもしれない。
半信半疑に受け止めても衝撃的な内容であったが、自分にとって最も恐ろしいのは、元の世界の記憶などを失ってしまうかもしれないと言うことだった。現に、どちらが真実なのか、自分でも少し区別できなくなって来ている。それに加えて、この世界、日記の男の言葉を借りるならば"The Red World"にいる間はずっと自分の名前が思い出せていない。
夕方になり幾つかの山菜と、譲ってもらったらしい干し肉を持って帰ったレベッカに転記した日記を共有した。
「"犬の悪魔"と言うのは見たことも聞いたこともないわ。けど悪魔がいるという事実は、きっとそう。湖での事だってあるわけだし」
「他の部分はどうですか」
「教団の奴らが漁村の人を処刑するのは本当よ。スクローだけじゃなく、どこの町でも同じ様なことは起きているわ。だからこの日記も多分間違っていない」
「この司祭と呼ばれる人のことは何か知っていますか。以前マルダの酒場で、司祭の事を言っていた気がしますが」
「ええ。私が知ってるのはスクローの西に駐屯してる下衆オヤジよ。でも、多分ここに書いてあるのは別人ね。マルダの司祭はこの辺りを
「なるほど」
「で、どうするの」
「確かめたいことがあります。スクローの南の森。日記の男が隠したと言う書物を探しに行きたいです」
「そうね。じゃあ準備しましょう」
レベッカは相変わらず話が早くて助かった。
翌日にはホセの住人にスクローへの行き方を教えてもらったが、やはり来た道を戻るしかないらしい。山の南から湖を反時計回りに迂回するルートは開拓されていないらしく、どんなリスクがあるか分からないとのことだった。
数日分の食料と、いくつかの道具を持ち運べる様に袋に詰めて、明日の出発に備えた。
ホセに来て5度目の朝は、初めてレベッカよりも早く目覚めた。隣の簡易的な寝床をそっと覗き込むと、いつもの強気な性格の片鱗も見えない、安らかな寝顔がそこにあった。
高まる心音を咎めるかの如く、遠くでカツーンと石を打った様な音が聞こえる。落石だろうか。静かな山の朝に、ガラガラと音が鳴り響いた。音が止み、そっと入り口の戸を開けて山道を覗き込むと、
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