第十四話 真の世界

「……そ、そんな事が……」


俺は、「坊ノ岬沖海戦」という物を聞き、驚愕した。

まさか、あの大和が沈むとは……しかも、航空機に……。

敗戦したことの無い、第二次世界大戦を経験したことのない彼にとって、それはあまりにも信じ難い事だった。


「ま、坊ノ岬沖海戦って坊ノ岬沖くらいで開戦したから俺が呼んでるだけで、本当の名前はしらん。沖縄開戦とか?」


「そ、そうなのか……っていうか、異世界だから何でもありかと思っていたからそこまで驚かなかったが、お前はなんでこの世界にこれたんだ?ってか世界線ってなんだ?」


「まぁ、教えてやってもいいが、コユキの方がよく知ってる。どうせお前今夜コユキと飯食うだろう?そん時ききゃあいい」


「コユキ……なんでお前が今夜飯食うってしってる?」


「俺も水晶持ってるからな」


そう言い、もう一人の俺は拳くらいの水晶をポケットから取り出した。


「まぁ、俺が言いたいことはコレくらいだ。後はなんか聞くことあるか?」


俺は少し考える


「……子供は居るのか?雪那との」


「あぁ、一人の息子が。ひかるだ。ほら見ろ」


もう一人の俺は胸ポケットから1枚の写真を取り出した。

そこには、晃を抱いた雪那の写真だった。


「……可愛いな」


「だろ?」


俺達は共に微笑んだ。

世界線違えど、これは俺の子同然なのか……雪那との……いやいやいやいや!別に俺は雪那の事好きじゃないし……まぁ、こんな可愛い息子が出来たら幸せだろうな。

俺はボーっとその写真を眺めた。


「あ、もうこんな時間。翔様、そろそろ戻りましょう」


カスミが水晶を見ながらそう言った。

水晶には時計が移され、秒単位で針がカチカチと動いていた。


「あ、あぁ分かった。じゃあな。俺」


「あぁまたな」


そう言い、俺達は艦長室、ボロボロになった戦艦大和を出た。

そして、少なからず俺は、この世界の真相に近づきつつあった。



目の前の長机には色とりどりとした食べ物が置いてあった。

マグロのような刺身や寿司などの魚類、生姜焼きや肉類、野菜も様々な料理があった。


俺は唾を飲む。

この数日間……ずっと質素な食べ物しか食えてなかったからな……。


「あら、貴方様、お食べになりませんの?」


俺が座り長い机を挟んだ前目のコユキがそう問う。


「あ、い、いいのなら……いただきます」


俺は手を合わし、箸を手に取る。

そして刺身を醤油につけ、一口食べた。


「うっっまっ!」


柔らかく、それに反して噛み応えがある食感に、濃くも薄くも、丁度いい味の醤油が絡み合い、それはまさに「鬼に金棒」である。


「うふふ、貴方様が喜んでくれて嬉しいてすわ〜。この刺身、今回はわたくしが捌きましたのよ〜」


「へぇ〜凄いな。こんな上手く料理が出来るのか?」


「勿論です!貴方様の為にたっくさん練習したのですよ?」


コユキの頭の中に上手く裁けずミンチになった犠牲のマグロみたいな魚や羊みたいな肉が過る。

その中、俺は聞きたいことを一つ思い出した。


「あ、そうだコユキさま……さん。世界線・・・って一体何なんですか?」


「ッ……!?」

その時、コユキの顔が驚きの表情に変わった。


「……貴方様、その事を知りたければ敬語をお辞めになられますか?」


「あ、は……分かった」


「……分かったわ。世界線、一体どこでそんな事を知ったのかは知りませんが、お話しましょう。この世界は、正規・・の世界線から一番かけ離れた世界です。わかりやすく言えば硬貨の表裏。そして正規の世界線とは、可能性・・・から現れる世界線の主軸となる世界。可能性から現れる世界は主軸の正規の世界線が可能性を創れば創られる。つまり架空の物語が実現した世界……っということになりましょう」



「……?……??」


イマイチ分からない。

一体どういう事だ? 

その顔に気付いたコユキはもっとわかりやすく答えを言った。


「えー、つまりこの時この瞬間、誰が死ぬ。そしてその親族は悲しみ、「もっと生きて欲しかった……」っと、願いとして可能性を創造する」


「あーなんとなく分かった」


つまり、桜だな。

木から枝が生えて、その枝に更につぼみができる。そして咲く。

つまりはそう言うことか。


「それで、最近物騒な事が増えてきましてねぇ。まったく。あの愚者共は何に対して怨念を抱いているのやら」


コユキは目を細め横を見た。


「……?」


「あ、おっと。関係ない事を貴方様に申すところでした。すみません」


「いや、別にいいが……なんのことだ?世界線繋がりなら教えてほしい」


「…………」


コユキは目をつむり考える。


「いいでしょう。その前に、貴方様に一つ。カスミから聞いたでしょうが、何にしたしますか?まぁ、カスミがどのように申したのかは知りませぬが、今一度、ご確認を。一つ、私の婿に入る。二つ、私の婿に入る。三つ、私の……」


「ちょっとまて!選択肢が選択肢じゃないんだが!?」


「あらあら、私は貴方様の事を本望で好いておりますのよ?とても可愛らしく逞しいそのお姿、何度見ても惚れ直してしまいます……♡」


俺の体を舐め回すように見るコユキに、俺は少し引き気味であった。


「それに、私はまだ生娘であります。さぁ、私の初めてを奪って♡♡」


コユキは膨らみを見せるように両手を広げる。

着物が崩れ、片肌が現れる。


「ちょ、ちょっと待て待て待て!」


俺は両手で目を隠し後ずさる。


「話が違うだろ?!今は世界線の……」


「……?あぁ!そうでありました」


コユキは着物を直し、姿勢を直した。


「コホン。すいません。少しはしゃぎすぎました」


「はしゃぐもクソもないだろ……」


「フフフ、それでは、真面目にお話しましょうか。一つ、私の婿に入る。二つ、同盟を組む。キッパリと包めばこうでしょう。さ、どうします?」


カスミ、本当に余計な選択肢俺に投げかけてたんだな。

ケラケラと笑うカスミの顔が頭に浮かぶ。


「……俺独断での決定権はない。俺の仲間達と共に決めなければいけない」


「……そうですか。そうだと明日の結婚式は強制的ですけど」


「はぁ!?」


「あらいいのですよ?私はそれが本望」


「いやいや、俺以外にももっといい人居ますから」


「いえ、そんなことありません。それとも……私の事……嫌い?」


ウルウルとしたあざとい目つきで俺のことを上目遣いで覗き込む。


「う……と、取り敢えず、二つ目……候補だ。ほら、答えた。早くさっきの話を聞きかせろ」


「え!?」  


コユキは驚いた。 

なんせ、自分の誘いを断るなど、他の男には居ないのである。

その経験しかない。


(こ、こんな美しい私の婚約を断るなど……やはり貴方様は一味違う……待っててください!)


そう、コユキは心に決めたのであった。

戸惑いながらもコユキは話を続ける。


「こ、コホン。では、お話しましょう。あの愚者共……『幽闇ノ艦隊・・・・・』について……」


「幽闇ノ艦隊?」


「はい。彼等は様々な世界線に入り込み、その世界線の『夢』、つまり『可能性』を破壊します。本来、世界線を歩き渡るなどありえません。しかし、彼等は落ちぶれた。神ならばそれは可能……」


「ちょ、ちょっと待て。神?世界線を破壊する?どういう事だ?」


「彼等は元は付喪神ツクモガミ。聞いたことがありましょう?物には魂が宿る。しかし、その魂は悲しみと憎しみによって腐敗してしまった……つまり祟神たたりがみの類。それが幽闇ノ艦隊そのもの……しかも、その影響の終着点はこの世界。影響があった世界線の人物や物をこの世界に呼び寄せてしまう。それが『漂流物』と『漂流者』です」


「……ッ!?ってことは俺たちの世界線は……」


「恐らく、幽闇によって破壊された……しかし、その破壊されなかった世界線というのは存在します。でも、貴方方がいた元々オリジナルの世界線とは違うのですが……」


「……?まて、正規の世界は俺たちの世界じゃないってことか?」


「はい。見てみます?正規の世界線」


「見る?見れるのか」


「はい。では、ほら」


コユキは正座した膝の上をポンポンと叩く。


「この前のように、膝枕、どうぞ」


俺は少し緊張しながらも、頭を膝の上に置く。

コユキは蒼い魔法陣を翔の顔の上に現せる。

そして……。



俺は真っ暗な空間にいた。

すると、目の前に映画館のスクリーンのように、風景が流れる。

頭の中に、直接。


「あ……あぁ……」


俺は、涙を流した。


「負けたのか……日本が……」


太平洋戦争、ミッドウェー海戦の大敗、ガダルカナルの戦い、神風特別攻撃隊設立、原爆投下、無条件降伏。


我々の、正規の世界線の全てを、翔はその目で見た。




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