第十五話 聯合艦隊伝令「長門先頭二皆泳ゲ」

1944年 10月26日。

レイテ沖海戦経路第299世界線路線世界線


この世界では、空母の実用性に米国より早く気づき、大和型戦艦は造られず、大艦巨砲主義、艦隊決戦主義を捨ててしまった大日本帝国海軍。

新型空母6隻を建造し、海軍は合計17隻の空母を保有することになった。


使わなくなってしまった10の戦艦等は、警備艦や、記念艦、護衛艦への改修工事、新型空母の資材化等が予定されていたが、レイテ沖海戦が開戦されると、空母8隻を主力とする第一艦隊、空母7隻を主力し、陸戦隊及び第7師団の輸送船団を合わせた第二艦隊の囮となるべく、既に警備艦就役していた比叡、榛名以外の戦艦が送り込まれた。


駆逐艦5隻、戦艦8隻で構成された第三艦隊。

出撃前には戦艦全艦塗装を塗り直し、全艦内に「死体留置所」という張り紙がそこら中に貼られ、豪華な食事が多く配給された。

乗組員の間では「動く葬式艦隊」と称されていた。


乗員皆、緊迫した空気の中、それぞれ戦艦長門、陸奥、扶桑、山城、航空戦艦伊勢、日向、戦艦金剛、霧島艦内で昼食をとっていた。

そして、レイテ沖近くに差し掛かった頃だった。


「敵機来襲!九時方向に米艦載機100機!他大型爆撃機数機確認!」


「来たねぇ〜……総員戦闘配置」


気楽に命令するのは長門艦長稲田 拓哉いなだ たくや

長門及び全艦対空戦闘を開始する。

弾幕網が張られ、敵戦闘機等に攻撃をかける。

すると、水上偵察機が降りてくる。

戦闘の中、急いで回収する。

報告がなかったので何もないのかと思っていたが、敵機からの攻撃により、無線機が壊れてしまったらしい。


「艦長、水上偵察機の乗員からの報告です。東北東方向にて戦艦を中心とする空母無しの水上艦隊が発見されました」


「なるほどね〜……なぁにがしたいの?」


「恐らく、まだ米国は戦艦が一番強いと思っているようです。艦載機に関してはレイテから発進した爆撃機の護衛の為かと」


「なるほどね〜……てっきりあちら側も気づいたのかと思ったけど、まぁいいや。君の考える速度は流石だね。宗悟ちゃん」


長門副艦長浅田 宗悟あさだ そうご


「いえ、とんでもございません。それと、先ほど空母「鬼龍」から無線にて、「我、鬼龍及ビ蒼龍飛龍ハ第三艦隊ノ護衛機ヲ発艦セシ」っとの事です」


「へぇ〜。案外あっちはよゆーなのね。それとも、司令長官様のお情けかな。特攻する我々に護衛機を飛ばすとは。でも、「アレ」はもう来てるんでしょ?」


「はい。聯合艦隊本部からの伝令、「長門先頭二皆泳ゲ第三艦隊は沈没の覚悟をもって特攻せよ」は届いております」


「ヒュー、本部は司令長官よりそこまでお人好しじゃないか。まぁ、そりゃそうか。でも、僕らも出来るだけのことはしなきゃね。作戦にはなかったけど、レイテ島に艦砲射撃を行うよ〜。皆準備準備。あ、あと陸奥と、扶桑山城伊勢日向、金剛霧島に伝達しといてね」


「「「ハッ!」」」


長門を含めた8隻の戦艦は、レイテ島に砲身を向ける。

砲身が上下逆になりながら、長門陸奥の41インチ砲の砲塔が微調整を行いながら少しづつ動く。

そして、金剛霧島の35.6インチ砲、扶桑山城、伊勢日向の36インチ砲も微調整を行う。


その中で、伊勢の噴進砲が一斉に火を噴いた。

機銃にて攻撃していた護衛の米航空機は大半撃墜することが出来た。


更に、長門の高角砲が爆撃機のエンジンに命中し、煙と火を噴きながらバランスを崩す。

バランスを崩した爆撃機は、長門に向かって大きくゆっくり回りながら落ちていく。


「か、艦長!長門に!長門に突撃しようとしてきています!」

一人の見張りの乗員が叫んだ。


「ん〜。まずいねぇ…………よし。長門は先に砲撃するって他艦艇に言っといて。長門は砲撃開始」


拓哉は少し悩んだ後、命令をだした。


「しかし艦長、まだ斜角や方向の微調整がすんでいませんが……」


拓哉が砲術長の言葉を遮る。

「死にたくなかったら早くしたほーがいいよー」


「……分かりました。徹甲弾、砲撃始め!」


長門の主砲が一斉に火を吹いた。

長門の主砲の弾が向かってくる爆撃機に二発命中し、貫通する。

爆撃機は無残にも粉々の鉄くずになり長門左斜に落ちた。

貫通した弾を含めた全弾は、陸に届かず海面に落ちたが、先の二発に加え、もう二発爆撃機に命中し、全爆撃機撃墜することに成功した。


レイテ島に戻ろうとする米航空機達。

しかしそこに緑色の高速物体が突っ込んでいく。

後からの機銃掃射によって火を噴きながら落ちていく。

第二航空戦隊からの艦載機、零戦である。

この世界の一航戦は空母「赤城」「加賀」「白龍」「赤龍」にて構成され、二航戦は「蒼龍」「飛龍」「鬼龍」「龍神」にて構成されている。今回は五航戦の「瑞鶴」「翔鶴」「王凰」「鷹城」は参加しなかった。


準備が整った長門外し7隻は艦砲射撃を開始した。轟音が鳴り響き、各主砲が日を吹く。

長門も再び準備が完了し、その41センチ砲の火を吹かせた。


ドーン!!ドーン!!


この世界にあった巨大航空基地は、尽く破壊され、爆撃機発艦準備中に攻撃されたためか、爆発の連鎖が続き、航空基地というもの自体がもう機能しなくなってしまった。

その頃、第三艦隊に接触しようとしていた米水上艦隊は、機動部隊の攻撃により壊滅していた。


全乗組員は喜んだ。

死ぬかもしれないと思っていた戦に勝ったのだ。

しかし、そんな喜びもつかの間だった。


黒い航空機が太陽の光の中から飛んできたかと思えば、逃げていた米航空機、それを追う零戦、どちら共に無差別攻撃を開始した。


零戦米航空機はどちら共撃墜された。


「米国の新型機でしょうか?いや、だとしたら同じ国の航空機を攻撃するはずは……」


すると、虫の羽の音のように大きな航空機のエンジン音が鳴り響いた。黒い航空機は増えており、いつの間にか魚雷を投下されていた。


「うそ……これ結構やばいかも……面舵いっぱい!急いでちょーだい!それと、伊勢日向って確か瑞雲と流星積んでたよね!?兵装解除してるだけでいいから戦闘機として発艦をたのんで!」


その時、後方から巨大な音が鳴り響いた。

なんと、伊勢日向、扶桑に魚雷が命中していた。

水柱が次々と大きく立つ。

扶桑が少しづつ右舷に傾いていく。

しかし、左舷にも魚雷が命中しなんとか一命を取り留めた。

だが、伊勢日向は急降下爆撃にさらされていた。

航空戦艦として機能している伊勢と日向は、その航空機を運用するための甲板がある。

それが絶好の的となった。

ドゴン!っと、爆弾は甲板を貫通し、爆弾を積んでいた航空機に爆弾が当たる。

整備員達は絶望の顔になる。


その瞬間、大爆発が起きる。

火炎と黒い煙が甲板から立ち誇る。

そして、第四第三砲塔にまで引火し、さらに大爆発を起こして、大火災を発生、伊勢は右舷に下がり始める。

それは日向も同じだった。


「嘘でしょ……は、早く本部に伝令してちょーだい!この海域から直ちに退避……」


ドーン!!

その時 、地震のように艦内が揺れる。

どうやら艦首付近に魚雷が命中したらしい。

ゆっくりと左舷に傾く。


更に気づけば、周りは紅黒い霧に満たされていた。


「く、クソ……艦内の……状況はどうなってるの……」


「艦長!各艦艇から報告、金剛、霧島、山城、扶桑、爆撃により大火災発生、陸奥、魚雷により舵損傷!伊勢日向轟沈!!」


「艦長!各班状況報告、艦首付近に大浸水発生、速力低下現在11ノット!このままだと陸奥とぶつかります!」


「な、なに!?」


すると、陸奥と擦れるようにぶつかり合い、両艦とも浸水が起きる。

そして、両艦ともゆっくりと、長門は艦首から倒れるように、陸奥は艦尾からもたれるように沈んでいった。



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