第十二話 もう一人の自分 

俺はカスミに連れ出され、月灯の街を歩いていた。

月灯は一言で表せば昔の日本、江戸時代の日本のようだった。

和風な街並み、色んな場所にある神社仏閣、「へいらっしゃい!」っという魚屋の店主や商人の人々。 

俺が出ていった場所は多々ある神社や寺より一番でかいまるで神社寺が合わさったような場所だった。流石は女帝が住まう場所だ。

美しい街並みに俺は見惚れていた。

そして、寝起きでボーっとしていた俺の頭は次第に覚醒していった。


神社や寺はよく行ったな……。

にしても、本当に昔の日本だな。

そして俺は歩くカスミの横に走り寄る。

そして疑問を全てぶつける。


「おい、一体どうなってる。何故俺のことを攫った?なんでコユキというあの女性は俺のことを婿に入れようとしている!?なにが目的だ?」


「取り敢えず、一度彼処に座って話しましょう」


カスミは「団子屋」と書かれた、小さな小屋を指さした。

俺は隣にある背もたれのない、桃色の布が掛けられた木の長椅子に腰掛けた。梅の花が垂れ、目の前には美しく輝く海があった。


奇麗だな。

梅の花か、祖母が好きだったな。

俺はそんな事を思いながら海を眺めた。


「はい。コレどうぞ」


カスミは俺に三色団子とお茶の入った赤い湯呑みを手渡した。

俺はそれを手に取った。


「あぁ、ありがとう」


カスミが俺の横に座った。


「今は春か……」

俺は海を見ながら無意識にそうつぶやいた。


「いえ、この国には四季はありません。ずっと春ですね」


「それはどういう事だ?」


「分裂されていて、この月灯は春、イヴァーは冬、ヴァグルドフは秋という風に、ですが、唯一四季がある島はありますね」


「へー……」


ん?なんか、こんなことより聞かなければならないことが……ッ!?


「おい!それでどうなんだ!なんで俺はここに攫われて……」


カスミは湯呑みの下に手を回し、お茶を啜る。


「……まぁ、もういいでしょう。貴方を攫った理由、それはお母様コユキ様が貴方を好きになったからです」


「いや、俺はあの人のこと知らないし、なんで急に……」


「実は、私はここの姫君なのです」


まぁ、うん、そうだとは思ってたな。


「で、そのためご信用として長距離でも通話が可能な「水晶」を所持しています。ソヨカも同じく」


「水晶?あの透明な奴のことか?」


「はい。月灯では一種の通話具として使われています。で、それを通して貴方の活躍を見ていたお母様コユキ様は惚れたと言うわけです」


カスミはお茶を啜る。


え、いや……なんか怖い。

俺はあんな綺麗な人に盗聴されていたのだと思うと、恥ずかしさと恐怖という感情が湧き出た。


「それと、攫った理由はもう一つ。貴方方が所持しているアノ漂流物大和、武蔵、信濃の使用権を手にするためです」


「ッ……!?」


お茶を飲もうとしていた俺はその手をとめ、目を見開いた。


「大和はお前等には渡さないぞ。命に変えてもだ。あの艦は我々大日本帝国の物。天皇陛下のものである。絶対に渡さない」

そう俺は断言した。


カスミは横目で俺のことをみた後、目を閉じ、お茶を飲んだ。


「……ふぅ。まぁ、そうですよね。それではもうその件は手を引きましょう。ですが、中身が欲しいのです。あの艦の構造を知りたいのです。さて、これから貴方翔様に3つの道を差し上げます」


3つの道?一体なにを要求するっていうんだ。

俺は警戒しながら話を聞く。

カスミが指で数字を出す。


「一つ、コユキ様の婿に入り、皇帝になる。その場合仲間達及び漂流物の件に我々は金輪際一切手を出しません。二つ、漂流物を明け渡し貴方方を我々は保護する。三つ、同盟を組み、その代わり我々に漂流物の設計図を渡す。さぁ、どれを選びます」


俺は頭の中で考える。

一つ目が一番いいが、ソレだと俺がえらい目にあう。

二つ目は絶対に避けたいな、大和が無ければ俺達は帰れない。

三つ目は……設計図か……その場合どうなる?もし月灯が裏切るとして、大和より強力な戦艦を建造した場合……。

俺は苦い顔をしながら考える。


「……まぁ、まだ時間ならありますので、考えておいて下さい。さて、貴方に合わせたい人が居ます。ついてきてください」


カスミは立ち、歩きだす。

俺は持っていた団子の串を置き、カスミについて行く。



ポチョン……ポチョンっと、天井から水が垂れる。

青く薄暗い洞窟の中、俺とカスミは歩く。


「おい。こんな所になにがあるっていうんだ」


「とにかく、ついてきてください」


そして、暫く進むと光が見えてきた。

階段のようになっている岩を上がり、外にでる。

光の眩しさに俺は目の前に手をかざす。

そして俺は衝撃的なものを目撃する。


そこにあった物は……。


「……大和……」


ボロボロに朽果てた、見慣れた戦艦大和が入り江のような巨大な洞窟の中にあった。

太陽の光が大和を照らす。

全体が錆びついており、左舷に少し傾いている。

甲板上は黒く焦げており、数ヶ所の高角砲や機銃は爆散したように壊れていた。主砲も第一第二が左右に別々に動き、砲身が鳥の翼のように口角を上げている途中で止まっていた。

第三もそうだった。


俺の頭の中に悪い予想が走る。

「おい!もう手を出したのか!?さっき俺に道を授けたのじゃないのか!?」


「はい。道を授けました。これは貴方方の乗っていた漂流物ではありません。これはまた……別の世界の・・・・・「漂流物」です」


俺は、少し安心した。

なんだ……俺達の大和じゃなかったのか……。

だとしたらこれは一体……。


カスミは木で出来たプカプカと浮いていて今にも沈みそうな板をタンタンっと飛びながら大和の階段の場所にいく。

俺もそれを見よう見真似でやってみるが、体格や体重の違いによってかなり俺は危うかった。


冷た! 


靴の中に海水が入ったが、被害はそれだけで済んだ。

俺は階段を登る。

すると、見慣れた光景が広がった。しかし、いつもと違うという感性は瞬時に俺の体中に纏わりついた。


カスミは扉を開け艦内へ入っていく。

俺もそれについていくと、中は悲惨なものだった。

浸水が浅いが艦内中に水たまりのように広まっており、電気の導火線はバチバチと今も火花を散らしていた。

薄暗く、壁には死体はないが誰かの血痕が残っている。


カスミはコツコツと歩き続ける。

すると、一つの扉の前についた。

俺はその場所をみて、内部構造は同じなので直ぐにわかった。


艦長室……か。


カスミは三回扉を叩く。


「入れ。どうせカスミだろう」


聞き覚えのある声が扉越しに聞こえてくる。

……嘘だろ……この声。

そしてカスミが扉を開ける。


「失礼します」


「今回は何のようだ?」


何度聴いても、そうだった。


「今回は合わせたい人がおります。さぁ、此方に」


俺は、用心深く艦長室に入った。

……嘘……だろ、まさか……。

声で察していたが、それは……その人は、だった。

もう一人の俺は、蝋燭の光が唯一ある薄暗い艦長室で、たった一人、孤独に椅子に座っていた。


いやいや、見た目と声が似ているだけ……だよな?


「ッ……!?」


もう一人の俺もびっくりしていたのか、煙草を落とした。


「あっはは……こりゃたまげたな」


もう一人の俺は、俺の前に立つ。

背丈もほぼ一緒だ。

そして敬礼をする。


「私は大日本帝海軍、合艦隊旗艦戦艦大和艦長、藤野翔・・・だ。よろしく」


名前も同じ……。

俺もすかさず敬礼を返す。


「私は、大日本帝海軍、合艦隊所属日本やまと艦隊旗艦、戦艦大和艦長、藤野翔だ。此方こそ」


そしてもう一人の俺は煙草を吹かす。


「……ふぅー、…まさか、別の世界線の俺に会えるとはな。全くもって、不思議な感覚だ」


「もう一人の俺……やっぱり、お前もこの世界に沈んできたのか?大和が……だとしたら蒼二は?雪那はどうした?」


もう一人の俺は不思議な顔をする。


「蒼二?誰だそいつ」


その発言に俺は驚く。

「は、はぁ!?俺の大親友だ!忘れたんじゃないだろうな」


「あー……多分、世界線がちがけりゃ人間関係も違う。蒼二なんてのは、居ねぇな。あ、それと雪那は俺の嫁だな」


なるほど……世界線が違うなら人間関係も……って、ん?

俺は頭の中が白くなる。


「はああぁぁあぁぁぁあ!?ゆ、ゆゆゆ、雪那が俺の、おれ、俺の嫁ぇ!?」


「あぁ。言ったろ?人間関係も違うって」


「い、いや、それはそうなんだが……」


もう一人の俺は少し訝しむ。

「……さてはお前、そっちの世界線でも雪那が好きなのか?」


俺は肩を跳ねさせる。


「い、いや……そんなことは……」


ま、まずい……本当にそんなことはないのに誤解を招く。


「安心しろ。雪那にも誰にも言わん。俺のことは俺が一番わかってる」


「いや!本当に違う!信じてくれ俺!」


「あ〜はいはい。わーったわーった。で、お前等はどうやってこの世界に来た」


「あ、あぁ、それがだな……」


俺は赤くなっていた顔を直し、一部始終を全て説明した。


「フゥー……なるほどな。恐らく、カスミが言ってることはこの大和修理だと思うぜ?な?カスミ」

もう一人の俺はカスミの方を見る。


「はいそうです」

反対側の壁で静かに立って待っていたカスミが口を開いた。


……なるほど。内部構造が知りたいと言っていたのはそう言うことか。確かに、この大和は損傷が激しいしな……。

そして、俺も疑問に思った事をもう一人の俺に聞いた。


「で、お前はどうやってこの世界に来たんだ?俺達と同じか?」


それを聞くと、もう一人の俺の顔が少し暗くなった。


「……フゥー……それを聞くか。……まぁ、話してもいいかもな。俺だし」


もう一人の俺は、煙草の火を地面に擦り付けて消す。


「俺がこの世界に来ることになった原因の一つだと思えるのは、俺の世界線の……大日本帝国海軍最後の艦隊、そして最後の作戦として大和が出陣した『坊ノ岬沖海戦』だ」




※大鳳艦隊はこの世界に来て1日、大和艦隊は3日です。※

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