第五話 異界の情報

大和が島へ向っている移動中、俺は二人から情報提供をして貰うため、質問したい物をまとめた紙と鉛筆を手に取り参謀長公室に向かった。

扉を開けると、舷窓から外を見ているカスミと、長椅子に横になり寝ていたソヨカの姿があった。


「失礼する」


「あ、すいません翔さん。ほら、ソヨカ、起きて」


カスミはソヨカの体を揺らす。

俺はそれを止めた。

少し話を聞いたら、まだ幼いながら一晩寝れていないのだ。

寝る子は育つって言うし、眠らせて置かないと可哀想だ。


「あ、大丈夫。別に邪魔にはならないしな」


「え、しかし……」


「まぁ……大文字で寝るのはアレだが。話し合いに支障は出ない」


俺は椅子に座り、縦長い机の上に紙と鉛筆を置く。


「……分かりました」


カスミは、俺の目の前の椅子に座る。

そして俺は鉛筆を手に取る。


「さて、まずはこの世界に存在する国について教えて欲しい」


「はい。この世界の国々は、世界から独立宣言を認められてはいませんが、独立国として存在する国を合わせると50ヶ国に及びます。しかしその国々は大きく分けて四つの国の属国なのです」


大きく分けて4つか……。

俺はメモを取る。


「なるほど……、で、その四つの国の名は?」


「まず一つ目は、独裁国家「ヴァグルドフ王国」。この国は国王「エメラル・ギ・ヴァーナ・ヴァグルドフ」が統べる国で、強引な独裁政治を行っています。二つ目は先進技術国家「ボングレイガー帝国」。この国は現在、陸海共に協力な軍事力を保持しています。この世界で最も力を持った国です。三つ目は「イヴァー連邦国」。所謂イヴァー連邦は資材大国と呼ばれるほどの資材があります。ヴァグルドフ王国とは同盟関係にあります。そして、独立国「月灯ツキビ」。独立宣言が認められた唯一の国であり、他3大国の文化にどれも共通しない独自の文化を持つ国です」


ツキビ……たしかカスミ達の祖国だったか。


「独立国ツキビというのはどの様な国なんだ?祖国の事についてはよく分かるだろう」


「はい。独立国ツキビは獣人の国です。そしてその国を統べるのは女帝「コユキヒメ」様です」


俺は、左手で髪の毛を握った。


「女帝が統べる獣人の国……増々全て覚えるのが小難しくなりそうだ……。よし、国についてはわかった。次にこの海域の地図などは分かるか?」


「……申し訳ありません。地図に関しては分かりませんが、この海の名はドルダード海。リヴァイアス大洋に属する海域です」


地図が分からない、か……。

また信濃に彩雲の発艦を頼まないとな。

俺はメモしていた事5つにバツ印を書いた。


「続いて、俺達のようにこの世界に来る者はいるのか?」


俺は、この質問を一番聞きたかった。

もし居るとしたならば、元の世界へ戻る為手を取り合うことが出来る。


「……はい」


「……ッ!?」


俺は目を見開いた。

そして心のなかで歓喜の感情が躍った。


「貴方方の事を我々は「漂流者」、と呼び、この異界の物を「漂流物」と呼びます。しかし、漂流者は瀕死の状態であることが多く、まともに話しが出来ないまま息を引き取られる事が多いです」


俺は、少しがっかりした。

期待を裏切られたのだ。

まぁ……そう上手くはいかないよな……。

俺は少ししょぼんとした顔をしながらも質問をする。


「続いてだが、石油などは発掘されているのか?茶色、黄色の液体だ」


燃料についての質問だ。

燃料がなければ大和含め武蔵信濃は移動することができない。

燃料補給が出来るようになれば、大抵の事は何とかなる。


「……石油というの物でこの艦は動いておられるのですか?」


「あぁ、石油がなければ動くことはできない」


カスミは首をかしげた。


「……おかしいですね……漂流物は大きな損傷がなければ魔力を通して動くのですが……」


……?魔力?


「魔力……というものはなんだ」


「この世界の船の動力源は、帆船を外すと魔力です。つまり電動機や発動機などは魔力によって動いています。そして魔力を吸収するにあたってその電動機などは劣化をしていきます。そして壊れていなければ漂流物は魔力を吸収し、それを動力源に動くのですが、劣化をしないのです。恐らく、使っている素材が違うのでしょう……」


「……ッ!?それは真か!」

 

俺は椅子から凄い速度で立ち上がった。

カスミが言ったことは、燃料問題や砲身の劣化問題、航空機の燃料の問題が無くなるという事に等しい。

この問題がなくなれば、あとは食料と砲弾の問題だけなのだ。


「本当です」


「なんと……」


俺はゆっくりと椅子に座った。

その時、参謀長公室にノック音が鳴り響く。


「艦長、おられますか?」

成斗の声が扉越しに聞こえる。


「あぁ、どうした」


成斗は扉を開ける。

「失礼します。目標の島に残り約10分で到着します。暫くしたら第一艦橋にお越しください」


「いや、もう話は一通り済ませた。今から向かおう」


「了解しました」


成斗は敬語をする。

俺は椅子から立ち、紙と鉛筆を手に取った。


「この部屋から出ないなら、ゆっくり過ごしていて構わない。情報提供感謝する……」


「はい。承知しました」


そして俺は扉を閉めた。

艦橋へ行く途中、成斗とカスミから聞いた事について話し合った。


「……なるほど……っということは、一番厄介なのはボングレイガー帝国でしょうか」


「あぁ。先進技術国家と言う事は、アメリカの様な国なのかもな」 


「ツキビについて此方は捕虜を捕らえている訳ですから、交渉をすることが出来るのではないでしょうか」


「可能性はあるがわからないな。女帝コユキヒメという人物について、よくわからないからな」


「なるほど……それにしても、燃料と砲身劣化の問題に関しては大きいですね」


「そうだな。機関長に念の為調査を頼もう。武蔵と信濃にも伝えておかなければ」


そして、第一艦橋に着いた。 

山本司令も丁度第一艦橋に着いたのか、椅子に座らず腕を組みながら島を眺めていた。


遠くから見える巨大な島。

彩雲からの情報だと、あの島は島の内側がくり抜かれたような形状をしており、中には大和型3隻は余裕で入る程の入り江があるのだそう。入り江の入口から後方には森林が広がっており、木の実などがある可能性がある。

そして大和は面舵を取る。


入り江の入口に対して直線的に進んでいく。

門のようにツタが垂れた下を進み、壁で見えなかった武蔵、信濃の姿が確認できた。

そして停泊し、内火艇を出す。

小さな人混みが入り江の砂浜付近に出来ていた。


「彼処に恐らく蒼二達が居ます。行きましょう山本司令、成斗」


「あぁ」


「はい」


俺は内火艇にのり成斗と山本司令と共にそこに向かった。

すると……。


「おめぇぇらぁぁぁ!!!!木の実を持ってきたんだろぉぉぉぉなぁあぁぁぁ!!!」


「「「「「「「ウッキーーーー!!!!!」」」」」」」


猿たちが大量の木の実を草の王冠のようなものをつけ、木の椅子に座った蒼二に掲げていた。

そこには呆れ顔の雪那と心菜や玲香、多数の武蔵乗組員や信濃乗組員達の姿があった。


「おい、雪那、これは一体……」


「あ!翔くん!?大和もうついたんだ。あ、山本司令!」

雪那は山本元帥に敬礼をする。山本司令もそれに応え敬礼を返す。


「あぁ……で、蒼二は一体なにを……」


「あー……実はね……」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


武蔵と信濃は目標の島に向けて航行していた。

そして、入り江の中に入り、内火艇を使い砂浜へ向う。

そして岩が階段状になっている場所を上がり、蒼二、心菜、雪那、玲香、そして数名の両艦の乗組員が森林の中を探索中のことだった。


「あ"ぁ"?」

最初に気づいたのは蒼二だった。


「ウキ」

「ウキ……」

「ウキ」

「ウキ…」

「……ウキ」


何処からともなく猿の声が聞こえ、赤い眼光を此方に向かわせる。


「キャ!私の帽子!」


木に登り猿は雪那の帽子を奪う。

それを心菜は見逃さない。


「先輩の帽子、返しなさいよ!」


飛ぶ猿に蹴りを食らわせようとする心菜だったが……。


「うわ!」

見事空振ってコケてしまう。


「心菜、大丈夫!?」 

雪那はすぐ心菜の元に駆け寄った。


「だ、大丈夫です先輩、この位……あのクソザル!絶対に蹴り潰してやる!」


「こらこら、可愛い顔がそんな事を言うものじゃないよ」


「せ、先輩……」


「心菜……」


「おいテメェら!なに今女同士でイチャついてんだ!気色悪りぃ。やるなら帰ってやれ!」


その時、三段蹴りが蒼二の頭に見事当たる。

ため息をつく心菜にたんこぶから湯気が出ている倒れた蒼二をみて雪那はすこし汗をかく。


その時、蒼二の頭の上に猿がのり、何度も蹴る。

蒼二の中で何かが千切れた。

軍刀を抜き、音速とも言えるような速さで立ち上がり軍刀をふる。

そしてその猿の毛は全て抜き落ちる。


「ウッキィ!?」

その猿は自分の体を見る。

そして、それを見ていた他の猿達も驚の余り口を開け叫ぶ。


「「「「「ウッキィウッキィウッキィー!!!!」」」」」


そして猿の統率者らしき赤い布を首に結んでいる猿も飛び跳ねる。

そのせいで茂みから姿が現れる。

それを蒼二は逃さなかった。

軍刀を投げ赤い布を貫通させて木に引っ掛けた。


「おい……」


「ウ、ウキ……」


「テメェが頭か?それじゃあお仲間に伝えることができるよなぁ…………」


「ウ、……ウキィ……」

猿は冷や汗をかく。

そして蒼二は胸ぐらを掴むように赤い布を掴んだ。

「今から選択肢を四つやる。一つ、俺に殺される。二つ、俺に炙られ食料になる。三つめ、海に投げ捨て俺が溺死させる。四つめ、俺の奴隷になる。どれがいい……」

物凄い圧を放ちながら猿に問いかける。

猿は四を指でつくる。


「それじゃあさっさと木の実持ってこいやあああぁぁぁぁ!!!!」


「「「「「ウッキィーーー!!!!!」」」」」

猿たちは物凄い勢いで木の実を探しに駆けて行く。

たまたま投げ捨てた帽子が雪那の足元に落ちる。

「あ、私の帽子」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……っで、蒼二くん暴走しちゃってるみたい………」


「俺達が居ない間そんな事が……」

俺も成斗、山本司令はため息をつき呆れ顔になる。

俺は囲んでいた人をかき分け前に出る。


「おい蒼二!いい加減にしろ!」

俺は蒼二に呼びかける。


「あ"ぁ"だまれクソザル!」


「蒼二!」


そのとき、蒼二はハッ!っと目を覚ましたようにあたりを見渡した。


「あ"ぁ"?こりゃなんだ?…………?お!おぉ!翔じゃねぇか!」


「翔じゃねぇか!じゃねぇよ!早く立て!」


蒼二は自身が座っていた椅子を見渡す。

「……?あ?なんだこれ」

蒼二は椅子から立つ。


「はぁ、全く。で、そこの猿たち」


猿たちはビクッ!っと震えて此方を見る。

そんな怖がられるのか……。


「俺達はこの島についてよくは知らない。できたら地図を作ってくれないか?」


猿たち全員物凄い速さで首を縦にふる。

そして地図を一瞬で作り終える。

猿たちの長らしき猿が俺に地図を渡す。


「感謝する。見返りに君達が取ってきた木の実を渡す。これからも時々頼りたい。よろしいか?」


猿たちは首を縦にふる。

そして森の中に消えていった。


俺は蒼二達の方を向く。

「ふぅ、ともかく、一度会議を行う。この世界についての情報について話すことがある。各艦、科長、艦長副艦長は大和司令部公室にて集まれ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る