序章

第一話 さらば現世よ

1945年。

日本は第二次世界大戦に負けた。

そして、何人もの戦死者達が作り上げた「敗北」という大きな土台の上に、「発展」という城を我々が作り上げ、今、2024年の日本があった。


だが、この世界では違う。

この世界は第二次世界大戦が始まる前、第一次世界大戦の頃からあった分岐点の「一つの可能性」が実現した世界線。



第一次世界大戦が1914年から1932年までの大戦争が行われた。

大日本帝国は史実どうりの大勝利を収めた。

1932年まで戦争が続いたのは、アメリカとソ連の大戦争だった。

日本はアメリカと同盟を組み、アメリカは勝利した。

日本にも多少被害が出たが、当時最強だったバルチック艦隊を討ち滅ぼしたのは日本にとって大きな戦果だった。

大艦巨砲主義が世界を動かした。

軍縮条約は用いれられず、大日本帝国は大計画を実施する。

日本は二〇フタマル艦建造計画を計画した。戦艦20隻を建造する大計画である。


そして、無事フタマル艦建造計画は無事全艦進水した。

空母大型改造をした信濃を含むと、艦名は以下のとおりである。


艦名 

 

大和型戦艦


戦艦大和

戦艦武蔵

元戦艦信濃(空母大型改造及び第一改装済み)



長門型戦艦


戦艦長門

戦艦陸奥

戦艦肥前


扶桑型戦艦


戦艦扶桑

戦艦山城

戦艦対馬


伊勢型戦艦


戦艦伊勢

戦艦日向

戦艦伊豆


天城型戦艦


戦艦天城

戦艦赤城

戦艦薩摩

戦艦上野


加賀型戦艦


戦艦加賀

戦艦土佐

戦艦石見

戦艦伊賀



大和型戦艦は世界最大最強の戦艦となった。

日本の大和型建造の技術は超重要極秘事項とされ、大和は現在1950年に至るまで世界最強最大の戦艦として此処にいる。


ボタンを全て開けている海軍の黒い制服が風に仰がれ靡く。

髪型は普通の青年の髪型、腕を組み晴天の下に居る大和を呉の港から眺めるのは、藤野ふじの かける

彼は連合艦隊所属、日本やまと艦隊筆頭の戦艦大和の艦長である。日本艦隊とは、大和型3隻、大和、武蔵、空母信濃と駆逐艦5隻で構成された艦隊である。国民からは「天下無敵無双の日本艦隊」と謳われている。

日本艦隊の役割は3つある。


一つ目

3隻での敵艦隊撃滅任務。

災害や空襲にて、他の戦艦などが出撃不能時、大和型3隻で敵艦隊を葬り去るという特殊任務に当てられることだ。


二つ目

制海権、制空権の保持任務。

戦艦大和は対空兵装が厳重であり、戦艦武蔵は副砲塔が大和より多く、信濃は大和型ながら航空母艦故の大規模航空機の運用が可能である。なので制空権、制海権を保持するためにはうってつけなのだ。


三つ目

艦隊再構成任務。

別艦隊が壊滅状態に陥った時、旗艦としてその艦隊を別々に再構成し、艦隊を立て直すということだ。


日本艦隊は以下の特殊任務の為に作られた艦隊なのである。



「いやはや、何度も日本やまと艦隊の3隻が揃っているのは見ているが、迫力には毎回圧倒される」


後ろから声がする。

その声は連合艦隊司令長官山本五十六元帥。

俺は山本元帥の姿を確認すると、制服のボタンを全て付け敬礼をする。


「山本五十六元帥、今回はどの様なご要件で?」


「はっはっはっ。何、天下無敵無双の日本艦隊が呉海軍工廠に入港していると聞き、様子を見に来ただけだよ」


「そうでしたか」


俺は大和をもう一度見る。

山本元帥が俺の横に後ろで手を組みながら歩き、止まる。


「大和は先月行った第二改装で、対空兵装強化と装甲強化を行いました。武蔵は副砲塔の強化と大和と同じく装甲強化です。信濃には新型戦闘機紫電改ニ型24機、偵察機には彩雲を5機、艦攻機流星改を11機、艦爆機彗星一二型こうを10機、計50機を搭載、対空兵装強化をしました。お陰で頼もしくなったものです」


山本元帥は「ふむ」といい大和を眺めた。


「私はこの時代、戦艦はもういらないと思っていたが……戦艦も悪くないな」


潮風が吹き、俺の制服と山本元帥の制服をヒラヒラと優しく揺らした。


「これから日本艦隊は確か……」


「アメリカとの合同演習です」


アメリカとの同盟関係は未だ健在で、ハワイとミッドウェー島の使用権を第一次世界大戦の協力戦果として大日本帝国は受け取った。だがアメリカ側は、僅かではあるが国土を渡す事とほぼ一緒だ。アメリカは日本が裏切った後に日本を完全降伏とさせる手段でも持っていると俺は思っている。


「そうだったな。では、私は先に行かせてもらおうか。君の艦長の腕を見してもらう」


「そう言い、何度も見ているじゃないですか」

俺は少し笑った。


「そうだな。今回も期待している」

山本元帥も笑いながら言った。


山本元帥はゆっくりと内火艇に乗り込んだ。

今回は、初のアメリカ海軍との演習の為、山本元帥も乗艦される。参謀長官などの連合艦隊司令部は、横須賀海軍基地に居るため、横須賀から出航する元連合艦隊旗艦戦艦長門に乗艦し、ハワイ島で大和に乗艦される事になっている。

俺が山本元帥と仲良くなったのは、同じ海軍学校卒業生ということ、そして卒業してすぐ大和の乗組員になった。5年前、今は28歳だから23の時、大和艦長を初めて命じられた。その時連合艦隊司令長官である山本元帥と話す機会があり、現在に至る。

今回で大和艦長に任命されたのは3回目である。


俺はビシッっと敬礼をする。

暫くして、俺も別の内火艇に乗り込み、大和に乗艦した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺は第一艦橋に登る。


「……ッ!艦長!」


副艦長荒川あらかわ 成斗せいとが敬礼をする。

それに連れ、そこにいた大和乗組員全員も敬礼をする。

応えるように俺も敬礼で返した。


荒川成斗。俺の2個下の後輩である。

同じ海軍学校と言うことで偶に絡んでいたが、まさか大和副艦長に任命されるとは……。

彼は以外と温厚な性格でありしっかり坊主である。

「剣道を真剣でやろう!」なんて言ってくるどこの馬鹿の髪型とは違う。まぁ、俺も伸ばしてはいるから底までキツくは言えない。


「成斗、まさかお前が副艦長になるとはな」

俺は少し微笑みながら喋る。


「本当ですよ。まぁ、これも何かの縁でしょう」

成斗は首に手を置き、笑いながら言った。


「そうだな。出航準備はどうなっている」


帽子をただし俺は問う。


「はい。大和は最終調整中です。武蔵は出航準備完了。信濃は機関整備中とのことです」


信濃は機関整備か……。

問題なく動けてはいるが元は戦艦として設計されていた船体だ。

急に航空母艦にしたため機関の多少の不具合はしょうがないだろう。


「了解した」


すると、後ろから足音が聞こえる。

後ろで手を組み白い海軍制服をきた男がやってきた。


「山本司令官」


山本元帥が敬礼をすると、そこにいた者たち全員がバッ!っと敬礼をする。山本元帥は司令官の椅子に座る。何も言わない。

俺に全振りするきか?この人。

まぁ、腕を見してもらおうとは言ってたけど、初っ端から来たか。

俺は成斗に問う。


「大和の最終調整はどのくらいかかりそうだ?」

「もう五分で終了とのことです」

「信濃は?」

「後十分で完了予定だと」

「なるべく早く済ませるようにと伝えてくれ」

「了解しました」


俺は帽子を脱ぎ頭を下げ、山本元帥に言う。


「すいません。信濃は元々戦艦として作っていたので、しょうがないかと……」

俺は帽子を被り頭を上げた。


「そうだな。まぁ、よく指揮を取れているじゃないか」

山本元帥は俺に笑顔を向ける。

俺はそれに応えるように少し微笑み敬礼をする。


日本艦隊とアメリカ主力艦隊との合同演習をするようになったきっかけは、日本海軍は底まで大きな大戦には参加はしていないため、3つ目役割「艦隊再構成」がいざと言う場合出来なくなる可能性があったからである。

そのため、横須賀からはフタマル艦隊の戦艦、加賀型戦艦、長門型戦艦、天城型戦艦全艦、重巡洋艦20隻、駆逐艦50隻、翔鶴型航空母艦両艦も参加するようになっている。演習場所はハワイ沖で行うことになっている。


そして、信濃の出航準備が完了した。

信濃艦長倉本くらもと 雪那ゆきなは大和に打電する。この世界線の大日本帝国海軍は、現在の自衛隊と同じように女性船員も居る。実力が有れば、雪那のように艦長まで上り詰める事も例外ではないのだ。


「全艦、出航準備完了しました」


俺は小さく頷き、命令を出す。


「大和、出航せよ!」


汽笛を鳴らし、波を立たせながら進んでゆく大和に連れ、武蔵、信濃も同速度で進んでいく。

穏やかな波をかき分け進む大和は、悠々としていた。

だが、その時変異は起きた。

約5時間が経過した頃のだった。


1950年4月7日11時35分

時は夜、満月の月と星々が航行中の日本艦隊を薄く青く照らす。夜の匂いと潮風が優しく吹き、バルバスバウが波を断つ。

床に落ちていた石が左へ少し動く。

第一艦橋内の者達は、一応輸送船などとの衝突を避けるべく周りを見て警戒する。

その時、一つの伝声管から声が聞こえてきた。


「艦長!」


関西弁で太い声だ。

声の持ち主は戦艦大和機関長富谷 大祐とみやだいすけだった。


「や、大和が、大和が傾いています!」


「「「「……!?」」」」


そこに居た全員が驚いた。

重い空気が第一艦橋内を包みこむ。

俺は頭をフル回転させ思考を巡らせてゆく。

アメリカ軍の攻撃か……?いや、ただ岩にあたっただけか……?


「ソ連の潜水艦の攻撃か!?それとも座礁したか!?」

成斗が伝声管に向かって大声で言う。


「い、いえ……それが……」


少し間を空け大祐が言葉を放った。


「大和には目立った傷は一つもありませんのです……甲板から乗り上げてみても装甲には問題はなく、浸水も確認されていません。現在の傾斜角は一度で、左舷に傾いてます。注排水装置の不具合も確認されていません」


装甲も問題なし、浸水も確認されていない……。

なんだ?どうなっている。

俺は少し考え込んだ後、命令を下す。


「右舷の注排水装置を使って傾斜を整えろ。ハワイの海軍基地に入港の後、原因を調査する」


大祐は「了解しました」と言って注排水装置を起動させようとした時だった。


「うわぁ!」


大和の傾斜が激しくなった。

その頃艦内では……。


「な、なんじゃ!?」


「大和が傾いとる!」


寝ていた乗組員達は3段ベッドやハンモックから転げ落ち、左へ落ちてゆく。

一人の若い乗組員がドアの方へ向かって走る。


「何をしとんじゃ!」


「大和が傾いてるってことは敵からの攻撃しかないじゃろ!」


その乗組員はドアノブを捻る。

だが、ドアが開かない。何度も捻りドアを力強く押すが、開かない。


「な、何だこれ……」


「何をしとんじゃ!かせ!」


もう一人がドアを開けようとした。だが、開かない。

甲板上には誰もいないそして、さらに大きく左舷に傾く。


第一艦橋内も混乱状態であった。


「うわあぁぁ!」


「うわぁあ!」


ドスンッドスンッっと左舷の窓に落ちていく。

左へ全員倒れ、身動きが取れずに動けない。


俺は前に居る乗組員を少しよけ、叫ぶ。

「や、山本司令!大丈夫ですか!?」


「あぁ、私は大丈夫だ、心配しなくていい。それより、他の乗組員達が……」


まずい、このままでは全員死ぬ……。

乗組員たちの命を無駄にさせるわけにはいかない……!

「い、急いで退艦命令を……!」


俺は、伝声管に手を伸ばした。

その時、蒼黒い海の水に呑まれた。

だが、苦しくもない、冷たくもない。それにも関わらず、急に意識を失った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


1950年4月7日11時32分


戦艦武蔵は大和後方に進んでいた。

大和とは違う、副砲塔を左右に付けた武蔵は、海風を優しく受け流し航行する。

戦艦武蔵の艦長は時村ときむら 蒼二そうじ

翔と同い年で同期の親友である。

武蔵副艦長を務めるのははやせ 心菜ここな。実力があり、26歳にして武蔵副艦長を務めた。

蒼二は髪の横を剃っている。現代でいうツーブロックである。彼は我流といい、自ら剃っている。

心菜はロングヘアでスタイルが雪那と同じく軍人とは思えないほどいい。


「ふぅ、まったく。翔の野郎俺の剣道の誘いを断りやがって」


蒼二はブツブツと文句を言う。


「艦長、そりゃ「真剣で」なんて断られるに決まってるじゃないですか」


ハスキーな声が第一艦橋内に小さく響く。

それを聞き蒼二は壁に顔を向け両腕を無邪気に振り壁を叩く。大きな音が第一艦橋から外に溢れる程響く。


「そもそも雪那の後輩が何故武蔵副艦長なんだ!成斗の方が良いぜ……」


「成斗は大和副艦長です。……一応言っておきますが、身近にいる副艦長が可愛い乙女だからといって、私を襲うなんて辞めてくださいね」


その一言に顔にシワを寄せすぐさま人差し指を指し蒼二はツッコ厶。


「誰がお前見たいなゴリラ女を襲うか猫被り!」


刹那、1秒に3度もカカト落としを蒼二に食らわせる。

蒼二の頭に3つのたんこぶが出来る。

心菜は音を鳴らしながら手を払う。


「ずみばせんでじだ……」


蒼二が心菜に土下座する。


((((副艦長、怖ぇー………))))


その光景を見て第一艦橋に居た者達は心菜副艦長の恐ろしさを改めて知った。蒼二は帽子を被り直す。


「でも、幾ら偶然とは言え、顔を知ってる奴等が艦長副艦長なのは可笑しいな」


「偶然ではありません。当然です。先輩達は今までの兵学校の成績を大幅に塗替えましたし、私達はそれに2番目に次ぐほどの成績を収めている。アメリカ海軍との大演習という大事な任務に、天下無敵無双の日本艦隊の副艦長艦長に任命したのは当然の結果でしょう」


「なんで副艦長のお前が自慢げに話してんだよ」


その時、腕を捲り凄い圧を掛けてくる。


「すいません」


またしても蒼二は土下座する。


((((やっぱ怖ぇー……))))


そして、もう一度第一艦橋に居た乗組員達は雪那の恐ろしさに圧倒された。

その時だった。


「か、艦長!や、大和が……大和が左舷に傾斜しています!」


「「ッ……!?」」


二人は大和の方を見る。


「はぁ!?な、何やってんだあの野郎!おい!今すぐ大和に打電をし……」


その時、武蔵も左へ傾斜し始める。

左の壁に落ち、蒼二は頭を打った。

蒼二が最後に見たのは、右舷のスクリューが見えるほど傾斜した大和と、同じく左の壁に落ち、打ち付けられ身動きがままならなくなった乗組員と心菜、武蔵に入ってくる海水の景色だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


1950年4月7日11時30分


空母信濃は大和に続く武蔵の後ろに付いて航行していた。

信濃艦長は倉本雪那。ショートヘアであり、年が1つ違うが、翔と蒼二の同期である。同期の3人の中でも生粋の戦略家である。信濃副艦長を務めるのは、成斗と心菜と一つ年は違うが同期の登村とむら 玲香れいか。髪型は後ろで髪を止めているいわゆるポニーテールである。因みに武蔵に乗っている心菜、信濃に乗っている二人は大和武蔵信濃に乗っている数十人の女性乗組員の中でも、案外綺麗な顔をしている。


「せんぱ……艦長、大和艦長から打電です」


「え?翔君から?」


雪那は少し驚いた表情で打電内容を聞く。

翔の方から打電をするのは珍しいからだ。


「ヤマト及ビムサシ丿速力ヲ最大速力二アゲル」っとの事です」


その内容を聞き、雪那は髪を右手で少し握る。

そしてため息を溢す。


「全く翔君ったら……。こっちの身にもなって欲しいな。この信濃、結構足遅いんだよ?航海長、速力を最大に」


伝声管に向かって雪那は命令を出す。

そして信濃は速度をあげ、穏やかな波を断っていく。

その時だった。

信濃が大幅に左舷に傾いた。

あっという間に航空甲板に海水が当たるほど傾斜する。


「キャッ!」


「うわぁぁ!」 


「くッ……!早く、退艦命令を……!」


雪那の声が少し震える。

雪那は退艦命令を出すべく、伝声管に手を伸ばす。

だが、その景色はその腕を止めた。

艦橋に居た者達は全員左の壁に打ち付けられた。

航空甲板の重さに更に左舷に傾く。

雪那は、同じく傾斜する大和と武蔵、そして、完全に転覆する光景と、海水が入ってくる光景の場面で意識が途絶えた。

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