艦隊結成編

第二話 異世界転移

何気ない海、魚が悠々と海中を泳ぎ回る。

珊瑚礁が太陽から放たれた光が、海面で屈折し受け煌めく。鳥が空を飛び回り、「キュー、キュー」っと声をあげる。

その時だった。


海面に黒い影が現れる。

その影は海面に近づき、影を大きくする。


そして………。


バサアァァッ!っという音と共に、深海から汽笛音、紅いバルバスバウと共に艦首が海面から飛び出る。菊花紋章が黄金の光を放つ。

白い飛沫しぶきをあげ、海面を刀の用に貫き、その船体を海面上に叩きつける。大波が衝撃で波立ち、甲板からは海水が滝のように溢れる。


戦艦大和だ。


不思議な事に、第一艦橋含め全艦内は濡れていない。

そして、狭い第一艦橋の床に倒れていた翔は目を覚ます。

俺は覚醒したかのように、飛び起き、辺りを見渡す。

その時、椅子に座っていた山本元帥も目が覚める。


「こ、此処は……」


「山本元帥、ご無事ですか?」

俺は後ろを振り向き口を開いた。


「あぁ、大丈夫だ」


その後、次々と乗組員達が起きていく。

「ここは何処だ?」、「なにが起きた?」っと口を揃えて言う。

海兵達はなにが起きたか分からず甲板に出る。


「艦長」

一人の海兵が俺に話しかけてきた。


「なんだ」


「双眼鏡で近くの島々を観察したところ、ハワイ沖にあの様な無開拓の島々はありません」


「……どうなっている」

俺は被っていた帽子をとり、頭を抱えた。

艦内に居た海兵も全員目が覚めた頃だった。


横からザバアァァッ!っと、左舷から紅いバルバスバウと菊花紋章を付けた艦首が現れる。船体が見えたと思えば、それは戦艦武蔵だった。


「む、武蔵が……」


「海から……」


俺と成斗が呟いた。

山本元帥も目を丸くしていた。

外に出ていた海兵、第一艦橋に居た者達、全員にとってそれは驚きの光景だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


武蔵の第一艦橋の中で、蒼二は目を覚ます。


「……あ?此処は……」


俺は頭を抱えながら、ぼんやりと見える景色を見る。

辺りを見渡し、右をみた。

そこには、ぼんやりとしているが認識できた。

大和だった。


「大和……。ッ……!?あ、アイツ……!」


寝ぼけたいた蒼二は完全に目を覚ます。

俺は倒れている乗組員達の間を走り、防空指揮所に駆け上がる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺達が呆然と武蔵を見ていた時だった。

第一艦橋の防空指揮所から一人の男が現れ、此方を指差し大声で叫ぶ。


「おい!翔ッ!お前大和を沈めやがってッ!ふざけんなよッ!」


……は?

俺は凄い速度で10回瞬きをする。

他の者達は呆然とその男を眺める。


「お陰で日本艦隊に傷がついたじゃねぇか!覚えとけよッ!後で真剣で剣道修業させてやっからなッ!」


俺は顔にしわを寄せ、防空指揮所に駆け上がる。


「か、艦長!」


最後に聞こえたのは成斗の声だった。

だが俺はそれに聞く耳も持たず駆け上がる。

そして、防空指揮所の左舷側に身体を乗り出す。


「ふざけんな!お前この前真剣で俺の事殺しかけたことあっただろうがッ!しかも大和が沈んだのは俺のせいじゃない!」


「あん時はお前胸ポケットにタバコの箱があって助かったじゃねぇか!」


「それが危ねぇっつってんだよアホッ!」


「何じゃと……!」


遠くながら俺達は自分の圧をぶつけ合う。


「「先輩!」」


俺は後ろから拳骨、蒼二は後ろからカカト落としをくらう。


「この非常時に……」


「なにを喧嘩してるんですかッ!」


成斗、心菜にツッコミを二人はくらう。


「大和は沈んでませんし、現在場所不明海域で大和は停泊中です。あの人より真面目な翔さんが、何故あの人のレベルまで落ちるんですか!?」 


「す、すまん……」


その時、蒼二は震える身体で双眼鏡に手を伸ばし、立ち上がる。


「おい待て成斗!テメェ、今俺の事ディス……」  


その時、たんこぶの上にもう一度カカト落としを食らう。


「黙れ」


物凄い圧を放ちながら蒼二の頭を足で踏みつけながらグリグリと動かす。


「タメ語やめろ……」


掠れ、震える声で気絶寸前に蒼二は言葉を残した。


すると、大和から見て右舷から、飛沫をあげながら平たい長く、大きい飛行甲板と紅いバルバスバウが現れる。

その姿は信濃だった。


「し、信濃まで……」


俺達は呆然とその光景をまたしても見たままだった。

その時、山本元帥が防空指揮所へ登ってくる。


俺は、咄嗟に敬礼をして謝罪する。


「す、すいません!この様な巫山戯ふざけの行為を見してしまい……」


「……まぁ、この様な異常事態だ。気がおかしくなっても可笑しくない。ともかく、各艦の乗組員を甲板上に全員呼び出してくれ。それと、各艦長には大和に集合せよとな」


「了解しました」


そして、俺は長官や上官に命令を出し、武蔵、信濃には打電で知らせた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


緑色の軍服を着た海兵、茶色の軍服を着た飛行士達が信濃、大和、武蔵の甲板上に揃う。山本元帥は大和の朝礼台に立つ。

俺達はそれを後ろで眺める。

山本元帥は、拡声器で信濃や武蔵の方まで聞こえるように話す。


「大和、武蔵、そして信濃の乗組員達よ。現在我々は、今まで見たことのない未知の海域、不明海域に居ると思われる。これは我々にとって非常に危険な状態である。そして、混乱状態である者も居るだろう。だが、今は我慢してほしい。祖国のため、祖国に帰るため、陛下のふねをお守りするため、我々は今後慎重に針路を決める。だから安心してほしい。皆は、これからも艦隊勤務に努めてくれ。以上」

山本元帥は朝礼台で敬礼をする。


その後、乗組員達は全員敬礼をする。

俺は拡声器を貰う。そして朝礼台に乗る。


「各艦の科長と副艦長は大和長官公室へ、その他の乗組員は直ちに持ち場に戻れ!」


「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」


全員が声を揃え言った後、駆け足で解散する。


「長官公室に行きましょう。山本司令」


山本元帥は頷き、俺と共に歩く。

雪那と蒼二も歩きついてくる。


「……はぁ、クソ」


蒼二はタバコを咥えながら頭の後ろで手を組む。


「どうしたの?蒼二くん」


「アイツが俺の武蔵の乗組員に指図してんのが気に食わねぇんだよ」


「別にいいじゃんそのくらい。短気だな〜」

雪那は目をつむりながら言った。

蒼二は頭にしわを寄せた。


「なんじゃと!?おい雪那!お前女で一つ年が違うってだけで俺に殴られんと思ってんじゃねぇじゃろうな!」


蒼二はキレると広島弁が時々出てくる癖がある。

雪那は「またか……」っと小さく呟く。


「思ってるよ」


「……んだとゴラァ!?」


俺と山本元帥は気にせず歩く。

蒼二は文句を言いながら、雪那はそれをあしらいながら俺と山本元帥についていく。

そして、各艦の艦長と副艦長、長官は長官公室の中に入った。

最初に口を開いたのは翔だった。


「……我々は現在、場所不明の危険海域に居る。参謀長や連合艦隊司令部は横須賀に居たことから、大和には乗艦されていなかったため、各艦の全科長副艦長にも出席してもらった。今後の方針と針路を決める大事な会議だ。そして、参謀長や司令部が居ない以上、連合艦隊に助けを求めることも出来ない。更に本土に打電も送ることができない」


その時、大和機関長の大祐が口を開いた。


「つまり、燃料補給も儘ならない……と?」


「そうだ」


その時、長官公室内がザワついた。

それはそうだ。弾頭の補給も出来なければ、燃料補給出来ないとなると、祖国に帰ることが非常に難しいのだ。

それを俺は静粛した。


「ともかく、まず我々は基地となる島を探さなければならない。それと、この辺りの地図を作らなければいけない。なので、信濃艦長」


俺は雪那の方を向いた。

雪那は俺の方を向き問う。


「はい。何でしょう」


「偵察機彩雲を使って、この辺りの調査を頼みたい。よろしいか?」


雪那は目をつむり、頷く。


「はい。良いでしょう。天翠てんすい航空隊に通告しておきます」


天翠航空隊。

航空母艦信濃専用の航空隊であり、信濃からの発艦、着艦など専門でこなしているため高速発艦と着艦を、ミスなく確実にこなす。それだけでなく、航空戦闘や雷撃爆撃の命中率、敵機からの攻撃の回避も、演習で幾つもある海軍航空隊のなかでもトップクラスの成績を出している。それ故、訓練などは厳しい。


「それは有り難い。大和航海長」


俺は大和航海長小野屋おのや 修斗しゅうとに声を掛ける。 


「はい。何でしょう」

大人びた声だ。


「停泊可能な島を発見次第、最大戦速で航行出来るようにしておいてくれ。武蔵、信濃の航海長も頼む」


「「「ハッ!」」」

小野屋と武蔵航海長岡崎おかざき まもる、信濃航海長森高もりたか 陽太ようたは敬礼をする。


「各科長、副艦長、艦長、今後の方針は、基地となる島を探し、資源を調達すること。意見がある者は挙手を頼みたい」


蒼二はタバコを咥えながら舌打ちをし、目をつむり顔を横に振る。考え込んでいた他全員は、蒼二が顔を横に振った後、顔を横に振った。


「山本司令、何かありますか?」


俺は最後に山本司令に呼びかける。

山本元帥はゆっくりと顔を横に振る。


「よし、ひとまずはその方針で進める。それでは、解散」


俺と山本元帥以外、扉を開け長官公室から出て行く。

山本元帥は舷窓から外を見る。


「帝国海軍最強の艦隊が、一度に揃って場所に迷うとは……」


俺は、罪悪感を感じ謝罪する。


「すいません。私の指揮不足でした。陛下のふねをこのような…」


山本元帥は舷窓を右手で円を描くように添えながら動かす。

太陽の光を受け波が煌めく。


「海は何も変わらないが、何かが違う。君は、どう思う」


下を向いていた俺は山本元帥の方を向き、疑問に思った事について問う。


「……といいますと?」


「この世界、『我々が居た世界とは違う』っという可能性に」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


プロペラの音が甲板上に鳴り響いた。

整備士達や搭乗しているパイロットの同僚が手を振る。

彩雲が甲板上から飛び立った。

5機の彩雲は陣形を組みながら飛ぶ。

彩雲は遠くに見える小さな島々の上を飛ぶ。

すると、遠くに1つの大きな島が見えた。

パイロットは母艦信濃に打電をする。


「艦長!偵察部隊から打電、『ジュウゴジ15時ホウコウ方向約1431カイリ約1431海里島影アリ島影あり』っとの事です」


雪那は偵察部隊からの報告を聞き、頷く。 

そして命中をだす。


「旗艦大和及び戦艦武蔵に打電。こちら信濃、偵察部隊から打電。15時方向、約1431海里先に島影あり。直ちに向う」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「艦長、信濃から打電。「こちら信濃、偵察部隊から打電。15時方向、約1431海里先に島影あり。直ちに向う」との事です」


翔は「了解した」と言い、帽子をただす。


「最大戦速、大和前進!」


一列に並ぶように進む三隻、の中で、信濃は偵察機を格納する。

波を断ちながら大和、武蔵、信濃は前進する。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ドルダード海に着座る悪名高き海賊、「エンバリー海賊船団」。

貿易船を襲い、酒を交わし合っている時だった。


「お?おいおいエンバリー、なんだありゃ」


酔っ払ってる一人の船員が指をさした。

遠くから見える。だが、この距離でも要塞のような大きさの船が大海を航行していた。


「ほほぅ?俺が見るに、ありゃボングレイガーの貿易船だ」


「はぁ?なんでんなもん分かんだ」


「アレを見ろ」


提督エンバリーは指をさした。

そこには巨大な大砲があった。


「アレは多分、ボングレイガーが今研究中の「戦艦」と呼ばれるヤツの部品だ。あの貿易船ごと奪ってヴァグルドフに売り飛ばしゃ大儲けだ!」


「で、でもよぉ、ボングレイガー帝国って最近すげぇ海軍戦闘力を持ってるって聞くぜ?そんなヤツに……」


「うるせぇ!俺の命令は絶対だろうが!」


船員はびくつき冷や汗をかく。


「よぉーし!野郎共!あの貿易船を奪うぞぉぉぉおおお!」


「「「「「おおおおおぉぉぉぉおおおお!!!!!!!!」」」」」


その中、貿易船に居た捕虜となった二人の幼い犬のような耳と尻尾をはやした双子の少女は俯いた。

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