第12話 田舎民、バイトと仕送り

 宿に帰った、今日のバイトはまた木の伐採だった。

 出身地の田舎でかなり長くやってきたことだったので随分慣れたものだ。


 必要な本数の伐採が終わると、今度は出身地の村に向かって木を投げ飛ばした。


 1本、2本、3本。


 どんどん投げていく。

 もちろん途中で落ちたりしたら大変だし全力でぶん投げる。


 村までの距離はだいたい把握しているのでこれくらいの力で投げれば問題ないというのはわかる。


「よし。これくらい投げれば十分だろう」


 元々じいちゃんから頼まれてたのだ。

 皇都の木は質のいいものがあるから余裕があったら投げ飛ばしてくれって。

 その頼みを今日果たしたことになる。


「爺ちゃん、喜んでくれるといいなぁ」


 さてと。


 宿屋の爺さんに頼まれた分もこれで終わりなわけだし、帰るか。


 宿に帰ってきた。

 建物の中に入ると爺さんが飛ぶようにして近寄ってくる。

 なにかあったのだろうか?そんなに慌てて。


「たいへんじゃっ!幻の生物、スカイフィッシュが出たらしいぞ!」


「スカイフィッシュっ?!」


「うむ。空を高速で飛んでいく謎の物体を見たんじゃ!ワシ以外にも見たやつがおってな。町中大騒ぎじゃ!」


「まじかー、スカイフィッシュかー」


「今も外で飛んでるかもしれない。見に行こうっ!」


 俺達は宿の天井に登ってみたが……結局スカイフィッシュなんてものは現れなかった。


「いないじゃないか」

「おかしいのー」


 その時だった。


(ん?なんだあれ?こっちに向かってきてる?)


 シュルルルルルルルルル。


 俺に向かってなにかが飛んできてた。


 俺にぶつかる手前でキャッチした。


「それがスカイフィッシュか?」

「違うなぁ」


 手を広げてキャッチしたものを見せた。


「肉まんだ」

「なんで空を肉まんが飛んでるんじゃ?」


「田舎の爺ちゃんからのお返しだよ」


 肉まんを食べる。

 うん。間違いない。爺ちゃんが作ってくれた肉まんの味だった。


 俺が木を投げ飛ばしたお礼に肉まんを投げてくれたんだろう。


「うーん、うまい。ベビーモスの肉を使ってるし」


「は?(ベヒーモスの肉なんてどうやって用意してるんじゃ?)」


 宿屋はボケーッとしてた。


「そもそもなんで爺ちゃんからのお返しが空を飛んでくるんじゃ?歩いて渡しにきたらいいのに」


「俺の村歩いて2時間くらいの場所にあるんだけど。わざわざお返しのために2時間も歩かせるの大変でしょ?だから爺ちゃんに投げてもらった」


「????????????」


「ん?」


「なにかの冗談か?(歩いて二時間のところに村なんかないぞ)」

「冗談を言うような雰囲気じゃなくない?」


「お主、そういえば出身地を聞いてなかったな、どの辺なんじゃ?(もしかしたら意外と近くて、百歩譲ったら肉まんくらいなら投げれる距離なのかもしれん)」


 俺は村のある方を指さした。


「この方向をまっすぐ行ったところに小さな集落がある」


「うーん(たしかにひとつだけあった気がするが。ほぼ廃村じゃが。あんなところに人が住んでおると思えんが。しかも遠すぎるぞ?)お主の村には井戸があったか?」


「あったよ。こっちじゃ見かけないよね」


「歩いて2時間……?(井戸があるなら間違いない。あの廃村のことだ!しかも、馬で走って半日の距離じゃぞ?!どんな脚力しておるんじゃ?!)」


「あーごめん。普通の人ならもっと早く着けるから分かんなかった?歩くの遅くてごめん」


「あの辺ならミノタウロスとかベヒーモスとかドラゴンとか、強いモンスターもうじゃうじゃいるじゃろ?どうしたんじゃ?そいつらは」


「ん?普通に殴り飛ばしてきたよ。敵がきたらみんなも殴り飛ばすよね?」


「え?(普通に殴り飛ばせるわけなくね?)」


 ポカーンとしてる宿屋。

 その横では俺の腹の虫が泣いていた。


「お腹すいたし酒場行ってくるね。じゃあ」


 俺はそのあと酒場に向かったのだが。

 スカイフィッシュを他にも目撃した人がいたらしく、酒場内はその話題で持ち切りだった。


 いいなー、俺も見たかったなー。スカイフィッシュー。



 学園にやってくると朝早くから例の公女様に絡まれた。


「おはようございますアルマくん」


「お、おはよう」


 なんで俺に絡んでくるんだろう?

 俺平民のモブなんだけど。


「聞きましたか?スカイフィッシュの件」


 頷いた。見たかったなー。


「謎の生物が皇都をウロウロしているのはいいことではありません」

「まぁ、それはそうだろうね」


 俺も正直気が気でないな。

 宿屋から聞いた感じじゃスカイフィッシュは俺の宿の周りにも出てたみたいだし。


「私は危惧しているのです。スカイフィッシュと呼ばれていたものがもし夜空を駆け回る犯罪者集団だったりしたら、と」


「犯罪者集団とかいるんだ、この国」


「いますよ。随時排除させていますけど」


 排除させている?私兵団とかを使って排除してるんだろうか?さすが貴族様だな。


 公女様ことレアは俺の両手をギュッと握ってきた。


「そこでお願いなのですが、スカイフィッシュの調査をお願い出来ないでしょうか?」


「なんでそんな話を俺に?」


 それこそ私兵団にでもやらせたらいいんじゃないのかって思うけど。

 俺ただの学生じゃん?


「あなたにしか頼めないのです(だって強いんだもん)」

「ん?」


 ひょっとして金銭面的に俺にしか頼めないってことなんだろうか?

 貴族って言ってもピンキリって話は聞くしな。


 金持ちな人もいれば金持ちじゃない人もいるだろう。

 この人は金持ちじゃないだけなんだと思う。


 そんな人から金を取れないよなぁ。

 宿の爺さんもちょうど、しばらくバイトは休みにしてくれてるし。

 時間はある。


「よし、いいよ。無料で協力してあげるよ(もしスカイフィッシュが犯罪者なら、近くの宿に住んでる俺も困るしね)」


「え?無料?(お金ならたくさん払うんですけど)」


「困ってる人からお金なんて取れないよ」


「アルマくん……(この人やばい。聖人なの?)」


「さっそく今日の放課後からスカイフィッシュについて調査してみよう」


 だがここでひとつ疑問点がある。

 もし本当に犯罪者集団が相手になった場合やばそうじゃない?

 俺はモブの平民だ。


 犯罪者集団になんて勝てるわけがないよー(プルプル)ってなわけなんだけど。


「この調査俺だけじゃなくて、他にも仲間とかはいるよね?」

「もちろん(徹底的に危険を排除するためにも国の総戦力で挑みますよ)」

「そう。なら安心したよ」

「今日の放課後、さっそく仲間を紹介しますね」








【補足】


スカイフィッシュは投げ飛ばされて空を飛んでた木を他の人が勘違いしてるだけです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る