第10話 田舎民、借りを返す

「現在この下水道には大量のプレイグマウスが出現している。あなたの身も危ないぞ?」


「大丈夫だよ。俺、病気にならないから」


「え?」


 キョトンとしてたハンバーガーお姉さん。

 田舎民舐めない方がいいよね。

 俺は野宿をしまくったせいで体の免疫が異常なくらい高いんだよね。

 ついでに言うと田舎には病院もない。

 医者にもかかれないし、田舎という厳しい環境で気付いたら最強の体を手に入れた。


 いっさいの病気にならない。言ってみればチートレベルの健康体。


「そういう体質でさ。それを言うなら君たちも早く逃げた方がいいんじゃないかな?ここ、明らかにやばいよ?」


 俺はネズミを引きずって出口の方を目指すことにした。


「待ってほしい」

「どうして?」

「我々は皇族からの指示でここにいる」


 ピクリ。

 こいつらが宿屋の言ってた皇族の犬か。


「皮を持ち帰れなければ我々は困る」


「そういうわけならこれはあげるよ(ハンバーガーの件も忘れてないし。さすがにこれでチャラにするけど)」


 俺はさっき倒した中ボスネズミを譲ることにした。


「いいのか?」


 頷いて帰ろうとしたんだけど……。


「待ってほしい」


 まだ何かあるらしい。

 ウンザリしたような顔で振り向いた。

 ここ、臭いから早く帰りたいんだけど。


 すっ。

 剣を抜いて俺に向けてきた。


 明らかな敵対行為。

 周りの人達は慌てた様子ですぐに止めていた。


「馬鹿ではないのですか?!剣を収めなさい!恩人になんて真似を?!」

「そうですよ。いくらなんでも不義理ですよ。それは」


 マキマキの金髪と、聖女のような姿をした女が止めていた。


 金髪マキマキの女の子が俺を見てきた。


「お許しを。言い聞かせますので」


「別にいいけど」


 だが……ハンバーガーは退かない。


「手合わせして欲しい。そして、私が勝てばネズミは貰いたいと思う(強い者と戦いたい。ここまでの道で壁につけられた傷跡はこの男がつけたものだろう。この世で一番固いと言われている材質のアダマンの壁に傷をつけたのだ。強いに決まっている。私は一番でないと気が済まない。私が一番だと証明する)」


 あー、どうしようかな。


 めんどくさいとか以前に正直勝てる気がしない。

 俺はただの一般人。

 向こうは皇族が選んだ実力者。


「俺は戦いたくない。それこそネズミを渡すから見逃して欲しいくらいだけど?」


 そして、これ以上の会話も正直意味が無いしめんどくさいと思ってる。


 早く帰りたい。


(逃げようか)


 チラッ。


 背後に目をやって退路を確認。


「手合わせ願えないだろうか?(私から視線を逸らしたというのに、それでも隙が見えない。間違いなく強者だ)」


(退路は確保できた。一瞬の隙をついて、逃げよう)


 俺は中ボスネズミの死体をおもむろにハンバーガーに向けて投げつけた。


 突然の事でハンバーガーは対応できない。


「え?」


 だっ!


 そして、逃げた。

 脚力には割と自信がある。

 このまま進めば逃げ切れるだろう。



 数分後。

 俺は地上に帰ってきてた。

 素材を持って宿屋へと帰る事にした。

 無事に逃げきれたようである。


 結果的に中ボスを欲張って倒しに行ったせいで、不必要に絡まれてしまったことになったが。


 まぁ、考え方を変えよう。


 ハンバーガーの恩を返せた。


 物事というのは考えようというやつである。


 その代わり俺はもうあのハンバーガーの事をもう忘れる。

 これからは貸し借りもない。



「おおうううううう、これはすごい」


 俺が持ち帰った素材の山を見て宿屋の爺さんは唸っていた。


「てっきりもっとかかると思っていたがここまで仕事が早いなんて」


 約束の応酬を受け取る。


「朝飯前よ。田舎民だしできるよこれくらい」


「さすがだな、田舎民」


「ところで爺さん。俺は約束通りのものを持ってきた。そこで交渉したいんだが、俺の部屋からグレードアップを頼めないか?」


 爺さんは笑っていた。


「ふむ、分かっておる。もちろんお前さんの部屋が最優先だ」


「ありがとう」


 どうやら、俺はあんな汚い部屋で過ごす必要はなくなりそうだな。


 爺さんはニマニマしていた。


「ベッドの改良、それから伐採してもらった木で宿の補修もできる。宿泊料の値上げもできるな」


「俺の宿泊料も増えたりしないよね?」


「ふぉふぉふぉ。心配するでない。そこは現状維持のままだ。」


 ほっとした。

 俺には金銭面の余裕ないしな。


「ではさっそく作業に取り掛かるかのー」


 爺さんは素材を使ってベッドの備品なんかの作成を始める。


 俺の分だけは素行で作ってくれたらしい。

 ものの数分で出来上がる。


「さ、今日はゆっくりと休んでくれ」


「助かるよ、爺さん」


「なに、礼には及ばん。気にせんでくれ」


 この日、俺は初めて高級寝具というものに触れた。

 皇族が欲しがるくらいの素材で作られた寝具。

 それは、ほんとうにすばらしい寝心地だった。


 翌朝のこと。

 俺のもとに一通の手紙が届いた。

 持ってきたのは宿屋の店主。


 この宿では送られてくる荷物はいったん宿屋の責任者が受け取って。それから客の手に渡る。


「誰からじゃ?親御さんからか?」


 差出人すら見てないらしい。

 この爺さんは人のものを盗み見するような人間ではないようだ。


 裏表をひっくり返して差出人を探す。


「魔法学園からか」

「皇立魔法学園か!!!!やはり、おぬしはそこの生徒なのじゃな!!」


「うん、まぁね」


「やはり、エリートぞろいの学園は生徒もみんなすごいんじゃなー」


 これはお世辞だよなあ?

 俺のいく公立はエリートなんていない。だれでも入れるし。お世辞か?


 それとも皇立の方と勘違いしてるんだろうか?

 うーん。まぁ、爺さんだし公立と皇立の違いはなかなか複雑かもな。

 たぶん勘違いしてるんだろう。


「爺さん言っとくけど、余裕で合格できる学園だよ?(俺はいっさいすごくないし、ここは謙遜しておこう)」


「言うではないかこのこのー(超名門にも余裕だなんて、自信家じゃのー。だけど、そのいっさい謙遜しない態度がかっこいいぞー!)」


 肘でぐいぐいと俺の脇腹をつついてくる。


 まぁ、なにはともあれ。

 俺はこうして名前を書けば入れる学校に。

 名前を書いただけで入学したのでした。

 ぱちぱちぱち。


 これからはのんびりと学園生活を楽しむぞー。


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