第7話 田舎民、アルバイト


「ここかぁ、俺が泊まることになる宿は」


 じいちゃんに貰った地図と実際の現地を見比べていた。

 うん、やっぱりここだった。


 中に入ろう。

 中にはカウンターがあって、初老の老人店員が俺を見ていた。


「いらっしゃい」


「予約してると思うんですけど、アルマですけど」


「あぁ、話には聞いているよ。こっちだよ」


 カウンターから出てきて俺の案内をしてくれることになる。


 案内された部屋は……


「きったな」

「君、直球だね」


 爺さんは苦笑いしてた。


「ここ以外ないんですか?」

「悪いけど、ないんだよね。それに予算的にもここが限界だよ、はは」


 ふーん。

 まぁいいか。


「それより、バイトの話なんですけど、どんなことするんです?」


「あぁ、バイトか。さっそく説明していいかい?」


 こくんと頷いた。


「見ての通りボロいんだよね。この宿は」


 部屋を見た。

 ボロい。


 ベッドはあるけど、ボロボロだし。

 なんか汚い。

 俺が初手「きったな」と言ったのはだいたいこれのせいだ。


「できればベッドくらいは変えたいと思っててさ、そこで木を伐採してきてほしいんだ」


 簡単だな。

 俺はずっと村で木を伐採してたし。

 慣れたものである。

 ちょろいちょろい。


「この宿の裏手はすぐに森になっててさ。そこで木を何本か取ってきて欲しいんだ」

「分かった。ちなみに切り方はなんでもいいの?」

「なんでもいいけど、工具なら貸すよ?(魔法でも使うのかな?いらない心配だったかな?)」

「俺には自分の右手という道具があるのでいらないですよ。それで何本くらい必要になります?」

「入学は3日後だったよね?それまでに15本ほどあるといいかなぁ。自分のペースでやってね」


 俺は頷いて部屋を出ていくことにした。


 さっそく裏手の森に向かうことにしよう。

 宿を出ると、


「あっ、アルマきゅん」


 リアンに出会った。


「奇遇だねこんなところで会うなんて」


「うん、奇遇だね。これからどこか行くんですか?(やっと見つけたよおおお)」


「今からアルバイト。裏の森で木を切ってきて欲しいんだって」


「ついて行ってもいいですか?邪魔はしませんので」


「うん、いいよ」


 リアンを連れて裏の森に向かっていく。


「そういえば、私もアルマくんも学園に受かってましたよ。(超難関だし怖かったー)これからは一緒に学園に行けますね」


 まぁ、何度も言うけど名前書けば入れるような学園だから。合格は当たり前だけど、俺は水を刺すような無粋なことはしない男だ。


「うん、良かったよね」


 森の中に入っていこうとする手前のことだった。


 パシっ。


 リアンが俺の手を取ってきた。


「どうしたの?ひょっとして、怖いとか?」


 森の中は薄暗い。

 おまけに今は空にうっすらと白い月が浮かぶくらいの時間である。

 女の子にとっては怖いかもしれない。


 すぅ、はぁ。

 リアンは深呼吸してから、


「す……ちゅきです(緊張して噛んじゃった)」


 え?

 月です?


 空を見た。


「私と付き合ってください(噛んだけどこれで伝わるよね?空見たけど照れてるのかな?かわいい)」


 アルマ思考中。


 うーん、付き合うってのはなんなんだろう?

 この綺麗な月をいっしょに見たいってことだろうか?


 うん。たまには柔らかいお月様を見るのもいいかもね。


「そうだね。美しいね(月が)」


「アルマきゅん……(これは、OKなのかな?!)」


「俺が連れて行ってあげるよ(やっぱちょっと薄暗いし森の中怖いみたいだし男らしく先導しないとね)」


「はぅ、どこに連れて行ってくれるんですか?(幸せの果てまでとか言っちゃうんでしょうか?)」


「美しい月が見えるあの丘まで(森の中に小さな丘が見えた。あそこで見よう)」


「アルマくぅん……(私が月くらい綺麗って言ってくれてるのかな?でも、丘は、なんの例えなんだろう?)」


「さぁ、行こう」


「アルマくんは素敵だね(でも手を繋いで欲しかったけど。ひょっとして言葉は要らない、みたいに手は要らないってことなのかな?)」


 素敵?

 あー、月の話か。


 たしかに、この世界の月は美しいし素敵である。


 俺はそんな月を見上げて、ふと呟いた。


「今日も綺麗だなー、月が」


「はぅぅぅぅぅぅ(照れちゃうよそんなに言われたら//////)」


 あー、そうそう。そういえば忘れてた。


 俺まだ夕食食べてないな。

 ハンバーガー食べたいな。あの月が見える丘で。

 ぶっちゃけ俺は月なんてどうでもいいから、リアンが月を見ている間にハンバーガーを食べてしまおう。


 俺はちょっと効率厨なとこある。

 腹を満たしながら、リアンとの交流を深めるのだ。

 まさに一石二鳥。


「リアンはご飯食べた?」

「はぅっ、食べてません」

「良かった。なら食事を買って月を見ながら食べない?」


「なにを食べますか?(もしかして、月の下で私を食べたいってこと?)」


「ハンバーガーがいい」


「ハンバーガー好きなんですねアルマくん(胸で挟んで欲しいってことなのかな?)」


「ちょっと買ってくるよ。ここで待っててくれる?」


「は、はい//////(なにを買ってくるんだろう?やっぱりゴム?そこまで私の事考えてくれてるんだ。でも意外とぐいぐいくるなー)」



 ハンバーガー5個くらい買って帰ってきた、店は昼間と同じところだ。

 紙袋にパンパンに詰まってる。


「いっぱい買いましたね(こんなにたくさん使うくらい、私といっしょにいたいってこと?アルマくん)」


「うん、必要だと思って」


「アルマくぅん……」


 俺は2つは最低食べたいし、リアンがどれくらい食べるか分からないから多めに買ってきた。


 俺はそのまま森の中に入っていくことにした。

 一応アルバイト中なので、あまりこんなところでサボってる訳にも行かない。


 スタスタと歩いていくけど。

 リアンはどことなく、時間をかけたそうにしていた。


「どうしたの?リアン?」

「あ、いや。なんでもないです(なんでそんなスタスタ歩くの?もっと、このドキドキを楽しませて欲しいのに。でも、それだけ早く私としたいってことなのかな?)」


 リアンの歩く速度が上がった。

 そのまま歩き続けて丘までついた。


「さぁ、見よっか」


 ドサッと丘に座り込んだ。


 袋からハンバーガー取り出した。

 リアンにも渡す。

 なぜかキョトンとしていて。


「え?ハンバーガー?(ほんとにハンバーガー買ってきたの?この人)」

「嫌いだった?」

「いえいえ、大好きです!(ほんとはあんまり好きじゃないけど、嫌われたくない。っていうか、なんだか流れ不穏じゃない?どういう状況?ほんとにそういう展開に繋がるのかな?)」


 モグモグ。

 ハンバーガー食べていく。


 俺はリアンの顔を見てた。


 すると、リアンも俺の顔を見てきた。

 咄嗟に俺は話をすることにした。


「月、綺麗だね」


 こくんと頷くリアン。


 ていうか、このハンバーガー相変わらずあんまり美味しくないな。

 マックが偉大過ぎるのだろうか?


 リアンはひとつでいいって言ったから俺が4つ食べることにした。


 完食。


 うっぷ。

 腹いっぱい。

 げっぷ出そう。

 我慢したい、女の子の前だし。

 でも、無理そう。

 あっ……出るっ……。

 出ちゃう。


「げぇぇぇぇぇっ」


「へ?げっぷ?」


 出すもんは出して気分がスカッとしたけど。

 やってしまった。


「あー、ごめん。人前だったのにね。」


 反省しよう。

 さすがにくっそ汚いげっぷをし過ぎてしまった。


(はぁぁぁあ、さすがに嫌われたかな?これ)


 さすがに入学前に嫌われるのはちょっとあれだな。

 シュントする。

 ガックリと肩を落とした。


「……(すごい落ち込んでる。私は今試されている。彼氏の唐突なげっぷを受け入れられるのか。それなのにげっぷで戸惑うなんて、私はなんてことを……)」


 リアンの顔が柔らかくなった。


「素敵な、おげっぷですね。豪快で男らしさを感じてしまいました(少なくともアルマくんは私の前でげっぷをしていいと判断してくれたんだ。私が拒絶しちゃだめだっ!)」


「え?そうかな?」


 ただのくっそ汚いげっぷなんだけど。

 正直嫌われたと思った。


 でも、なんか問題なさそう?


「これから毎日、その男らしい豪快なげっぷを私に聞かせてください(これは私なりの求愛の言葉ですよ、アルマくん。男の人も『毎日味噌汁飲みたい』って言うでしょ?それと同じです。さぁ、私の求愛に答えてください)」


 え?

 げっぷフェチ?


 すんごい性癖をお持ちだなぁ。

 ていうか、毎日もこんなくっそ汚いげっぷ出せないよ。


 なんつーか、一年に1回出るか出ないかレベルのくっそ汚いげっぷだよ?いまの。


 でも


「げっぷなら俺じゃなくてもいいでしょ?」

「いえ、アルマくんのげっぷがいいのです」


 うーん?

 俺のげっぷからでしか得られないなにかがあるのだろうか?

 俺はげっぷフェチじゃないから分からないけど。


 でも俺はちょっと匂いフェチなとこもある。

 特定の匂いでしか感じられない興奮はある。

 それと同じかもしれない。


「リアンが望むなら、いいよ」


「アルマくん……うれしーですぅ(もう、結婚したも同然。勝ちましたよこれは。学園の有象無象を蹴散らして私がアルマくんの第一位夫妻となる!)」


 それにしても、この子すっごい特殊な性癖を持ってるな。


(毎日げっぷ出せるかな?)


 出なくても、流石に多めに見てくれるよね?


 それから、リアンはすっと目を閉じた。

 頬を赤らめて。


(え?これ、もしかしてキス待ちってやつ?)


 俺は恋愛関係には疎いけど、さすがにキス待ちの顔くらいは分かる。


 でも、なんで、いきなりキス待たれてるの?


 アルマ思考中。

 CPU稼働率100%


(うん、分からん!)


 でも、分かったことはある。


 おそらくだが、俺が勘違いしているのだ。

 これはキス待ちじゃない。


 なら何を待っているのか、それはげっぷだ。

 げっぷ待ちの顔だと思う。


 だが今の俺にげっぷなんて出せない。

 さっきのクソ汚いげっぷで力を使い果たしたからね。


 俺は無言で立ち上がった。


「アルマくん?(どうしてキスしてくれないの?私めっちゃキス待ちの顔してましたけど?)」


「今の俺は君が満足するような(げっぷを出せる)男じゃない」


「え?」


「君の前では最高の(げっぷを出せる)男でいたい」


「アルマくん?(すでに学園一位なのに、まだ私のために高みに登ろうとしてくれるの?リアン、感動しちゃいます)」


「だからここではやれないよ(げっぷ)」


「アルマくん……(そんな、もういいのに。早くキスして欲しいけど、それだけ私のことを大切にしてくれてるの?)」


 俺はリアンに背中を見せて歩き出した。


「アルマくん(背中で語ってる。ここではキスなんて出来ないって、なんて男らしい人なの?)」


(やばい。時間潰しすぎた。アルバイト、早くしないと)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る