第5話 【他視点】田舎民、番狂わせ


「ほんとに帰っちゃいました」


 アルマが結果発表を見ることも無く帰ると言ったこと。


 正直なところリアンは冗談かなにかだと思っていた。


「まさか、本当に帰るなんて」


 リアンがそう呟いた時だった。

 会場内にアナウンスが聞こえた。


「全ての受験生の試験が終わりました。これより合否発表を行います」


 ザワザワザワザワ!!!


「受験者数250名。合格者数250名。全員合格。おめでとう」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」


 会場内が湧いていた。


 リアンも胸を撫で下ろしていた。


(良かった。不合格じゃなかった)


 それから一人の女の人が皆の前に出てきた。

 その人のことは誰もが知っている。


 皇立ヴァイトリング魔法学園の学園長である。


「これより、成績を開示する。合格したからと言って浮かれることがないよう。成績下位者はたゆまぬ努力を。上位者はより修練に励むよう」


 そうして、学園長は成績表を開示した。

 ずらりと受験者の名前が成績順に並ぶ。

 250位の名前にリアンは見覚えがあった。



250位:ジェイス・アーキマン 得点650


(あの人最下位なんだー)


 リアンはジェイスのことは嫌いだったのだが。

 あの言動は不安の裏返しなんだと思えば……許せ…


(あー、やっぱりそれでも許せないなぁ)


 これからは関わらないでおこうと胸に誓う。

 普通に嫌いです。ジェイスのことは。


 それから学園長はどんどん成績を開示していく。

 リアンの順位は180くらいと、あんまりよくはなかった。

 それでも合格できただけ良しとする。


 どんどん順位が発表されていくが、アルマのように帰る人間はいない。

 自分の順位さえ確認出来ればそれで終わりと思う人間がいないからだ。


 なぜならこの発表会はここからが本番であると言っても過言では無いからだ。


「今年の五皇はどうなるのかなぁ?」

「五皇まじでいいよなぁ。響きがほんとにかっこいい」


(五皇、私も気になります)


 皇立ヴァイトリング魔法学園には五皇という称号が存在する。

 これは成績上位者に与えられる称号である。

 持っているからと言って特にメリットはないが、力の象徴として皆欲しがるものである。


 この話になった瞬間、一際大きい声が沸いた。


「今回の五皇のナンバーワンはこの私でしてよっ!」


 リアンは声の方向に目をやった。

 そこにいたのは金色の髪を巻き巻きにしたお嬢様。


(シャーロット・フォン・クレイノーツ)


 ヴァイトリング皇国にいて知らぬ者はいない程の超名門のお嬢様。


 代々学園の成績上位を飾ってきた素晴らしきお方。


 リアンもその名前を知っていた。

 順当に行けば間違いなく成績トップに入れる実力の持ち主。



 そのとき、別の声が上がる。


「シャーロット嬢は相変わらずはしたないですわね。果報は寝て待つという言葉を知らないのでしょうか。喚いても結果は変わりませんわよ?」


 リアンはまたしても目を向けた。

 そっちにいたのは


(聖女。マリアン・フェアフィールド)


 代々国を守る聖女を排出している優秀な家系の娘。


 こちらも順当に行けばトップ入は間違いないであろう人物。


 リアンは他にもトップ入りできそうな人間を何人か知っているが、今騒がしいのはこのふたり。


 この騒ぎを学園長は楽しそうに見守っていた。

 毎年恒例のことだ。

 誰がトップなのか。

 予想している瞬間とか、自分が入っているかもしれない、と期待している時間は楽しい。そんなことは百も承知なので学園長も水は刺さない。


「では、さっそく五皇を発表するぞ?」


 そうして発表をしていく学園長。


「5位。シャーロット・フォン・クレイノーツ 得点は1080」


「5位?!このワタクシが?!低すぎますわ!なにかの間違いでしょう?!」


「ふふふ。相変わらず騒がしいですわね。シャーロット嬢は。まったく、品のない」


 余裕のマリアン。

 名門生まれのマリアンには分かっていた。

 これで自分の4位以内入が確定したこと。


 マリアンの中では250人の中で誰が5位に入るかは何となくわかっていた。そして、自分が5位以内は確実だったということを。

 そのうちの1人が5位で消えたということは、自分は間違いなく4位以上だ。


「4位。メイル・ラクーン!得点は1100」


 名前を呼ばわれた少女は何も答えない。

 まるで、当然の結果と言うように。


 マリアンは心の中で激しく期待していた。


(これで、3位以上確定!ワクワク!ワクワク!ちなみに、3位だと思いますの、私は!残り2人には逆立ちしても勝てませんので。3位でいいですわよ!3位!マリアン・フェアフィールド!さんい!まりあん・ふぇあふぃーるど!)


 学園長はさらっと3位を発表した。


「3位。ミーナ・フロイゼル。得点は1500」


 名前を呼ばれた少女は困ったようにうろたえていた。


「ふぇっ?私なんですか?私が、3位?いいんですか?」


 周りがザワザワし始める。


「いきなり跳ね上がってきたなぁ。得点」

「レベルが違ってきた感じするよな」

「毎年ワンツースリーくらいまではやっぱり抜けるからなぁ」


(え?)


 マリアンの顔が少しだけ曇り始めた。


(フロイゼルの娘には勝てないと思っていたのですが、これはいったいどういうことなんでしょう?いつのまにか、私が彼女を抜いていたのですか……ね?)


 マリアンはそれでも僅かな期待を抱きながら結果発表を聞いていた。


 ちなみに、成績トップを収めていると思われる残り一人には本当に勝てる気がしないマリアンである。


 だから一位はないことは自分が一番分かっている。


「二位っ!」


 そこで少し溜めた学園長。

 マリアンの中で色んな感情が膨れ上がっていたけど。


 運命の時は来た。


「エリス・ハイロード 得点3000」


 一気に湧き上がる歓声。


「ダブルスコアだ!」

「やっべぇwww」

「さすが、ハイロードの娘だなぁwwこりゃ誰も勝てねぇよw」


 そこで、エリスという少女が口を開く。


「ありがたき幸せと言いたいところですが。一つ問題が発生しましたね?学園長?」


 その問題は薄々全員が感じている事だった。


 特にマリアンが1番感じていた。


(エリスの実力は私たちが一番知っていますわ。どうして)



 マリアンが抱いた疑念はこの場の誰もが抱いたものである。



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