第3話 田舎民、分からせる
しばらくの沈黙。
それから試験官は口を開いた。
「合格だ(なんだ?この魔力量は。いったいなんなんだ?魔力が多すぎて測定器が壊れてしまったぞ?)」
「ありがとうございます」
ちょっと不安だったけど無事に合格できた。
よかったよかった。
まぁ、公立の方は誰でも合格できるから当たり前だよな。
実際、前の方で行われている第二、第三試験でも落とされているやつはいない。
噂に聞くとおり全員合格出来るようだ。
俺は安心感を胸に抱きながら第二試験へと移っていく。
第二試験へ向かうと前にはジェイスがいた。
「え?お前、なんでいんの?(ここ、誰でも合格出来るとこじゃないぞ?)」
「名前書いたら誰でも受かるんだからいるでしょ(俺が名前書けないような無能だとでも思ったのかな?名前くらい書けますけどーっ!)」
「名前書いたら受かる?まぁ、そうとも言えるけど……(ここは一般的な学園じゃない。本当に実力のある人間しか受験に来ないから、受験に来た人間はほとんど受かる。よって、名前書いたらほとんど受かるのは間違いではないが)」
俺とジェイスの間になんとも言えない空気が流れていた。
なんなんだろう?
そんな空気に耐えかねたのか、ジェイスが口を開いた。
「次の試験は体力測定だが、自信はあるのか?(最低合格ラインは握力なら80キロ。この国の男子平均が40。80出せないなら他の試験で頑張って埋めるしかないぞ?)」
「あるよ」
村では体力勝負なことが多かった。
村の近くにドラゴンが来たらジャンプして、殴り倒しに行ったりした。
そのまんまドラゴンの体を引きずって村まで帰らないといけないし、体力には自信がある。
それから毎日山に行って、正拳突きで木を伐採して村まで投げ飛ばしてた。正直言って魔法より物理の方が自信あるくらいだ。
やがて、ジェイスと俺の順番が回ってきた。
第二試験は1人ずつやる方式ではなく、一度に複数人やれるみたいだ。
よーし、ここで思いっきり点数稼ぐぞー!!!(入学した時のクラス分けは成績によって決まるから、一応手は抜かない)
気合十分。
そのときだった。
「少し待ってくれ」
第一試験を担当してくれた試験官が来ていた。
そして、ごにょごにょと第二試験官に話をしていた。
ひそひそと話しているようだったけど、俺には丸聞こえだった。
(聞こえてるんですけど、いいんですかー?)
「アルマくんの方が少しおかしい(念のため彼だけ特殊な器具を渡せ)」
「それは本当なのか?」
「もちろんだ。嘘なんてついても仕方ない(魔力量が他の生徒と比べて100倍はあった。おそらく、身体能力も高いと思う)」
第一試験官は帰っていった。
(がーん。俺が少しおかしい?まじで?)
第二試験官は俺とジェイスに別々の器具を渡してきた。
「初めは握力測定からです。2人とも、計測してください」
渡されたのは日本でも見た事ある握力測定器。
まんまあんな感じである。
「ふん!」
ジェイスが先に計測していた。
「(81か)ぎりってところか」
俺の方を見てくるジェイス。
「お前だけ測定器違うじゃねぇか。イージー設定の測定器なのかもな。いいなー」
むかっ。
俺は思いっきり測定器を握った。
バキャッ!
いや、訂正しよう。
握りつぶした。
レバーが破壊された。
あんぐり。
試験官とジェイスは口を大きく開けて呆然としていた。
まさか、握り潰されるとは思わなかったんだろうなぁ。
そのとき、試験官が小さくボヤいていた。
「う、うそだろ……?(メーターだけは動いてるけど、握力99999キロ?!人間じゃねぇだろ?!お前!)」
(イージー設定の測定機でもあんまり出なかっのかな?残念だなー)
とほほ、自信あったんだけどなー。
握力。
◇
第二試験も順調に終わった。
第二試験の都合上俺はジェイスと一緒に第三試験へ向かっていた。
「よう。アルマだっけか?お疲れさん(マジで何でこいつがここまで残ってんだよ。おかしいだろ。常識的に考えて)」
「おつかれー」
「お互い受かるといいな(意外と良い奴だしなんか毒気も抜かれるわ。純粋に応援したくなってきた)」
「ぜったい受かるよ(だってここは名前書けば猿でも受かる公立だもん)」
「お前、良い奴じゃねぇかよ。ありがとな。(超難関学園だから色々とストレス溜まってたんだよ。悪ぃな)」
出会いは最低だったのに、謎の友情が芽生えてきていた。
「アルマ、知ってるか?第三試験が試験官との戦闘ってこと」
「知らなかったなー」
「試験官と直接戦うんだよ。その戦闘データで最終判定が出るんだよ(ぼろ負けするって話は有名だ。でも、試験官は受験生の長所とか短所とか見つけて、それで合否を決めてくれる)」
「へぇ、楽しみだなー(きっと、勝たせてくれるんだろうなぁ。だって、猿でも入学できるもん)」
ジェイスの方はブルブル震えてた。
武者震いかな?
「アルマ、いろいろサンキューな。お前と学園で会えるの楽しみにしてるぜ(生まれが最悪だとしても、超難関の名門学園にここまで食いつける。お前のその姿は俺に勇気を与えてくれた)」
「うん、会えるさ。名前書けば入れるし(鼻ほじ)」
それにしてもマジでヌルイ試験だなー。
もう少しピリピリしてくれてても良かったんだけどこの学園の入学試験ぬるすぎない?
俺は第三試験会場に続く扉を見た。
第三試験は会場が変わる。
専用のフィールドで試験官と戦うらしい。
ちょうどそのとき第三試験会場の扉が開いた。
出てきたのは厳のような男。40代前半くらいに見える。
その男に試験官補佐の人間が用紙を渡した。
あれは、俺たちがここに来るまでに出した試験のデータである。
「ふむ。ジェイス・アーキマンか。来い。相手してやろう」
「はいっ!(うぅ、緊張するな。この人現役の騎士団の団長だっけ?国を守る国営騎士団の団長らしいんだよなぁ、ぜってぇ。ボコボコにされるわ。でも頑張るぜ、)」
ジェイスは急いで試験の中に入ってった。
数分後、扉が開いた。
補佐が試験官に俺のデータを渡していた。
「うそだろ……」
試験官の顔が真っ青になってた。
俺の試験のデータが低すぎたりしたのだろうか?
特に魔力は自信がないからな。
計測器も変な音鳴らしてたし。
ごにょごにょと話していた試験官と補佐たち。
「これ試験しなくてよくね?(俺でも勝てないぞこんな化け物。いったいどこから連れてきた)」
「お言葉ですが試験官様。戦闘をしてデータを取るのがあなた方の役目です(パワハラ)」
冷や汗が出てた。
もしかしたら俺の戦闘データなんてとる価値すらないと思われているのかもしれないが。
俺は近づいて行った。
「試験官さん」
びくっ!
試験官は体を震わせていた。
いきなり声をかけたから驚いたのかもしれない。
「最終試験、受けてもよろしいですか?」
「あ、アルマくん。ささ、中へ、どうぞ(なんていう圧力だ。ちびりそう。これが学生に出せる圧なのか?)」
なぜに敬語?
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