戻ってきた日常

戻ってきた日常

 ステージの照明が元に戻って、スクリーンに学校の教室をイメージした映像と、『3日後』という文字が表示される。

 

 ミサキ「えっと、シキシマがしきしま型巡視船、スペンサーがベア級カッターで、セネカさんがそのきょうだい。 マーガレットさんのモデルはセンチネル級カッター。 バーソルフとカルフーンが、バーソルフ級カッター⋯⋯と」

 

 なにやらぶつぶつと言いながら、ステージの下手からミサキが出てくる。

 

 シキシマ「なにしてるんだ?」

 

 すると、ステージ中央の入口からシキシマが現れた。

 

 ミサキ「サードレギオンのみんなについて調べてたんです」

 シキシマ「調べた⋯⋯というのは、モデルになった艦船のことか?」

 ミサキ「データが多くて大変ですけどね」

 シキシマ「全て覚える必要も無いだろう」

 ミサキ「知っておいたほうが、みんなを理解できる気がするんです」

 

 そんなことを言いながら、ミサキは階段に腰かける。

 

 シキシマ「まぁ、オレがとやかく言う筋合いも無いか」

 

 シキシマも、ミサキの隣に腰を下ろす。

 ステージ2階の上手には、バーソルフとカルフーンが姿を現していた。

 

 バーソルフ「海の森の状況は?」

 カルフーン「インフラは無事で、コーストガードの隊員にケガ人はいません。 あれだけのラーンに侵略されたのに、これだけの被害で済むなんて⋯⋯」

 バーソルフ「それは、あの子ががんばって戦ったからだろう」

 

 バーソルフとカルフーンは、シキシマと話しているミサキを見つめた。

 

 シキシマ「そういえば、ミサキに渡してほしいと、ミナトからあずかった物があるんだ」

 ミサキ「お姉さまから?」

 

 ミサキは首をかしげる。

 そんなミサキの仕草を見てクスクスと笑いながら、シキシマは持っていた紙袋に手を入れ、小さな箱を取り出す。


 ミサキ「それは?」


 シキシマは、答える代わりに箱を開ける。

 箱の中には、銀色のネックレスのような物があった。


 シキシマ「認識票だ」

 ミサキ「認識票?」

 シキシマ「コーストガードの隊員が身につけているものだ。 ドッグタグとも呼ばれていて、個人を特定するために、その人物の名前や生年月日、血液型が記されている」

 ミサキ「コーストガードの人がつけるってことは――」

 

 認識票を受け取ったミサキは、動揺しているみたいだ。

 

 シキシマ「今日から、ミサキたちもコーストガードだ」

 ミサキ「わたくしが、コーストガード⋯⋯」

 シキシマ「オレたちは、これから先もいっしょに戦う仲間になる」

 

 そう言いながら、シキシマはミサキの認識票のチェーンを外した。


 ミサキ「なにしているんです?」

 シキシマ「記念に、オレが認識票をつけてやろうと思ってな」


 ミサキのうしろに移動したアーガスは、ゆっくりとした動きでミサキの首元に認識票を着けてみせる。

 

 シキシマ「きつくないか?」

 ミサキ「ええ」

 

 認識票に触れながら、ミサキはうれしそうな表情を見せる。

 そんなミサキを見て、シキシマも笑っていた。

 

 シキシマ「気に入ったか?」

 

 シキシマに聞かれて、ミサキは「大切にします」とほほえみながら答えた。

 同じタイミングで、ステージ2階の下手に、アコヤちゃんたちが現れる。


 アコヤ「認識票はもらえたけど、サブタグを交換できる人には出会えるかなー?」

 コウタ「サブタグなんか交換してどうするの?」

 マドノ「コウタくん、知らないの? 親しい人とドッグタグのサブタグを交換しあって、パートナーになるシステムのこと」

 コウタ「なにそれ!? だれとでもできるの!?」

 マドノ「相手はひとりだけだけど、べつにアカデミーのセンパイでも、年下の子でも、教官や隊員の誰かとだって交換できるよ」


 ミサキたちが知らないところで、こっそりと設定が明かされる。

 こういう小ネタがあるのも、舞台の良さなんだと思う。


 シキシマ「ミサキ」


 ミサキのことを呼びながら、シキシマは首から下げている認識票から、小さい方のタグを外す。


 シキシマ「オレのサブタグと、ミサキのサブタグを⋯⋯交換してはもらえないだろうか?」

 ミサキ「サブタグを?」


 シキシマはミサキの手を取り、自分のサブタグを置く。


 シキシマ「あの戦いで、オレたちはミサキの力に助けられた。 だから、その礼がしたい」


 話しながら、シキシマは大きな手でミサキの手をやさしく包む。


 ミサキ「⋯⋯ボクなんかでいいの?」


 この一瞬だけ、ミサキは本当の話し方になる。

 今回の舞台では明かされなかったけど、ミサキがお嬢様言葉で話すのには、ちゃんとした理由があるらしいんだ。


シキシマ「ミサキだから、このサブタグをたくすんだ」

ミサキ「じゃあ、交換しよ――」



 ミサキが言いかけていたところで、いきなり照明が赤くなる。

 同時に、警報が鳴り響いた。

 

アナウンス「パトロール中のチームから緊急連絡! うみほたるにラーンが現れたとのことです!」

ミサキ「話の途中だったのに!」

 

 アナウンスを聞いたミサキは、すごくイヤそうな顔をする。

 

シキシマ「機嫌を悪くするな。 すぐに済ませればいいだけだろう」

 

 シキシマはその場で伸びをした。

 

マーガレット「リーダー。 私たちはいつでも行けるわ」

 

 ステージの下手からサードレギオンのみんながやってくる。

 シキシマとミサキは、マーガレットさんとスペンサーから自分のベゼルを受け取った。

 

シキシマ「敵はヘヴリングの集団のみか」

マーガレット「改造された個体の可能性もある。 油断はできないわ」

スペンサー「でも、おれたちの敵じゃない」

セネカ「セネカたちは、とーっても強いもん!」

ミサキ「それに、わたくしたちがいる」

アコヤ「あたしたちはもう、ただの生徒じゃない」

コウタ「アカデミーを守った、サードレギオンの一員!」

マドノ「だから、わたしたちが全部守るの」

 

 シキシマから順番に、サードレギオン全員がベゼルを構えた。

 そして、ステージ2階の中央に、ミナトさんが現れる。

 

ミナト「わたしも応援してるわ!」

 

 ミナトさんの声を聞いて、みんな笑っていた。

 

シキシマ「準備はいいか!」

ミサキ「言われなくても!」

 

 シキシマの号令に、ミサキたちが続く。

 

シキシマ「サードレギオン、出撃!」

 

 シキシマが声を上げたあと、ステージが暗くなる。

 でも、うしろから観客席に向かってスポットライトが点いていて、みんなのシルエットだけがステージに浮かび上がっていた。

 そうして、舞台『キズナコーストガード』は幕を閉じたんだ。

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