シキシマ「準備は良いか?」

 ミサキ「いつでもいいですわ」

 

 ステージ中央の入口から現れた、ミサキとシキシマ。

 ふたりは、持っていたベゼルを重ねてエネルギーを貯める。

 

 シキシマ「3体目とは距離があるな」

 

 シキシマは自分のベゼルをかつぎ、シューティングモードにしていた。

 

 シキシマ「ここはハイプレスで行く。 戦術は理解してるな?」

 ミサキ「たしか、高速移動しながら次々とターゲットを変えて攻撃し、他のメンバーにマークを渡していく戦術⋯⋯ですわよね?」

 シキシマ「立ち位置や動作だけでやり取りできるくらい、仲間たちとの信頼関係が重要になる。 だが、ミサキなら合わせられるだろう。 コウタたちはうしろに下げてサポートに回す」

 ミサキ「わかりました」

 

 アーガスがまずシューティングで先制攻撃。

 次いでミサキが2回もターンしながらシラミネを振るって、コールガを切る。

 

 シキシマ「よし、ハイプレスをはじめる」


 ふたりがコールガと戦っている間に、観客席側のスペースにサードレギオンのみんなが集まっていた。

 

 アコヤ「サードレギオンの得意戦術、ハイプレスかぁ」

 スペンサー「おれたちはリーダーとハイプレスに加わる。 コウタたちはうしろで散らばった敵を攻撃して、ハイプレスのジャマにならないようにしてくれ」

 コウタ「了解」

 マーガレット「あなたたち、私たちは生まれて2年もたってないのよ。 もう少し気楽にできない?」

 マドノ「ま、前向きに検討します⋯⋯」

 

 マーガレットさん、アコヤちゃん、スペンサー、セネカ、マドノちゃんが、観客席で戦いながら会話する。

 こうして、自然な流れで観客に設定を説明してくれるのが、この舞台のいいところなんだ。

 

 シキシマ「サードレギオンはポジションに」

 

 シキシマが階段の中央に立つ。 ミサキはシキシマの隣に立って、観客席からステージに上がったスペンサーたちは、それぞれ左右に広がった。

 

 シキシマ「ハイプレス、開始!」

 

 突然、ステージが暗くなる。

 次に、1階の中央に移動したシキシマがスポットライトで照らされて、シキシマは目にも止まらぬ速さでベゼルを振って走り出す。

 そのままうしろにベゼルを向けたタイミングで、2階の上手にスペンサーが現れて、スポットライトがスペンサーに向けられた。

 

 スペンサー「あいつら、さっきより力が強くなってやがる。 それに、3体目の姿が無い」

 

 ステップを刻みながら、スペンサーはシューティングとダイレクトアタックのコンビネーションをくり出す。

 そのあと、1階の上手から走ってきたセネカちゃんにベゼルを向けて、スポットライトがセネカちゃんのほうへ移動。

 一方、スクリーンには海の映像と、体がボロボロになった5体のコールガが集まる映像が映っていた。

 

 セネカ「ボロボロになったのに、また集まってる!?」

 スペンサー「合体してキズを治すつもりか!?」


 セネカちゃんとスペンサーで交互に攻撃をくり返し、スポットライトも交互に切り替わる。


 マーガレット「違うわ。 アイツら、残り3体にパワーを送ってる!」

 アコヤ「残りがパワーアップしちゃったら、ミサキとリーダーが危ないんじゃ⋯⋯!?」

 

 観客席側にいたアコヤちゃんは、攻撃しながらミサキとシキシマを見る。

 

 シキシマ「合体能力まで持つとはな。 面白い」

 ミサキ「いや、笑いごとじゃないと思うのですけど」

 

 笑うシキシマを見て、ミサキは若干引いていた。

 けど、ハイプレスの動きは止まらない。

 2階で力強く重そうな剣技を披露するシキシマと、ダンスのように流れる動作でシラミネを振るうミサキとで、スポットライトが切り替わっていった。

 そんなとき、アクシデントが起きたんだ。

 

 ミサキ「あ⋯⋯」


 小さく聞こえた声。

 あのとき、ミサキを演じる人が素で声を出してしまったんだと思う。

 シキシマがステージ裏に引っ込んで、1階のミサキが走りながら振り返ってシラミネを振ったとき、シラミネがすっぽぬけて飛んでしまったんだ。

 けど⋯⋯


 シキシマ「ミサキ」


 とっさにステージ裏から1階に出てきたシキシマが、ふき飛んだシラミネを見事にキャッチ。


 シキシマ「もう手を放すなよ」


 そして、アドリブでミサキに声をかける。


 ミサキ「あ、ありがとう⋯⋯」


 シキシマによる見事なフォローで、ミサキが起こしたアクシデントは、千秋楽公演限定のワンシーンに生まれ変わった。

 その直後、コールガの1体がビームを撃った。

 コールガが撃ったビームは、ミサキが完ペキなタイミングで展開したバリアで防がれる。

 

 シキシマ「攻撃が激しいが、大丈夫か」

 ミサキ「ええ、防御に特化させたシラミネのおかげで、なんとかノーダメージで済んでいます」

 

 シラミネを構えなおすミサキ。

 プレッシャーでガチガチに固まっているミサキの頭を、シキシマはやさしくなでた。

 

 シキシマ「気持ちを落ちつかせろ。 おまえはひとりじゃない」

 ミサキ「シキシマ⋯⋯」

 

 コールガがふり下ろした腕を、シキシマはダイレクトアタックモードにしたベゼルで受け止めて、そのあとけり飛ばす。

 

 シキシマ「――ミサキ、おまえはどうしたい?」

 ミサキ「え?」

 シキシマ「おまえは、何のために戦ってる?」

 

 ステージに集まったサードレギオンのみんな。


ミサキ「戦う理由⋯⋯」


 コールガと戦うみんなの姿を見ながら、ミサキはステージ2階の中央に移動する。


 ミサキ「⋯⋯わたくしがコーストガードを目指すようになったのは、お姉さまがきっかけでした」

 

 ミサキは、シラミネを床に突き立てた。


 ミサキ「わたくしは、だれよりも力強く戦い、だれよりも美しく勝ってみせるお姉さまみたいになりたくて、アカデミーに転校した」


 その瞬間、コールガの動きが止まって、ステージが暗くなる。

 

 ミサキ「そしてあの日、お姉さまがケガをした瞬間から、願いは決まりました」


 暗いステージの中心で、ミサキは語った。

 そんなミサキの姿に重なるように、粉雪みたいにキラキラとした光が、集まっていく。


 ミサキ「もっと、強くなりたい。 お姉さまやサードレギオンのみんなといっしょに戦いたい。 そしてこの街や世界を⋯⋯守りたい!」

 

 ミサキが空に手をかざす。

 そのとき、虹色の光がステージ中に広がって、3体のコールガが放ったビームから皆を守った。

 

 スペンサー「シラミネのバリアか!?」

 マーガレット「ちがうわ。 このバリア、私たちのバリアも強化されてる」

 セネカ「こんなの、見たことない⋯⋯」

 アコヤ「たぶん、この光はミサキの⋯⋯」

 

 サードレギオンのみんなは、ステージ中に広がる光と、天高く手をかかげていたミサキを見る。


 ミサキ「この光⋯⋯」 

 シキシマ「これはミサキのアビリティだ。 しかも、このアビリティはコーストガードのデータに無い」

 ミサキ「世界初のアビリティ、ってことです?」

 シキシマ「ああ、そうだ。 大切なものを守るための力⋯⋯。 どんなときでも欠かすことができないものだな」

 ミサキ「大切なものを守る、力。 わたくしが欲しかったものが、アビリティに⋯⋯」

 

 ミサキは、泣きそうになりながらシラミネを抱きしめる。

 ミサキのアビリティで攻撃を防がれたコールガは、遠くでずっと鳴き声を上げていた。

 

 マドノ「コールガのエネルギーが、全部ミサキくんのアビリティにコントロールされて、シラミネに吸収されてます!」

 

 タカチホでコールガを調べていたマドノちゃんが、みんなに伝える。

 

 マーガレット「つまり、コールガたちのエネルギーを吸収して、私たちのバリアに変えている、ということかしら?」

 スペンサー「ただバリアにしただけじゃない。 出力まで強化されてる」

 

 マーガレットさんとスペンサーは、自分のベゼルをたしかめていた。

 

 シキシマ「ミサキ。 いまならコールガを倒せる。 一気に仕掛けるぞ」

 ミサキ「わたくしはどうすれば?」

 シキシマ「そのバリア、コントロールできるか?」

 ミサキ「細かいコントロールは無理ですが、多少なら」

 シキシマ「なら、オレたちを守るバリアだけを残し、残りはコールガの動きを止めるために使ってほしい」

 ミサキ「つまり、バリアでコールガを包めってことですわね!」


 ミサキが、観客席に向かって手を伸ばす。

 すると、虹色の光で作られていたバリアがリングに変わって、スクリーン上のコールガたちを包み込んだ。


 アコヤ「ミサキがコールガを捕まえた!」

 セネカ「これならまとめて倒せる!」


 必死にもがく8体のコールガが、一斉にビームを撃って反撃してきた。


 ミサキ「やらせませんわ!」


 ミサキがシラミネを背負うように構え、そこにバリアのエフェクトが重なる。

 

 ミサキ「どこからでも仲間を守れる力。 これが、わたくしのほしかった力のカタチ! この力で、わたくしはみんなを守ります! 」

 

 シラミネを背負ったミサキは、そのままコールガの攻撃を背中で受け止めた。

 そのミサキを中心に、アーガスたちは上手と下手、2階に並び、ベゼルを構えて身を守る。

 そんなアーガスたちにも、虹色の盾のエフェクトが重なった。

 

 ミサキ「これで終わりにしましょう!」

 

 ミサキが、シラミネをくるりと回して背中側で構えなおし、シューティングの動作をする。

 あの動きには、どこかの武人みたいな迫力があって、そのとき放たれた青いオーラがコールガにダメージを与えた。


 アコヤ「これなら!」

 セネカ「倒せるよ!」


 ミサキたちの攻撃で、コールガの体はどんどん崩れていく。

 そして崩れていくコールガの体の中心に、赤く光る丸いものがあった。


 マドノ「あれがコアだよ!」

 ミサキ「シキシマ、フィニッシュはおまかせします!」

 シキシマ「まかせろ!」

 

 ミサキは、シューティングモードでヘリテージを構えたシキシマの前にしゃがむ。


 ミサキ「いまです!」


 アーガスは、ミサキが頭の上で横向きに構えたシラミネの上に、ベゼルを置く。


アコヤ「言われなくても!」


 アコヤちゃんをはじめとしたサードレギオンの皆も、ベゼルを構えていた。

 

シキシマ「これで、終わりだ!」

 

 全員がタイミングを合わせて、トリガーを引いた。

 

「イヤアアアア!!」

 

 激しい光の点滅と、女の人のようなさけび声。

 ミサキたちの攻撃によって、8体のコールガは同時に倒された。

 

バーソルフ「こちら、バーソルフ。 ドロヴンの群れは片付けたぞ」

カルフーン「アカデミーとチームに被害はありません。 サードレギオンはそのまま帰ってきてください。 あと⋯⋯」

ミナト「――ミサキ。 あなたの戦い、ちゃんと見てたわよ。 つぎは、そのアビリティでわたしも守ってね」

 

 コールガとの戦いの終わり。

 真っ暗になったステージ中に、バーソルフやミナトさんたちの声が響き渡った。

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