第3章
1. 海の森防衛戦
アナウンス「緊急事態発生! 現在、コールガを含むラーンの大群が海の森に接近中! 出撃可能な隊員はただちに出撃してください! 繰り返します――」
ステージはまだ暗い。
緊急事態を知らせるアナウンスと同時に、巨大なタコの姿をしたラーンが、ステージ全体に映し出される。
コールガと呼ばれたそのラーンは、大きな触手を何本も持ったタコみたいで、ひときわ不気味な見た目をしていた。
ミサキ「ももえ先生!」
ももえ「みんな大丈夫よ。 いまは冷静に」
1階にはももえ教官を中心にミサキたちが集まっていた。
2階の上手にはバーソルフとカルフーンが、下手にはサードレギオンが立っている。
バーソルフ「先ほど、海の森に接近しているラーンの大群が確認された」
あせっている様子で、バーソルフが状況を説明する。
バーソルフ「ただ、サードレギオンはベゼルの最終調整中。 すぐには出撃できない」
バーソルフの言葉に、ミサキたちは目を丸くする。
アコヤ「出撃できない!?」
コウタ「おちついて、アコヤ! まだ通信がつながってる」
あせるアコヤちゃんを、コウタが落ち着かせた。
バーソルフ「サードレギオンが出撃可能になるまで、あと45分。 その45分を、アカデミーの生徒だけでしのいでほしい」
マドノ「生徒だけって、そんなのムチャだよ⋯⋯」
バーソルフからの通信を聞きながら、マドノちゃんがつぶやく。
ももえ「他のチームは館山や横須賀でラーンと交戦中。 高等部の生徒は横須賀にいて、横須賀のチームをフォローしている。 いま、海の森で戦えるのは、初等部5年生から中等部3年生までの子たちだけ⋯⋯」
ももえ教官は、ミサキたちとは違う方向を見ながら話す。
初等部は、普通の学校で言えば小学校。
中等部は、普通の学校で言えば中学校。
そして、ミサキたちは初等部5年生。
つまり小学校5年生の子どもと中学生の子どもたちが、海の森を守るためにラーンと戦えと、バーソルフに命令されたことになる。
ミサキ「ひとつ質問があるのですが、わたくしたちの指揮は、アカデミーに残った教官たちがするのですよね?」
ももえ「そうだけど、人数に限りがあるから、先生たち全員が前線に出るのは無理よ」
ミサキ「学年ごとの配置は決まってるんでしょうか?」
ももえ「仮のものならあるけど⋯⋯」
ミサキとももえ教官の会話が続く。
途中で背景の映像が変わって、『海の森アカデミー』という文字やイラストが表示された。
ももえ「太平洋に現れたラーンの群れは、浦賀水道を進行中。 館山と木更津、横須賀などに展開したチームが、ドロヴンと戦っているわ」
ももえ教官の説明に合わせて、コールガやコーストガードのアイコンがイラストに重なる。
ももえ「ただ、コールガは海上を進行しているから、陸上でしか行動できないコーストガードは攻撃不可能。 しかも、コールガはバリアを使っているから、護衛艦の攻撃を受けても止まらないわ」
ミサキ「つまり、コールガはまっすぐ公園に来るってことですわね」
アコヤ「そんな⋯⋯」
ももえ教官とミサキの会話を横で聞いていたアコヤちゃんは、その場に座り込む。
ももえ「ドロヴンの数も多い。 各エリアでコーストガードが戦っているけど、コールガの周りにいる個体は、ほとんど数を減らしていないわ」
コウタ「つまり、ぼくたちはドロヴンとコールガのどっちも相手にしなきゃいけないってことだよね」
ミハシをかつぎながらコウタが言う。
マドノ「ドロヴンのほうがコールガより足が速い。 まず相手にするのはドロヴンから?」
アコヤ「そうよ。 でも、ドロヴンを相手にしながら、迫り来るコールガとどうやって戦えばいいのよ⋯⋯」
マドノちゃんに言いながら、アコヤちゃんはゆっくり立ち上がる。
ミサキ「コールガはわたくしがなんとかします。 みんなは、ドロヴンを倒すことに集中して」
アコヤ「ミサキがひとりで!?」
ミサキ「わたくしがオトリになって、サードレギオンが合流するまでの時間をかせぎます。 コールガはかなりの巨体で動きも遅いですから、動き回ってればなんとかなるでしょう」
マドノ「そんなのムチャだよ⋯⋯」
ミサキ「ももえ先生。 コウタを代理のリーダーとして、ドロヴン迎撃チームを編成してください。 ポジション表も送ったので、配置はそれを参考に」
アコヤ「ちょっとミサキ!?」
みんなの制止を振り切って、ミサキは2階に上がる。
そして、バーソルフの前で止まった。
ミサキ「司令。 わたくしがオトリになって、コールガを引きつけます。 その間に、サードレギオンの出撃を急がせてください」
バーソルフ「きみひとりでコールガを?」
ミサキ「ドロヴンが公園に到着するのは30分後で、コールガは50分後に到着する予想です。 ドロヴンとの交戦中にコールガが合流したら、乱戦になって大変なことになる」
バーソルフ「正気か?」
ミサキ「わたくしはドロヴンを無視してコールガのみ狙います。 そうしてコールガを引き付け、みんなを守る。 じゃないと海の森を守れない。 司令も、ベゼルが調整中だからまだ出撃できないと聞きましたし」
バーソルフ「他に方法は無い⋯⋯ということか」
低くうなるような声で、バーソルフはつぶやいた。
そのあと、ミサキの肩に手を置く。
バーソルフ「無茶だけはするな。 きみに何かあれば悲しむ人がいる、ということを常に理解して行動しろ」
ミサキ「わかっています」
ミサキは答えた。
ミサキ「無茶はしても、わたくし自身の命は大事にしますわ」
心配するバーソルフに向けたミサキの言葉を合図に、再びステージが暗転した。
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