ももえ「ラーンとの戦闘では、味方とのコンビネーションや、ポジショニングが重要になってくるわ」

 

 ステージが明るくなり、全体に公園の映像が投影される。

 ももえ教官は2階の上手に立って、1階でベゼルを振るっているミサキたちに声をかけていた。

 

 コウタ「ぼくが切り込むから、みんなはサポートを!」

 

 ステージが少し暗くなって、コウタがスポットライトに照らされる。

 

 ももえ「コウタくんは最前線に立って、ミハシの攻撃力を活かしたパワーファイトを得意とするわ」

 

 ハンマー型ベゼルのミハシを振り回すコウタ。

 ドカンという音のあと、背景に映し出されたロボットがコウタの攻撃を受けて転ぶ。

 

 アコヤ「あたしも!」

 

 つづいてアコヤちゃんがステッキ型ベゼル『シヅキ』をシューティングモードで構えて、転んだヘヴリングを攻撃。

 

 ももえ「みんな、ラーンはヘヴリングだけじゃない。 ほかにもいるわよ」

 

 ももえ教官のあと、モンスターの鳴き声がした。

 

 コウタ「ドロヴンだ!」

 

 沢山いる小さなモンスターのシルエットを見て、コウタが声を上げる。

 

 マドノ「ド、ドロヴンはわたしが!」

 

 そう言いながら、マドノちゃんは三角定規みたいなベゼル『タカチホ』を降るって、ドロヴンを切る。

 

 ミサキ「高くせりあがる波、ヘヴリング。 取り囲むもの、ビュルギャとその量産型であるドロヴン」

 

 ミサキが、身を守っていたマドノちゃんを助けながらドロヴンを切る。

 

 ミサキ「どちらも数が多いのが特徴ですわね」

 

 ミサキがシューティングモードにしたシラミネを下手に向けて、左手をそえる。


「ギャァァッ!」


 マシンガンの音とともにけちらされるドロヴンたち。

 

 ももえ「ミサキくんは、いちばんうしろで味方をサポートする。 けど、ここぞという場面では一気に前に出る思い切りのよさがあるわ」

 アコヤ「さっすがミサキ、頼りになる!」


 アコヤちゃんに「それほどでもないですわ」と言いながら、ミサキはシラミネをフルスイングして、ドロヴンをふっとばした。



 ミサキ「うしろはわたくしにおまかせを。 コウタはセンター、アコヤちゃんは左、マドノちゃんは右をお願いします」

 コウタ「まかせて!」

 アコヤ「オッケー!」

 マドノ「わかった!」

 

 ミサキの指示にしたがいながら、コウタ、アコヤちゃん、マドノちゃんがそれぞれの位置に立つ。

 

 ミサキ「ドロヴンの数は減っている。 このまま決めますわよ」

 コウタ「一斉射撃でドロヴンを減らしつつ、ヘヴリングにダメージを与えるんだね」

 アコヤ「フィニッシュはだれ?」

 マドノ「パワーがあるコウタくんじゃない?」

 

 全員が、背景のヘヴリングたちを見る。

 

 ミサキ「わたくしがヘヴリングをひるませます。 コウタはトドメを」

 コウタ「了解」

 

 コウタが、ミハシのコアに手をかざしてパワーを溜めていく。

 オレンジ色のスポットライトがコウタを照らすのと同時に、ミサキたちはベゼルをシューティングモードで構え直した。

 そして、ヘヴリングが吠えた瞬間。

 

 ミサキ「いまです!」

 

 ミサキの合図で、コウタ以外の全員がヘヴリングたちを撃つ。

 何度も射撃を叩き込まれたヘヴリングは、大きく体を仰け反らせた。

 

 ミサキ「コウタ!」

 コウタ「うおおおぉっ!」

 

 コウタは段差を駆け上り、ミハシを振り下ろして、ヘヴリングにトドメの一撃をぶつけた。

 そのあと、背景の映像が切り替わって、『訓練終了』という文字が表示される。

 

 ももえ「みんな、見事なコンビネーションだったわ!」

 

 拍手しながら、ももえ教官が1階に降りてくる。

 

 ももえ「まだぎこちないところはあるけど、基本もしっかり身についているようね」

 コウタ「ありがとうございます」

 ミサキ「みんなのおかげでもありますわ」

 

 ミサキとコウタはももえ教官に頭を下げていて、アコヤちゃんとマドノちゃんはふたりの横でハイタッチしていた。

 

 ももえ「ミサキくんは、全体をよく見て動いている。 コウタくんは前衛として戦い続ける体力と、持ち前のパワーが光っていたわ。 アコヤちゃんとマドノちゃんは、ミサキくんとコウタくんが動きやすいように、しっかりフォローしていたわね」

 

 元はコーストガードのエースだったももえ教官。

 エースの立場でミサキたちの戦いをしっかりと見て、しっかり分析していた。

 

 ももえ「ただ、コウタくんは回避を優先しすぎね。 ガードを使うべきタイミングで回避したから、攻撃につなげられなかったところがある」

 コウタ「はい⋯⋯」

 ももえ「攻撃は最大の防御とは言うけど、ちゃんとガードもすること。 ガードで敵の姿勢を崩せば、そこにカウンターをたたき込めるわ」


 そして、しっかりと欠点も指摘する。

 ももえ教官が生徒たちに慕われているのは、教育者としての能力が高いからかもしれない。

 

 ももえ「アコヤちゃんは、基本にこだわりすぎて少し動きが固いところがある。 教科書にある戦い方以外にも、アーカイブで戦闘や立ち回りの動画を見て、もう少し柔軟に動けるようにしましょう」

 アコヤ「はい!」

 ももえ「マドノちゃんは、ダイレクトアタックモードで力みすぎ。 ベゼルを振る時はベゼルの重さを使って、相手にベゼルの刃が当たる瞬間、力を込めるのがベストよ」

 マドノ「は、はい⋯⋯」

 ももえ「でも、ベゼルにセンサーや観測システムを積んで、敵を分析しながらみんなに伝えるという立ち回りはいいわ。 そうした偵察や分析に優れている人は、戦闘で頼りになる」

 マドノ「あ、ありがとうございます!」

 

 ももえ教官がみんなに指導し、上手の壁にみんなの成績が表示されていく。


 ももえ「ミサキくんは、基本に忠実なんだけど。 少し気になるところがあるのよ」

 ミサキ「気になるところ、ですか?」

 ももえ「ミサキくん、もっと動き回りながら戦いたいんじゃないの?」

 ミサキ「それは⋯⋯」

 

 ももえ教官に言われ、思わず目をそらすミサキ。

 

 ももえ「ミサキくんは、ダイレクトアタックだとテクニックで押していく感じなのに、シューティングとなるとシンプルに撃ちまくるだけだから気になって」

 ミサキ「それは、シューティングだとわたくしの思うような動きができなってしまうからで⋯⋯」

 

 ミサキが説明すると、アコヤちゃんがうしろで「シラミネのシューティングはパワーがなかったわね」とマドノちゃんたちに言っていた。

 

 ももえ「シラミネを改造して、変形させずにシューティングモードにできる機体としたのは、ダイレクトアタックしてすぐシューティングへ移れるようにするためでしょ?」

 ミサキ「変形のタイムラグを無くして、すぐ追撃できるようにしたかったんです。 でも、シラミネは元々ダイレクトアタックモードしかないベゼルだから、後付けしたシューティングモードと相性が悪いみたいで⋯⋯」

 

 落ち着かない様子で、ミサキはシラミネをスピンさせる。

 

 ももえ「そうなると、ミサキさんのポジションは、いちばん後ろよりもセンターがいいかもしれないわ」

 ミサキ「え⋯⋯」

 

 ももえ教官の言葉におどろくミサキ。

 ミサキは、なぜか困った顔をしていた。

 

 アコヤ「サードレギオンでポジションがセンターなら、ちょうどリーダーの後ろになるんじゃない?」

 コウタ「センターは、前後の動きを見ながらそれぞれをサポートしなきゃいけないポジションだね」

 マドノ「すごく大変なポジションだけど、ミサキくんなら大丈夫だと思う」

 

 アコヤちゃんは納得していたけど、ミサキは「でも⋯⋯」とか「わたくしなんかじゃ⋯⋯」とつぶやいているばかり。

 そんなとき、いきなり照明が真っ赤になって、サイレンが鳴りひびいた。


「現在、太平洋をパトロール中の海上自衛隊より緊急連絡! ラーンの群れがアカデミー方面に進行中! 繰り返します――」

 

 アナウンスを聞いたミサキたちが、背景の方に向く。

 

ミサキ「ラーンがこっちに来てる!?」

アコヤ「いま、高等部の先輩は横須賀で、アカデミーには中等部の先輩しかいないのに!?」

コウタ「ももえ教官、コーストガードの隊員は!?」

ももえ「サードレギオン以外のチームは、三浦市と館山市に展開中。 だけど、ラーンの数が多すぎる⋯⋯」

 

 背景に映し出されるラーンの大群。

 ヘヴリングやドロヴンの群れの後ろには、ひと際大きなラーンが居る。

 

ミサキ「あのラーンは⋯⋯」

アコヤ「コールガ!?」

コウタ「なんでボス級のラーンがこんなところに⋯⋯」

マドノ「ありえないよ!!」

 

 みんなが大きなラーンの姿を見てその名前を呼んだところで、ステージが暗転した。

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