「東を目指す」
「大きい」
アーケオは驚愕した。目の前に見える船が想像していたものよりも大きかったからだ。白が強調された全体の姿が晴れた空と見事に合致していて、とても立派な姿に見えた。
「これでヤマトに行けるんだね」
「ええ」
数日前、旅路で出会った剣士ディーノの勧めで極東の島に行くことに決めたのだ。極東の島はかなり離れているため、港からの渡航が必須なのだ。港に着くと多くの人々が列をなして、船に入るために並んでいた。
「物凄い数だ」
「観光地としても人気ですからね」
アーケオとマシュロも彼らに習って列に並んだ。初めての客船。アーケオの胸は高ぶっていた。やがてアーケオ達の番になり、船に乗り込んだ。
船内は多くの乗客で賑わっていて、アーケオ達同様に出向を心待ちにしている様子だった。すると船内に汽笛が轟いた。それと同時にゆっくりと船が前進し始めた。
アーケオは海を見ようと船のデッキに移動した。手すりを掴んで海を見た。
彼は感動していた。生まれて初めて海に来たからだ。
「これ全部塩水なんだよね!」
「ええ。全てがそうです」
「凄いなー」
船の上で澄み渡る青空と広大な海の迫力に胸を打たれていた。船の近くをイルカが心地好さそうに泳いでいる。
「感動していらっしゃいますね」
「うん! こんなに広いとは思わなかったからさ」
本でしか見なことがなかった景色。今までローゼン王国の外に出た事がなかった彼にとってこの上ない興奮材料だ。その傍らでマシュロが柔和な笑みを浮かべている。他の乗客達も目の前に広がる海に心を打たれている様子だった。
「ヤマトって一体、どんな国なんだろ?」
「大陸とつながっていないので独特の文化があると聞いた事があります」
「例えば?」
「噂では魚を生で食べるらしいです」
「本当?」
ローゼンや今まで行った国では生魚を食べる機会がなかったため、アーケオには少し信じ難かった。
やがて沖に出てさらに海の広さを知った。同時に違和感を覚えた。
「静かすぎませんか?」
「うん」
急に辺りが静かになったのだ。先ほどまで船と並走していたイルカやカモメがいなくなっていたのだ。形容しがたい不気味な感覚に思わず、手を伸ばそうとする。
「何か来ます!」
何かの気配を察したマシュロが目の色を変えた瞬間、船の近くから凄まじい水しぶきが上がった。巨大な何かが浮上して来たのだ。天にも昇るような水柱が引いた後、それはいた。
鯨のような姿の魔物だった。皮膚は塗りつぶしたように黒く、船の近くを泳いでいた。あまりの大きさに驚いていると目があった。他の存在に愛情を感じさせない淀んだ目。あまりの冷酷さに思わず、身震いした。
「あれは!」
「知っているの?」
マシュロが目つきを鋭くして、ナイフに手を伸ばした。
「三皇魔の一角。ロギスタです」
アーケオの背筋にひんやりと冷たい汗が流れた。
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