「戦士」


 崩壊した国から少し離れた平原の上。アーケオとディーノが剣を重ねていた。火花とともに闘争心がぶつかり合う。


「ふん!」


「もっとだ。もっと打ち込んでこい」

 アーケオはディーノの言葉で拍車がかかるように何度も剣を振るっていく。しかし、それらの攻撃はディーノにより容易く止められてしまっている。

「アーケオ様。頑張ってくださいまし」 

 二人の近くではマシュロが小さな主人を見守っている。


「遅い」

 ディーノが強めにアーケオに向かって、剣をぶつけてきた。アーケオは理解した。彼は全く本気を出していない。本気を出しているなら、今頃自分はもっと後方に吹き飛んでいてもおかしくないからだ。


「止まるな」

 後方に引き下がって、態勢を立て直そうとするアーケオに容赦なく追撃を仕掛けてきた。これは訓練だ。稽古のはずなのにこれまでにないくらい生命の危機を感じる。


 暴力が止まない。しかし、それでも負ける理由にはならない。アーケオは態勢を低くして、攻撃をかわした。そして、勢いをつけて剣を下から上にあげた。


「やるな」

 ディーノが呟いた後、剣を避けて、大剣を縦のまま横に振ってアーケオを薙ぎ払った。斬撃とは違った打撃の強さに思わず、顔が歪んだ。


「あれを見せてみろ」


「あれ?」


勇者ブレイブ斬撃スラッシュだ」

 アーケオの脳裏に黄金の斬撃が頭をよぎった。


「あれ、そういう名前なんですね」


「知らなかったのか。まあいい打ってこい」


「怪我しても知りませんよ」

 アーケオはディーノに忠告をした後、剣に力を込めた。アーケオの身の回りが黄金の光で覆われていく。


「ふん!」

 アーケオは力強く剣を振った瞬間、黄金の斬撃が出てきた。斬撃は地面を削りながらディーノの方に向かっていく。


「お手並み拝見といこうか!」

 ディーノが剣を振り下ろして、斬撃を止めた。しかし、あまりに威力が高いせいか、踏ん張っている足が徐々に後退している。勝てる。アーケオは静かに確信した。しかし、その確信が叶うことはなかった。


 ディーノが力技で斬撃を横に受け流したのだ。流れた斬撃は近くの岩にぶつかり、岩を粉々にした。


「そうか。これが」

 目の前の剣士が不敵な笑みを浮かべた。その瞬間、男の姿が消えた。気づけば目の前まで迫っていた。突然の出来事にアーケオは対処しきれず、重い大剣の一撃を受けて、剣が手元を離れた。


 すぐさま剣を手にした瞬間、頭上から殺気を感じた。顔をあげると目の前に大剣の先が突きつけられた。


「参りました」

 アーケオは剣を横に置いて、手を挙げた。


「動きの基礎はよくできている。守りも悪くない。だがまだ攻撃性にかける」

 ディーノが背中に剣を直しながら、アーケオの欠点を説明した。


「攻撃性に欠けるということは相手に戦闘の主導権を明け渡すと同じだ。守りだけでは嵐を耐え忍ぶのと同じだ」

 アーケオはディーノとの試合を振り返った。確かに彼はディーノの勢いに押されて、若干萎縮していた節があった。萎縮を悟られればあとは蹂躙されるのは目に見えている。


「持久戦なら防御は強い武器になるがその他では攻撃力がなければ決定打に欠ける。いいな?」


「はい!」

 今回の稽古でアーケオは多くの学びを得た。この教訓はきっと実戦で役に立つはずだ。


 稽古を終えて、アーケオ達は歩き始めた。しばらくすると辺りの空が茜色に染まり始めた。昼間は魔物が出ていなかったとはいえ、夜になると出現するかもしれない。


 しばらくすると小さな街が見えた。


「この街は小さいが宿はある。俺はここらで失礼する」


「この街には泊まらないんですか? 夜はほら魔物だって」


「ああ、もっと進みたいんだ。魔物は心配ない」

 アーケオは名残惜しさを感じたが、ディーノを引き止める事は出来なかった。


 彼はディーノに対してどこか不思議な感覚を抱いていた。彼といるとどこか心が安らぐのだ。


 無意識に彼に対して心を許しているのか、定かではないが言葉に出来ない胸中だ。


「アーケオ。戦う上でこれだけは覚えておけ」


「なんですか?」


「勝負の結果を左右するのは信念の強さだ。その意志が人を強くするんだ。願いや想いが強ければ強いほど人は立ち上がれる。自分を強く信じろ」

 ディーノの鋭く信念の篭ったような目がアーケオに向けられた。


「はい!」

 アーケオは強く頷いた。彼の胸の中にある大切な人を守れる強さが欲しいという願い。これは凄く強く根付いているものだ。辛い時、それさえ思い出せれば人は何度でも立ち上がれるというのだ。


「もし剣の腕を上げたいのならヤマトに行くといい」


「ヤマトですか?」

 アーケオは聞いたことがない場所だったので首を傾げた。


「あの島国には凄腕の剣士が多くいる」


「サムライのことですか?」


「マシュロさん。知っているの?」


「ええ。私も剣術など学んでいましたからその一環で」


「そういうことだ。きっと彼らから学べることが多いだろう」

 アーケオの次の行き先が決まった。ヤマトに存在する剣士。想像しただけで胸が踊った。


「それでは失礼する。二人とも良い旅を」


「こちらこそありがとうございました!」


アーケオとマシュロが別れの挨拶をするとディーノが口元に笑みを作りながら、手を振った。


 夜の旅に出る彼の周囲を綺麗な星空が出迎えるように照らしていた。

 

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