「龍泉」

 ネルコビアを離れて、アーケオとマシュロは眼前のものに言葉を失っていた。

 百メートルはありそうな巨大な木々が見えたのだ。


「なんて大きさ」


「こんな場所があったなんて」

 アーケオは胸がときめいた。こんなにも大きな木々を見たのは生まれて初めてだった。そして、どこか不思議な感覚を抱いていた。水しぶきを浴びているようなどこか心地よい感覚だ。


 木々だけではなく、地面に咲いている花も虹色だったり、黄金や銀色だったり普段見ないようなものが咲いていた。


「周囲にマナを感じますね」


「マナ?」


「マナはこの世界にあるもの生命エネルギー。別の言い方だと魔力とも呼びます。魔法はこのマナと使って、生み出すものです」

 この普段抱かない感覚はマナによるものだと理解した。しばらく森の中を進んでいくとマナが強くなっていくのを感じた。


 茂みを分けた時、泉があった。泉から鮮やかな緑色の光が放たれていて、そこから凄まじいマナを感じた。


「これが龍泉」


「龍泉?」


「マナの根源ですよ。私も見るのは初めてですが。これが周囲の動植物に影響を与えているのでしょう」

 マシュロが興味深そうに観察している。


「クルックー」


「鳩か?」

 アーケオは鳴き声がする頭上に目を向けたとき、言葉が出てこなかった。目の前にいるのは間違いなく鳩だ。しかしアーケオが着目したのはその大きさだ。普通からは考えられないほど、大きいのだ。翼長から見るに五メートルはある。とてつもない大きさなのだ。


「大きいね」

「マナの吹き溜まりはエネルギーの吹き溜まり。即ち、その周辺に住む生き物は影響を受けるものです」


「全部が」

 アーケオは辺りを見渡して、再度、この環境の異常性を感じた。すると辺りで鳥の鳴き声が聞こえ始めた。虫達もいきなり鳴き始めて、まるで何かがくる事を告げているようだった。虫の音が当たったのか。茂みの奥から何かが近づいてくるのが分かった。


「アーケオ様。警戒を」


「うん」

 アーケオは勇者の剣を抜いて、まだ見ぬ敵を警戒する。茂みの中から黒い塊が出てきた。アーケオは見覚えがあった。


「ワーウルフ?」


「ええ、ですが」

 マシュロの顔が強張っている。理由はシンプル。大きいのだ。アーケオが以前見た個体よりもひと回り大きかったのだ。しかも一体だけではなく、もう二体茂みから出てきた。


「ガウウウウウ!」

 ワーウルフの一体がアーケオに向かってきた。それに続いて他のワーウルフも駆けてきた。


 鋭い爪が何度も剣にぶつかり、火花が散る。以前、対峙したワーウルフよりも強い。勇者の剣があるとはいえ、アーケオ自身、剣の腕は未熟だ。

「邪魔だ!」

 マシュロが目を血走らせながら、他の二体を瞬時に切り刻んだ。すぐさま敬虔な従者が主人の元に向かってきた。


 しかし、それを遮るように茂みからさらに五体のワーウルフが出現した。


「マシュロさん!」

 マシュロに気を取られた瞬間、ワーウルフの強力な前足がアーケオの剣にぶつかった。あまりの衝撃に彼は尻餅をついてしまった。アーケオはすぐさま剣を構えたが、猛獣の鋭利な爪がすぐそばまで伸びていた。


「アーケオ様!」

 マシュロの悲鳴にも聞こえた叫び声が聞こえる。その時、アーケオとワーウルフの間に誰かが入ってきた。

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