「ネルコビア」

 ジルギスタン王国を離れて、数十分。アーケオとマシュロは目的地であるネルコビアに着いた。ジルギスタン国王の好意のおかげで楽に次の国に移動する事が出来た。


「では我々はこれで」


「ありがとうございました!」

 馬車の主に礼を告げて、彼を見送った。


「さて観光しよう」

 アーケオは早速、ネルコビアを散策する事にした。ジルギスタンよりは小規模だが街は綺麗で活気があふれていた。


 旅で必要な道具を買い揃えた後、近くの飲食店に立ち寄った。

「アルドュヴラが討伐されたってよ!」


「よし! これで畑仕事により精が出るぜ!」

 店内で新聞の記事を見ながら、多くの人が喜びの声をげていた。魔王がいなくなってもなお世界を脅かしていた脅威のうち一体が討伐されたのだ。


「もう話が出回っているね」


「早いですね」

 自分の行いが多くの人達の生活を良い影響を与えた。それだけでもアーケオは心が満たされた気分になった。


「でも最近、『夜明けの翼』がまた動き出したって噂だぜ」


「ああ、聞いたよ。何ヶ月前にローゼンの博物館に奇襲を仕掛けたってさ」

 アーケオは数ヶ月前の事を思い出した。『夜明けの翼』博物館で襲ってきた連中。思えば彼らがきっかけで今の旅があるようなものだ。


「マシュロさんは夜明けの翼について知っている?」


「ええ。存じています。十年前、奴らが襲撃してきた際のローゼン王国は大混乱に陥りましたから」

 アーケオは彼女が十年前からローゼンに仕えている事を思い出した。


「夜明けの翼のメンバー。その大半はローゼンやその同盟国に滅ぼされた小国の人間です」

 ローゼン王国の非道はアーケオもこれまで目の当たりにして来た。そんな国ならテロリストの一つや二つから攻撃されても、なんら不思議ではない。


「博物館に来た人たちもローゼンに大事な人を奪われたのかな」


「おそらくそうでしょう」

 マシュロがコーヒーをすすった。アーケオは少し胃が重くなった気がした。





 食事を終えた後、アーケオはマシュロに稽古をつけてもらっていた。アルドュヴラとの激闘の治療でしばらく体を動かせていなかったのだ。


「動きがまだまだですよ!」

 マシュロが木刀でアーケオの動きの隙をついてくる。勇者の剣を持っているとはいえ、剣術の腕自体は未熟だ。


 その未熟さが出てしまったせいか、アーケオはマシュロに一本取られてしまった。


「まだ動きに好きは多いですが以前よりは良くなっていますね」


「きっと今までの戦闘経験が活きているんだね」

 立て続けに起こった魔物との死闘が彼を以前よりも進化させているのだ。


「勇者ローゼンはきっとこの剣を使いこなせるくらい強かったんだ。なら僕もそうなりたい」


「素晴らしい心がけです。ならもう一本交えましょう」


「はい!」

 アーケオは再び、木刀を構えて踏み出した。

 



 その日の夜。飲食店に足を運んだアーケオは食卓に並べられた料理を見て、驚愕していた。色とりどりの果物。綺麗に焼けた鶏肉。水々しさ漂う野菜の盛り合わせ。いつもよりも豪勢な食事になっていたのだ。


「今日のご飯は豪勢だね」


「ジルギスタン陛下からたくさんの報奨金をいただきましたから、それと日頃から鍛錬に励んでいらっしゃるアーケオ様を労わせていただこうと思いまして」


「じゃあいたただきます!」

 普段よりも贅沢な夕食を心ゆくまで楽しんだ。

 

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