「ジルギスタン王国」
僅かに陽が落ちてきたザザラ砂漠をアーケオ達は進んでいた。三皇魔の一角であるアルドュヴラとの激闘を終えて、アーケオの疲労はピークに達していた。
「痛えな。多分折れているな」
「ああ、早く戻ろう」
隣ではクリスが肋を押さえながら、リーシアの肩を借りて進んでいる。比較的、軽症で済んでいるマシュロとリーシアが辺りを警戒していた。しばらくすると何か大きなものが見えた。
「見えてきた。あれがジルギスタン王国だ」
砂漠の中に一際目立つ黄金の城。ジルギスタン王国の象徴が見えた。一同は門の前で待機していた兵士達に馬車に乗せられて、医務室に運ばれた。
治療を受けたのち、アーケオ含む四人の英雄達が医務室のベッドに運ばれた。
アーケオとリーシアは疲労。マシュロは軽症だった。しかし、クリスは予想していた通り、肋骨の三本折っていた。
「むしろ。肋骨だけであれを倒せたなら問題ないぜ」
クリスが包帯を巻いた体でそう告げた。すると突然、医務室の外が騒がしくなった。しばらくすると張り詰めたような空気が医務室にも漂ってきた。
数秒後、その空気を生み出した張本人が入ってきた。煌びやかな赤いマントを纏った褐色の肌の中年男性が入ってきた。
「陛下!」
クリスとリーシアが敬礼を構えようとした時、男性が止めるようにと手のひらを下げた。
「諸君。わたしはジルギスタン国王。ロズド・ジルギスタンだ。アーケオ殿。マシュロ殿。この二人とともにアルドュヴラを討伐したそうだな」
「はい。ここにいるみんなのおかげでなんとか倒すことができました」
「この国の代表として心から礼を言おう。ありがとう」
ロズドが椅子から立ち、頭を下げた。
「私からこれから各国の代表にアルドュヴラ討伐の報告をする。これはそれほどに大きな出来事だ」
「そこで諸君らの素性については明かすべきか決めかねている」
「伏せて置いてください。僕は別に注目されたいわけではないので。人を助けたくてそうしただけです」
「アーケオ様と同じく」
「分かった。名前は伏せるとしよう」
ロズドが少し残念そうな表情を作った。彼からすればこの国を救った英雄としてアーケオを公表したかったのだろう。
「さて、真剣な話は終わりだ! 実は皆の傷が治ったのち、町全体で此度の戦の勝利を祝って祭りを開きたいと思っている。礼として諸君らには最高の持て成しを行おうではないか!」
ロズドが医務室に響くほどの声量で宣言した。
「うわあ。すごい」
数日後、城のバルコニーからアーケオは目の前に広がる光景に目を奪われていた。砂漠の夜を照らす町中の明かりがあまりに綺麗だったからだ。国王の言葉通り、街ではアルドュヴラ討伐を祝い、盛大な祭りが開かれていた。
城内でも同じく賑やかな催しで活気付いてきた。
「アーケオ様。料理が運ばれてきました。ご着席ください」
マシュロに促されて、アーケオは席に着いた。
「美味い!」
右通りに座っているクリスが麦酒を勢いよく喉に流し込んだ。
「クリス。落ち着いて飲め」
「固い事言うなよ! リーシア! アーケオも飲むか?」
「僕子供ですので」
「冗談だよ。だからマシュロ。そんなおっかない顔しないでくれ」
アーケオの左隣にいたマシュロが影を帯びた笑みを浮かべている。
「失礼します」
侍女がテーブルにとてつもなく大きな果実の切り分けを置いた。
「ジルギズタン王国の名産。ギガントメロンでございます」
アーケオは驚愕した。
凄まじく巨大なメロンだ。高さはアーケオに胸元ほどの大きさがあった。
「甘い」
「これは絶品ですね」
マシュロと名物のメロンの味に感動していると突然、破裂音のような音ともに夜空が明るくなった。花火だ。砂漠の夜空に花火が打ち上がっているのだ。
一つ散って、また咲いてを色取り取りの花火が繰り返していた。
「綺麗ですね」
「うん」
英雄四人を祝福した花火は日を跨ぐまで夜空を照らし続けた。
次の日の朝。アーケオ達は出発することにした。ロズド・ジルギスタンから多額の報奨金と勲章を受け取った。
「次はどこへ行くつもりだ」
「ここから近いネルコビアという国です」
「分かった。ネルコビアまで馬車で送ろう」
「そんな」
「これくらいはさせてくれ。国を救った英雄を砂漠に放り出すなど王の顔が潰れてしまう」
「分かりました」
アーケオは王の温情に甘えることにした。
「じゃあな!二人とも!」
「元気で!」
「達者でな!」
「はい! 皆さんもお元気で!」
「失礼致します」
出国の際にクリス、リーシア、ロズド。そして多くの国民から拍手と空気が揺れるような大きな楽器の音で門出を祝福された。
馬車に乗り込んで、アーケオとマシュロは砂漠の都を後にした。
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