「追放」
「アーケオ。お前を追放する」
「えっ?」
アーケオの父であり、ローゼン王国現国王。ルーベルド・ローゼンが重々しい声で告げた。
「何度も言わせるな。追放だ。貴様のような賊は我が一族に必要ない」
ルーベルドが深々と玉座に腰掛けながら、蓄えた白い顎髭を撫でる。
「陛下。それではあんまりです! アーケオ様はご学友を蛮族から守るために戦ったのですよ! 撤廃してください!」
マシュロがルーベルトを諌めた。
「それ以上にあの博物館を壊した。あそこにはローゼン王国五百年の歴史を誇る貴重な文献や財宝があった。それをこの小僧はいくつも壊したのだ」
「むしろ国外追放するだけでも温情だと思いなさい」
父の横にいる正妻ヴァイパ・ローゼンが肩まで伸びた長い黒髪を払いながら、アーケオを睨みつけた。
「はっ、こんな形で追い出されるとはな。所詮は妾の子か」
ルーベルトの近くにいたブレドが蛇を彷彿とさせる狡猾な笑みを浮かべる。正妻の子という事もあって、侮蔑の表情は母のヴァイパにもよく似ていた。
「話は以上だ」
追放。それはつまり王族からの勘当であり、王位継承権の剥奪を意味する。
「分かりました」
アーケオは父に頭を下げた。ルーベルトの言い方は棘があったが彼が暴れたのは事実だ。
「アーケオ様が勘当されるなら私も使用人をやめさせていただきます」
「ほう。お前がそこまでこの小僧に執着するとはな。ウィンディーの影響か?」
「ええ。私が忠誠を誓っているのはウィンディー様であり、そのご子息であるアーケオ様です。この国に心を売った覚えはありませんから」
マシュロがその場の空気が凍るような声音で辞職を告げた。アーケオはマシュロとともに玉座の間を出た。胸に少しばかりの悔しさを覚えながら、支度をする為、部屋に戻った。
「アーケオ様。申しわけございません。私がもう少し抗議していれば」
「ううん。少し早かったけどこれで良かったよ」
「と、言いますと?」
アーケオは懐から一冊の本を取り出した。
「それは普段、読まれている本ですか?」
「うん」
彼が取り出したのは小さい頃から読んでいる一冊の絵本だ。内容は主人公の少年が世界を冒険する話。空飛ぶドラゴン。虹の橋。色々な人達。
一度ひらけば夢のような世界が広がっている。読みすぎてページの所々が色褪せている。死んだ母がアーケオに残してくれた唯一のものだ。
「この本に書いている通り、この世界はたくさんのもので満ち溢れている。僕はそれが見たいんだ」
勘当を告げられた時、ショックとともに別の感情を生まれた。開放感だ。これでもう虐げられる事もないのだ。本に書いてあるものを見に行きたい。今、彼の中にあるのはそれだけだった。
「いつか追い出される、必要とされないのなら好都合だよ」
王位継承もない。妾の子としての地位。一時期は父にも目にかけてもらえるように勉学、鍛錬に時間を費やしたがまるで効果がなかった。
「今日から僕はただのアーケオだ」
王族の名を捨てた今、彼にあるのはこの名前だけだ。これからはただのアーケオなのだ。
「左様ですか」
マシュロが頰を緩ませた。アーケオがショックを受けたと思っていたのだろう。
「まずはこの国から少し離れたコラルという街を目指しましょう。そこでこれからの計画を立てましょう」
「よし! 行こう!」
アーケオとマシュロは新天地を目指して、王城を飛び出した。
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