「勇者の剣」


「何!?」

 アーケオは恐る恐るトイレを出ると館内に覆面をつけた人達が入ってきた。彼らは剣や銃を構えて、管内の人間に敵意を示した。

「貴様ら。この博物館は我々『夜明けの翼』が占領した!」

 覆面の一人がそう告げた。『夜明けの翼』アーケオはその名前に聞き覚えがあった。十年前にローゼン王国を壊滅の危機に追い詰めた組織だ。彼自身、マシュロから解散したと聞かされていたが、まさか現れるとは思いもしなかった。


「うう。なんでこんな」

「お父さん。お母さん」

 構成員に寄せ集められた生徒達の姿が見せる。皆、挙動が怪しくこれから行く末に怯えるように辺りを見渡している。


 アーケオは武器を探した。戦おうにも武器がない。辺りを見渡した時、あるものが映った。偽物の勇者の剣だ。


「ごめんなさい」

 彼は剣を囲っていたガラスケースに近くの椅子をぶつけた。しかし、ガラスが固すぎたせいで椅子が粉々になった。

「偽物にここまでやるのか」

 ガラスの強度に思わず、ため息が溢れた。額から滲んだ汗が流れる。外に助けを呼びに行こうかと思ったが時間がない。助けを呼んでいる間、何が起こるか分からない。つまり今動けるのはアーケオだけだ。


 その時、彼の目にあるものが映った。博物館の奥の間の入り口に置いている鎧の模型が目に入った。


「もしかしたら」

 アーケオは鎧の腰部分に携えられていた剣に手を伸ばした。


「まあ、そうだよね」

 鋼の剣は模型だった。切れはしないが打撃なら可能だ。息を整えて、クラスメイト達を睨みつける覆面の一人の背後に回った。


「ふん!」

 彼は覆面の武器を持つ手を剣で叩いた。痛みで悶えている隙に首を叩いた。


 覆面が膝をついて、そのまま動かなくなった。


「てめえ! このガキ!」

 もう一人が気づいて銃を取り出そうとした時、アーケオは脛に向かって模造の剣を投げつけた。


「ぎゃあああ!」

 脛にぶつけられた男が悲鳴を上げて、転げ回る。その隙にもう一人の男に駆け寄った。


「クソがあああ!」


「ごめんなさい」

 男の額に素早く剣を叩きつけた。


 一時的な脳震盪だ。これでしばらくは動けないはずだ。

「なめてんじゃねえぞ!」


「はあ!」

 アーケオは襲いかかって来た暴漢の肘、膝、脛を重点的に攻撃した。ここにダメージを負わせることでしばらくは攻撃できない。


「くっ、くそ」


「あのガキ」

 残った夜明けの翼の残党がアーケオを睨みつける。


「何をしている?」

 残党たちの奥から拳銃を持った長身痩躯の男がやって来た。


「ブ、ブルートさん!」


「あのガキが仲間を」

 残党の一人がアーケオを指差した。ブルートという男性の視線がアーケオに向けられた。


「消すか」

 ブルートが懐から小型の銃を取り出して、構えた。アーケオは身の危険を感じて、近くの物陰に隠れようと考えた時、突然、剣が光り始めた。


「えっ? なにこれ?」

 突然の出来事にアーケオは動揺した。剣が光りだして、凄まじい魔力を感じたからだ。


「それはまさか!」

 ブルードの顔が引きつった。露骨に驚いている彼の顔を見て、反撃を決めた。


「はああ!」

 アーケオは精一杯力強く剣を振った。その瞬間、黄金の斬撃がブルートめがけて、放たれた。


「まずい! 逃げろ!」

 ブルートという男が仲間達に叫びながら、後方に下がっていく。

 床を削り取り、耳をつんざくような轟音が鳴り響いた。


「うあああああ!」


「ぎょえええええ!」


「ぐっ! よけ損ねた」

 構成員達が衝撃で次々と飛んでいく。そして、リーダー格であるブルートに当たって左肩から血が勢いよく吹き上がった。


「くっ! 引くぞ。勇者の剣なんか持ち出されたら、俺達じゃ無理だ」

 ブルートが構成員達を引き連れて、博物館から去って行った。


「勇者の剣? どういう事?」

 アーケオはブルートの言っている事が理解できなかった。それと同時に強烈な疲労感に襲われて、その場で目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る