第1話(3) 魔法があったなら
テレビの名探偵を演じるようにその子供は言う。この現象を説明しろと。
流すには出来事が大きすぎた。
私はどこまでを話すか悩んだ末、隠すことをほぼ諦めた。
「ユウ、魔法とはどんなものだと思う。」
急に問われて驚いた。でも、不思議と答えはすらすらと出てきた。
「きっと、できないことをできるようにするものだよ。ユディル。探しているものを見つけたり、時間がかかることをぱっと済ませたり、炎を手から出したり!簡単に、全部できる。」
まあ、子供なら、というかまあ、この世界の人ならそう思うだろう。
「魔法はそんなに簡単なものじゃあない。」
なんだって!?それはつまり、、、
「ユディル!?魔法が使えるの?」
「お前は魔法が便利で、簡単で、いろんなことができるものだと思ってるんだよな」
なにをいっているんだ?
「私はそんな魔法を消そうとしてる。まずそれだけ伝えておこう。」
どういうことだ?頭の中に絡まった糸くずが散らばる。
ただいくつか分かったことはあった。
≪魔法はある≫ということ。そしてこいつから可能性を守らなければいけないこと。
「それでもこの理ことわりを知りたいか?」
私のすることをわかってもらえるだろうか。
「ああ、もちろんだよ。なんでそんな魔法を消そうとしてるのか、もね」ユディルに問いかける。
「まず、この世界には魔法は存在しない。」
なにを言ってるんだ?まだごまかそうとするのか?この大人は!
「だから本当のことを!!!」
「話は最後まで聞くんだ。この世界には魔法は存在しないと言っただけだ」
「いいか、この世界の他には、異世界というものがある。まああっちからするとこっちが異世界なんだが、この世界で使える魔法はそこ由来の魔素のよるものだ。」
私は続ける。
「実は魔法陣自体はこの世界にないわけじゃない。それは異世界から漏れ出た魔素が発している波動から生まれたものだったり、昔の人が錬金術などをやる過程ででてきたものだったりする。
でもな、そういう微量な魔素からなるものはあくまで現実世界の一見奇妙な現象をちょっと加速させる、触媒ぐらいのことしかしないのがほとんどだし、たとえこの世界のないような現象をうんでも、それはいっときで噂程度にしか広がらない。
じゃああれはなんなのかというとだな、、、」
ユディルは立ち上がって木の中の魔法陣の方を見つめる。
「この世界を侵略しようとしている奴ら、の仕業だ。」
え?どういうことだ?脳みそが絡まりそうだ。
この世界が侵略される?
「お前は魔法を簡単に色々なことができるようになるものだと言った。魔法にも学問があって、誰でも簡単にというわけじゃないが、空間移動なども熟練すればできるようになる
でもな、、、
本当に色々なことができるようになってしまうんだよ。」
ユディルから完全に笑みが消えた。その目はどこか遠くを見つめている。
「考えたことはあるか?突然自分の街が戦場になるのを。山一つが簡単に消え去るのを。死んでもまだ、敵に利用されるのを。」
「でもっ使い方を間違えなければ!」
「爆弾は今でも戦争に使われているだろ?」
「どういうこと?」
かのアルフレッド・ノーベルはなにを思っていたのだろうか。
オッペンハイマーは?二者の違いは?
どちらにしろ、技術の進歩は、同時に、色々なことをできるようにする。
魔法というこれまでの理を破壊するようなものがこの世界に広がったら、、
そう思うだけで寒気を超えた恐怖が私を襲う。私は話した。屈託のない瞳に。
彼は言う。ちゃんとした使い方をすれば大丈夫だと、みんなわかってくれると。誰も世界を滅ぼしたくはないはずだと。
性善説と性悪説、概念的な決着がつくことはやはりないのだろう。
どうしても理解できない。ユディルはなんでそんなひねくれた目で人をみてるんだ?
いやそれよりも、
「侵略ってどういうことだよ。」
「ああそれを話していなかったな。
さっき言った通り、この世界の魔法陣は異世界から漏れ出た魔素程度では問題はない。でも、その魔素が大量に、それも故意に、放出されていたら、どうだと思う?
異世界には、自分の配下になるような領地の争奪戦が起きている。手に入れた土地がそのまま農業や兵力になるからな。そして、あるやつがこっちの世界、「異世界」の存在に気づいて、その土地を入手しようとした。
しかし、問題が起きた。こっちの世界には魔素がほとんど存在していない。魔法を使わなくても攻めようとすればできるのだが、効率が良くない。それで、あいつらは魔素を放出させて、こっちの世界でも魔法を使えるようにしているんだ。
特にその時問題となるのがあの魔法陣だ。魔法陣は魔素が集まる。難しい話になるんだが、そのときに、こちら側に世界の魔素空間が沈む、そうするとあちらからするとそれがひずみのように見えるわけだ。
そしてそれを足がかりにして、この世界を侵略しようとしているんだよ。」
衝撃だった。魔法を攻めてくるため、それも効率的にするために使うなんて。
「誰が一体そんなことを!!」
「魔王だよ」
「魔王?」
「そう、魔王だ、そして、さっきのやつは、あの魔法陣を足がかりにこっちの世界に来た、魔王軍の一人だ。まあ熊にしてしまったがな。」
「え?」
「魔素っていうのは導線があったほうが伝わりやすいその役目をここでしてたんだ。他のいろんな不思議な出来事、木があいつを避けていたのも、あの変な木も、魔法の仕業だ。」
そうだったのか、、、
あれ?そういえば
「でもお前魔法使ってなかったか?」
「よくわかったな」
結び目がほどけかかった紐が再びぶつかる。
それはどうなんだ?
「魔法を消すために魔法を使うってどういうことだよ。矛盾してるだろ!」
「これは奴らみたいな禍々しい心からなる魔法じゃない。」
「それに、魔素を消すには魔法で消費するのが一番早いんだ。」
いややっぱりおかしい。何かが、、、
「ミューミュー!ミー!ムミームームー!」
すっかり忘れていた。ミューの方を向く。すると、さっきまであんなにいたはずの白い奴らの大群がかなり少なくなっていることに気づいた。いや、それでも、数はかなりいたのだが。
「そいつはケセランパサランだ。」ユディルが言う。
何だその乾いた名前。
「魔素の結晶からできた魔物の一種だよ。この世界にも伝承として幾つか残っている。だがな、この世界にはいてはいけないんだ。」
そんな事言わないでと反論しそうになった矢先、ユディルは、魔法陣の方へ向かっていた。
「ここまでの量がいるとなるとやはり埋め合わせしかないか。」
え?
このとき、僕は、魔法を見た。後味は最悪だった。
魔法陣に手をかざす
「集約」
白い奴らが魔法陣に吸い込まれていく
「東洋魔術 調和魔法 <浄化>」
消えていった。
「え?」
あまりにもあっけなくてずっとそんな声しか出なかった。
「じゃあな、あんまり今のことは周りに話すなよ。変なやつだと思われるぞ。」
もう終わりなのか?
「そんな。待ってよ。説明してよ。まだ納得してないよ。ミューが!!」
さびしくなるじゃないか、途方もないほどに、
どうして希望を待たせて落とすんだよおお!
「厶ー厶ー厶ー!ムミームー??」
何も起きていないかのように、元気にミューは飛び跳ねていた。
僕も驚いたがそれよりもユディルから変な声が出た。
「どういうことだ?なんで?どうしてまだいるんだ?そういえばケセランパサランって声を発しないはずではないのか。こいつはケセランパサランではないということなのか?」
慌てつつもミューに手を伸ばす。
「西洋魔術 鑑定魔術 <べヴァートン>」
魔法陣が空中に浮く。その魔法陣に文字が浮かぶ。僕には読めない。こんな文字見たことない。
「なんだって?」
ユディルが叫ぶ。
「ムミー!!!!!ムームームー!!!!!」
ミューから怒りを感じる。
その時、ミューが形を変えてユディルのお腹に突っ込む。ユディルはお腹を抑えて、ミューは僕の肩の上で誇らしげにしている。
少々時間が経ってからユディルが言った。
「いいかユウ。そいつが放つ魔力はとても多い。なぜかは変わらない。それに加えて、これは非常に不可解なのだが、由来がわからない。そいつが何者かわからないんだ。
そこでどうにかしたいんだが、そいつはユウに懐いてるようだから、どうにかもとの世界に帰すためにどうにかしてくれないか?」
「元の世界に返すってどういうこと?」
「ああ、東洋魔術の浄化はな、やっていることは、異世界への魔素の返上なんだ。それと一緒にケセランパサランたちもあっちの世界に戻せる。だが、それ由来の魔法陣からじゃないと返せない。だから、探す必要があるんだ。だから連れてくるように、、、、」
「じゃあ僕ついていくよ。」
「え?」
「いいだろ?そうしたら魔法もいいところが見つかって、ユディルから魔法を守れるかもしれない。
契・約・だよ。」
僕の口からそんな言葉が自然に出てきたことが不思議だったが、気持ちに違和感はなかった。
なんて言葉使ってんだと思いながら、親は?と聞く。ユウは言葉を明らかに濁して、おばあちゃんに頼めばいいから、という。
仕方がない。こんな魔素を放出してたら魔王軍に見つかったときにどうされるかたまったもんじゃない。
「わかった。でも、おばあさんに聞いてからだからな」
「ありがとう。」
言葉の感謝とは裏腹に、
やっぱり納得できない。もっと魔法は、夢のあるものだと思う。やっぱりこいつから魔法を、ミューを、守ってやる。
と心に決めて、おばあちゃんちへ歩き出した。
ーそういえばなんでそんなに魔法のこと詳しく知ってるの?ユディル何者?
ーまあおいおいな。
東洋魔術 調和魔法 <浄化>
魔素を一点に集約、収縮して、魔素空間に魔素を包ませて、そのまま異世界に送る魔法。
禍々しい魔素を世界から消去するという使い道で使われてきた。
ケセランパサラン
ケサランパサラン、ケ・セランパサランは、江戸時代以降の民間伝承上の謎の生物とされる物体。外観は、タンポポの綿毛や兎の尻尾のようなフワフワした白い毛玉とされる。西洋でゴッサマーやエンゼル・ヘアと呼ばれているものと同類のものと考えられている。
<wiki>
魔素の集約体であり、いつからか魔物になった。
魔素の集合体であることもあり形態がかなりある。移動時は主に綿毛のような形をしている。
マジック・マジカル・ラグナロク 〜魔法をこの世界から滅尽せしめるための旅〜 @raira-k
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