第1話(2) 魔法があったなら(2)
足が重い。どれくらい歩いただろう。あたりは苔をまとった地面や巨木で渦巻いている。でも、不思議と道は開けている。白い奴らは綿毛のような体ではずんでくる。最初のうちは歩きのリズムをとって盛り上げていたけど、今になってうっとおしくなってくる。どうせあいつらは疲れないのだろうな。なんかムカつく。
何のためについてきたのか。なんで疲れてもまだ引き返す気がしていないのか。自分でもよくわからない。でもまだついていこうと思う。
なにか、でも明確ななにかに誘われて、同時に求めている。
「ミムーミー?ミューミー!ムミー!!」
それまでよりも早いペースで坂の上からあいつは元気よく跳ねる。なんか僕が急かされてるみたいだ。なんで急かされなきゃいけないんだよ。こっちはついてきてやってるんだぞ? なんかまたムカついてきた。あいつのところまで全速力で追いついて、それでもう引き返そう。
走る。思ってたより坂がきつくて無我夢中に走って、手を膝について地面の苔とこんにちはする。そして、、 顔を上げる。
別世界。後光のような光の筋。白い幹に赤い葉っぱの恐ろしく大きい木、到底数えられない量の白いやつ。そして、巨木のうろの中、中央にある、小さな木と、、、
魔法陣!!!!
体の節々で新鮮な血が、爆発する。
体は軽くなり、興奮が循環する。
白い綿毛をかき分けて、木の中に駆け込む。
マンガのそれよりももっと精密、繊細、かつやや大胆に描かれ、とてもじゃないけど誰かがいたずらで描いたとは思えない。
そして何より、この不思議な生き物がその証拠だ!!無関係なはずがない。
白い綿毛の様な生物たちをありったけかき集めて思いっきり抱きしめる。フッカフカの布団のようだ。例の最初に落ちてきたやつがはねている。気づいたけどそいつだけちょっと猫のような耳がついている。あと、他の奴らは喋らない。口が無いのだろうか。
猫耳のやつをすくい上げる。
「なんか白いやつ、っていうんじゃなんか可哀想だからお前の名前は最初にミューって泣いたからミューだ!!」
「ムミーミー?ミュー!ミムーミムー!ミー!」
おもちゃを買ってもらえるときの僕のようだ。かわいい。あっ、僕のことを言ってるんじゃないからね。
そういえば、この魔法陣の真ん中にある木はどういうことなのだろう。魔法陣は大きな硬い一枚の岩に描かれている。でもこの木はその岩を、まるで土のように貫いている。 なんか魔法陣が見えないな、邪魔だな、抜いちゃうか。
ごく自然に、そう思った。
「おい!!」
大きく怒る声が聞こえて、思ったより強く引いてしまった。
木の根っこが抜ける。引いた力の割に重く感じた。
その時だった。
「ガアアアアアァァァ」
最初はその音の大きさに、大きく怒鳴っていた人が近くで叫んでいるのかと思った。でも違った。
お腹の底から響くような声。直感よりももっと奥底の、本能に語りかけてくる声。いや、これは声なのか?
「おい!!!? なにをしている!いやこんなことを言ってる場合じゃないな、今すぐにその木をもとに戻すんだ。今すぐに!!!」
青年と言うのにはちょっと年を取りすぎているような男の人からいきなり怒鳴られたことに理不尽を感じて、なにもかにもが怖くなって、手を震わせながら腕に木を元の場所に戻させ、、ようとしたが、その手にもう木はなく、代わりに残っていたのは白い灰だった。
「遅かったか、あいつを封じ、、、大人しくさせるの大変だったんだぞ!!」
ただ簡単な言葉で説明してくれるいい大人なのか、それとも何かを僕に隠しているのかわからないうちに
「くそっ、もう来たか。」とそいつが言う。
「えっ!?」周りからは音なんて、、、
そこまで大きくないやつなのか?
妙に森がざわめく音がするけど、風じゃあ、、、
んっ? 揺れてる。地面が確かに揺れてる。
でも、こんなに大きな振動が起きてたらそいつの足音がするはず、、、んっ、苔? 苔が音を吸い込んでるってこと?
ここの地面はなんか硬そうだ。振動は届くだろうが音は木なり苔なりで反射しているうちに消えるのかもしれない。だとしてもっ、なんで木が折れたりする音がしないんだ?そんな大きな生物が移動してたら、、
その時だった。音が聞こえた。確かに。フッと音のあった方向を見る。循環していた興奮は緊張と恐怖が血栓となってどこかにいった。
熊だ。それも半端な大きさじゃない。4mはある。
「チッ」
こっちを向いて確かにそいつは舌打ちをした。やっぱりこいつはいい大人じゃない、とか思っていたが、そこからそいつはその熊に、いや、
どこからかでてきた鉄パイプを持って、そいつは跳んだ。
そんな身動きが自由に取れないようなことしたらやつの餌食に、、
熊の右腕がそいつに襲いかかる。
もうだめだ。目を瞑る。
ガッと何かがぶつかる音。
それから、ドゴォという嫌な音がする。
目をつぶってしまったことを後悔する。
その次に起こることを想像して身の毛がよだつ。
目は開けたくなかったが開けるしかなかった。
というか、本能的に、逃げるしかない、と思っていた。
しかし、目を開けたとき、目に入ってきたのは光の筋と倒れた熊だった。
「どういうこと?」とっさに僕はそいつに聞く。
「ちょっと私の力が強いだけだ。」
嘘をついてるとすぐに分かった。あまりにもおかしいことが多すぎる。
「帰ってくれ。ここは子どもが来ていいほど森の手前じゃあない。深層の深層だ。そもそもどうやってここまでたどり着いたのか知りたいが、まあいい。そんな子どももいるだろ。とにかく帰ってくれ。」
お前は僕に、こんな素晴らしい場所からいなくなれって言ってるのか?さんざん歩いてきてやってきて見つけた宝島からぁ!!!
色んな感情がはじけた。
「質問の答えが返ってきてない。」
「だからただ力が、、」
「それだけを聞いてるんじゃないしそれも嘘だろ!」
そいつの眉毛が動く。
風が吹き始める。
「その魔法陣はなに?なんで木の中に木があるの?なんでその木は白いし葉は赤い。あんな熊が本当にいるはずがない。というか絶対に魔法陣と関係してる。お前止めただろ僕を。お前舌打ちしただろう僕に。封じたって一体何なんだよ。熊なら最初っからそんな言葉出てこなでしょ?なんであの熊が現れるときに木の枝が折れたりしなかったの?本当はなんであの熊を倒せたの?答えて!!!!!」
大きな木が風で揺れて赤い葉が落ちてくる。
「ハァァァァ。」
そいつは大きく一つため息を付いた。
「分かった。だがその前にはっきりさせておこう。私を
「そんなこと言ったらお前も僕に
「だからお前って言うな!!」
お互いに睨め合う。
その時、一枚の赤色の葉っぱがひらひらっと落ちてきてまずユディルの鼻を、次に僕の鼻をくすぐる。
「ハックション」
同時に大きなくしゃみをする。
そして、見つめ合う。
「ハハハハハッ」
ずいぶん長い時間笑った。相手が笑っていることがおかしくてさらに笑った。
その連鎖はユディルが口を開くまで続いた。
「わかった。いいだろう、教える。だけども私は私が決めた使命を果たす。それだけは変わらない。」
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