第1話(1)魔法があったなら(1)
冬の風が足をすくい始める季節になった。
空はこんなに小さな僕に向かって宇宙を見せてくる。宙ぶらりんの僕に何も掴ませてくれない。別に何もすることがないというわけじゃない。別に友達がいないということでもない。でも、さびしい。
空想をしている間は、現実から離れて、少しは心が満たされる感じはする。でも、それは一時の気休めにしかならない。現実は一生懸命作った手づくりの秘密基地から僕が出た途端に無慈悲に襲ってくる。そしてその隠れ蓑ごとぶっ壊す。
もしも、それが、現実でも使えるものだったら、どれだけ良かっただろう。
もしも、魔法があったなら、現実から僕を守ってくれるだろうか。いや、きっとそうだ。そうに違いない。
ああ、神様、魔法というものはどうしてこの世界にないのでしょうか。
不意に草木が揺れる。なにか誘っているようで、胸騒ぎがするようで、空想するにはたやすかったが、この幼い坊やは現実と向き合おうとしていた。
それはなにか馬鹿にされているように感じたからかもしれない。
でも、何もできなかった。何をすればいいかわからなかった。
草木を黙らせようと寝転ぶ、でもそれは逆に耳元に草木のざわめきをもろに受けることになった。空を見つめる。
空から白いものが落ちてきているのが見える。もうそんな季節になっちゃったのか。
んっ?なんか大きくないか?あれじゃあまるで、氷のつぶて…
やばい、死んだ。真上。
目をつぶってうずくまる。
思えば短い命だったなあ。周りにもいろいろ迷惑をかけた。こんなことならもっとまともに生きればよかった。現実がどうとか言ってる場合じゃなかった。神様、ごめんなさい。
ばあちゃんどんな顔するのかな。僕を外に出したことを後悔するかな。そんなことになってほしくないな。今日の夜ご飯も大好物のとんかつの予定・・・
うん、遅くないか?氷のつぶて!!!
そうしてまた空を仰ぐ。
今改めて見るとそれは、氷ほどゴツゴツしていなかった。さっきは明らかに殺意のある固体に感じたんだけど、いまは逆になんかふわふわしているような手のひらに収まる白い…綿毛?
そう思った途端にそれは鼻をなぞってくすぐる。なんとなくそいつが地面に落ちないように手を差し伸べて包み込む。
今思えば、確かにさっきまで青空だったんだから、こんなことになるはずがない。
手を慎重に開く、恐ろしいような、不思議なような、そして、ワクワクするような気持ち。
それは宇宙からのカプセル。いや、宝箱だ。
宝箱がうごめく。
「ミューミュー!ミュー!!」
訂正、喋る宇宙人だったかも。
ドドドドドドッ。地面が揺れる。視線をその白い喋る物体から地面に移す。
そこには銀世界。と見間違えるほどのこの白い未知。みんな揃って目の様な赤い点をこちらに向ける。僕はまるでショーマン!!注目を独り占めだねっ!
汗という名のゲリラ豪雨、体を打つ稲妻の鼓動。でも、不思議とさっきのような殺気は感じない。殺気だけに。ハハハハ。
視線が殺しにきてる。
「やめてよ!そんな冷ややかな目でこっちを見ないでよ!!!」
思わず声が出ちゃった。
すると、その白い生き物たちは離れていく。同じ方向にみんなで動いていく。手のひらにいたやつも離れていく。
「あっ。」とてつもなく寂しい予感がした。
白い奴らが行く先の森の中に宝箱の鍵が落ちていく。沈んでいく。そんな予感が。
背中を風に押され、手のひらにいたやつがこちらを向いて、ついて行こうという強い衝動に駆られ、好奇心の鍵をつかんだ。
森への一歩を踏み出す。冒険への一歩を。
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