第29話 大きめのヘビ

 ササケンの教えはわかりやすかった。遠くの魔物にシャッター棒で攻撃するコツは、ルアーフィッシングの様に棒の先端からふわりと電気の玉を飛ばすイメージなのだそうだ。

 2層目のニンニクになる大トカゲに後ろからそっと近づき、肘から先だけでひょいと振る。トカゲは、右後足に電気の玉が当たり驚いて逃げ出す。


「追いかけろ」


 ササケンの合図で追いかける俺は、スイカ包丁に持ち替えて横から首に打ちつけた。


「棒による遠隔攻撃は慣れるまで難しいから、外れる前提で動いた方が良いよ」


 全力で追って来た俺に、息も切らさずに忠告する40代は辺りを見回し始める。

 ササケンが見つけた何かに近づくと、そこには1層目と同じスイッチの箱があった。


「翔吾くん、これからもラッキョウいる?」


 ササケンの問いかけが石造りの壁に響く。


「いらないです」と少し考えた俺が返すと、


「では、ラッキョウスイッチを切って、ヘビスイッチをオンします」


 なぜか敬語のササケンが左端と右端のスイッチをガチャリと切り替えた。


「えーっと、これから大きめの蛇が出てくるから。毒はないが口がデカくて牙が長いんで、たぶん噛まれたら痛いと思う。

 巻きつく力もやや強めだから注意するんだよ」


 ササケンがそう言った。爬虫類が苦手そうな万里華さんはどういう反応を見せるだろうか。


「で、何の野菜を落とすんです?」


 と俺が聞くと


「その辺は倒した後のお楽しみだろ。

 あっそうだ、ヘビを倒す時はヤツの頭の位置に気を付けろよ」


 ササケンがニヤリとした。



 ヘビは簡単に見つかった。

 長さは1.5メートルほど、太さは15センチくらいで、自然にいるヘビよりも頭が大きく体が太い。

 赤黒い体を不器用に蛇行させてこちらに迫ってくるスピードは、太った体型に似合わず素早くて、シャッター棒で電撃を打つ隙がなかった。


 俺は一旦右に飛び、手に持ったスイカ包丁を横に振る。掠る刃の先がシャリっと音を立てた。プラスチックみたいな小さな鱗が何枚か飛び散る。


 体勢を整えてスイカ包丁を構える俺の体を、ぐるりと回り込むようにヘビはぐねる。ヘビの体が大きく山なりになった次の瞬間、口を大きく開けてコチラに飛びついてきた。

 先が二手に分かれた舌がよく見える。俺は横向きにしたスイカ包丁をヤツの上あごから頭にかけて振り抜き、大きめのヘビを倒した。


 光の粒になり消えていくヘビの死体から何の野菜が出てくるのかを眺めている。

 ぼとり、と何かが落ちる音がした。そこには少し潰れたトマトがあって


「ほらな、頭の位置に注意しろって言っただろ」


 とササケンが笑った。


 魔物が野菜に変わる瞬間、魔物の頭の位置に由来する事を理解した。

 部分的に柔らかくなったトマトを、俺は慎重にマジックバッグに入れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る