第20話 回転力とは
【回転力lv1】と書かれたカードを見て、3人は止まっている。
「万里華さん、よくわからないけど使ってみますか?」
と俺が聞くと
「面白そうだから触ってみるわ」
と怖いもの知らずでカードに触れた。手品のように消えていくカードを見ながら、瑠奈から、うわーって声が漏れる。
「こんな感じで特技が覚えられますんで、怪しげなカードを気軽に触らない方がいいですからね」
俺の説明に瑠奈が頷く。
一方、万里華さんは脳内に響く能力の説明を聞いているみたいだ。俺の時には碌な説明がなかったのに。
「えーっと【回転力】は回転させる力みたい。実際試すから、翔吾くんそこに立ってて」
万里華さんが俺の前に立った。そして人差し指を立てて
「途中、息を吸わずに『くるくる』と言いながら指を回します。その後手のひらを回転させたい相手に向けて『ぱぁ』と言います」
説明を聞いたまんまに、俺たちに聞かせたのだろう。いつもと話し方が変わって面白かった。
「ではいきます。くるくるくるくる……」
万里華さんがおれの方に人差し指を向けて回転させる。
「……くるくる〜ぱぁ‼︎」
猛烈な力が横から掛かる。衝撃的ではなく、思い切り押される感じだ。
何歩かよろけた後、なんとか踏み止まれた。
「すごいね、大きい魔物でも転がせそうだ」
俺が褒めると、転がせなかったことに不満そうな万里華さんは
「もしかして、指の回転につられたのかもしれないから、後ろ向いてくれない?」
などと言ってきた。
野球部で鍛えた足腰を舐めては困りますよと、俺は後ろを向く。
万里華さんが大きく息を吸った気配がして、その後「くるくる……」という小声が聞こえた。
「ぱぁ‼︎」
という声とともに、俺は後ろから押された。横からの押しに準備していた俺は思い切り前に転ばされる。
「ふっふっふっ。縦回転が出来るか試したのだよ、この覗き野郎め!」
万里華さんは半笑いの顔で、地面に這いつくばる俺へとそう吐き捨てる。美人2人に上から目線で見下ろされている状況に俺はゾクリとした。
新しい世界の扉を開いたかもしれない。
「2層目行きますか?」
ちょっとだけよそよそしくなった2人に聞いてみる。
「うん、回転を使ってみたいし、らっきょうも欲しい」
万里華さんはノリノリである。逆に瑠奈は虫が苦手なのか腰が引けている。
「大丈夫、シャッター棒を振ればどーんって雷が出て、一発だから。それに、らっきょう以外の野菜も採れるかもしれないし……」
と俺が言うと、彼女は渋々頷いた。確かにイタリア料理店にらっきょうは要らないかもな。
降り立った2層目の遺跡は、今日もひんやりと湿っている。ランタンに照らされて青白く光る石壁に、2人が感嘆のため息を漏らす。
「アリ、いないね」
シャッター棒を構えて周りを見回す2人と、手に持ったメモ用紙に地図を書き込む俺。
「なんかいるよ」
瑠奈が前を指差して小声で伝えてきた。
体勢が低くて、4本足で動く魔物みたいだ。こちらは灯りを持っているのに気付く気配がない。
「大きいトカゲだな。やるか?」
俺の問いに瑠奈が頷く。逆に万里華さんは固まっていて、爬虫類が苦手なのかもしれないと俺は思った。体調が1メートルほどのトカゲがゆっくりと前を横切っていく。
「万里華さん、くるくる試すんじゃないの?」
瑠奈に言われて震える声で「くるくる…」と唱え出す万里華さんの横で、俺は鞄からスイカ包丁を取り出した。
「ぱぁ!」という声でトカゲが見事にひっくり返った。腹に向かって一閃、真っ二つになったトカゲはさらさらと消えた。
「野菜は何?」
瑠奈が無邪気に聞いてくる。ランタンで照らすと、土に塗れたニンニクが落ちていた。それをバッグに仕舞う。
「ニンニク‼︎マジ神!
今年はニンニク高騰で、去年より値段が5割増なのよね」
喜びのあまり声が大きくなって、周りの石壁に響く。
そのせいか、カサカサと大量の大きい蟻たちの足音が聞こえだした。
ここは遺跡の広間の真ん中、囲まれる前に構えておきたい。
「背中合わせになって、シャッター棒を構えて」
俺に言われた通りに、3人で背中合わせになる。俺の肘が万里華さんの柔らかい二の腕に触れて、何故だか得した気分になった。
「目の前に電気を飛ばす感じで振りますよ」
そう言って、俺は先にシャッター棒を振った。棒から出た電気でバリバリと近くの蟻がひっくり返る。
右後ろでは瑠奈が棒を振る。
ボウッっていう俺とは違う音がして、蟻に火が付いて燃え移った。
えっ、火なの?
左後ろの万里華さんは風だった。音も無く舞い上がり、
2人の魔法の境目では火が必要以上に燃え上がり、燃えて暴れる蟻からさらに延焼している。
「やばい!煙たい!臭い!」
テンションが上がると語彙が少なくなるのか、瑠奈が混乱している。
暴れる蟻が右往左往してこちらにも走ってきそうだ。
俺は水魔法を唱えて
「落ち着け、すぐ消すから」
と周辺に雨を降らせる。
俺たち3人も含めて水に濡れる。万里華さんと瑠奈が着ている暗い色のTシャツが肌に張り付いていて、なんとも言えぬエロい雰囲気を醸し出している。
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