第18話 寝不足と武器不足 ⭐︎
「これ以上関係者を増やしたくない……」
俺が頭を抱えているのを見て、松本が俺の肩をバシバシと叩く。
夏の補講5日目の朝の教室である。
海老沢夏希に野菜を渡す俺をめざとく見つけた松本は、いつもの包容力は何処へやら積極的に首を突っ込んできた。
もしかしたら海老沢と仲良くなりたいのかもしれない。
「そんなに元気が出るなら、うちの部にも分けてくれよー」
口を滑らせた海老沢は俺からの視線を感じて斜め上を見ている。
「採れる野菜は多くないから、欲しいなら女バスに頼め」
俺はそう言うと机に顔を伏せた。
昨日の夜、邪な思いで忍び込んだ俺と、夜遅くまで働いていた瑠奈。俺の心に芽生えた罪悪感のせいで寝不足なのだ。
罪悪感無く手軽に見に行けるエロい場所ってないものかなぁ。
「マツよ、俺はバスケ女子よりバレー女子の方が好みだ!」
海老沢が席に帰るとすぐ、八木が松本を慰める。野菜を融通しただけなのに、八木の頭の中では俺は海老沢の彼氏扱いなのだろうか。
「確かに、あのムチムチ具合も捨てがたい」
2人の声がデカいせいで、周りの女子がヒソヒソ呟いている気がする。
学校が終わり八百屋へ向かうと、既に2人が店の前に待っていた。まだ12時過ぎである。
「君がここでお昼を食べる事を知っていたから、昼ごはんもってきたよ」
そう言って差し出した瑠奈の手には昨日の賄いの残りが入ったタッパーがあって、万里華さんはカツナリの挑戦したいけど手が出なかった惣菜シリーズなるものを持参していた。
「このパスタ美味しい」
万里華さんが目を細めてパスタを頬張る。リビングのテーブルを囲む3人は、ニンニクとオリーブオイルの香りに抗う事ができず、真っ先にパスタに口をつけた。
「柚子胡椒が良い味出してるでしょ」
特徴的な辛味が何とも美味い。
そして、よくわからない惣菜の数々、このポテトサラダはなんなのだろうか。
「三色ポテサラよ」
俺の視線に気づいた万里華さんが教えてくれる。
「このポテサラは、黒いのが塩昆布、赤がサラミ、緑が刻んだ高菜漬けが入っているの。マヨ味を抑えた自信作らしいわ」
説明する万里華さんも少し疑っている感じがある。俺は一番味を想像し辛い高菜を食べる。瑠奈は塩昆布を口に運ぶ。
「美味しい!」
お互いそう言って俺と頷きあった。
あらかた食べ終えた頃に、冷蔵庫からセロリとニンジンのピクルスを取り出して彼女らに食べさせた。
「これを食べると身体能力が上がるらしいから一口だけでもどうぞ」
リビングにぽりぽりと野菜を噛む音がした。
「おふたりに知らせなきゃならない事があります。
ダンジョンには魔物がいるんですけど、武器が2本しか無いんです」
俺は2人にシャッター棒とスイカ包丁の事を話す。2本を彼女らに渡すなら、俺はまた金属バットで戦わなければいけない。
「あっ、シャッター棒なら掃除用具入れにまだ何本かあったよ。
あんなものが何本もあるのが前から不思議だったのよね」
万里華さんがそう言って、店の隅にある鉄製の縦長のロッカーを開ける。ほうきやデッキブラシの奥に、グリップの色違いのシャッター棒が4本立てかけられていた。
「スイカ包丁もあるわ…」
万里華さんはその奥に隠してあった包丁も取り出した。
2人がそれを一本ずつ手に持って、瑠奈がシャッター棒を試しに振ろうとしたので、俺は慌てて止める。
「試すのはダンジョンに入ってからで……お願いします」
危うく大惨事になるところだった。
3人は防具を付けて準備を終えた。
あっと、思い出した俺は母親に今からダンジョンに入るメッセージを入れる。
「意外と律儀なのね」と笑う瑠奈。
「可愛いわ」と万里華さんが妖しく笑みを浮かべる。
丸森翔吾ダンジョン5日目、参ります。
【ニンニクと柚子胡椒のトマトスパゲッティ】
①スパゲッティを5分短く茹でる。
②トマトのヘタを取り、裏返し半分まで十字に切れ目を入れる。
③深目の皿に入れた半茹でのパスタの上に、トマトをのせて1かけ分の刻んだニンニクと柚子胡椒、少しの塩、たっぷりのオリーブオイルをかける。
④電子レンジ500Wで5分温める。
*好みでベーコンなどを入れても良い。
*面倒ならソフト麺でも大丈夫。
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