第10話 よくよく見てみれば

 放課後、ダンジョンに潜る前に、俺はもう一度八百屋だった空き店舗を探索した。そこには叔父が残した武器(スイカ包丁とシャッター棒)が転がっていた。ならば他にも使える防具やアイテムがあっても不思議ではないと思えるからだ。


「この前は扉の手紙に気付いてから、ろくに周りを探してないからな」


 独り言を呟きながら、主にバックヤードを探した。まっすぐ3段に積まれた20kgのたまねぎのダンボール箱を開けると、小さな盾とヘルメットが出てきた。

 デザインは最近流行りのスポーツタイプのシールドとヘルメットである。

 だが、なんか違う。どこか紛い物臭がする。ここのダンジョンが流行りを追いきれず、微妙にダサい装備を落としているとしたら、それはそれで面白い。


 そしてカバンも出てきた。俺と同じリュックサック以外にもショルダーバッグやウエストポーチなどもある。そしてそれぞれに【未使用】と【使用済み】の手書きのタグがついている。


 これってマジックバッグだよな。使用済みってことは、何か入っているのか?

 そう思って開けようとするが、ファスナーは全く動かない。じゃあと、未使用を見ようとする。ファスナーに手をかけた瞬間


『使用者を限定しますか?』


 という例の機械女の声が響いた。


 思わず手を離しながら、使用済みって使い手が決まってる物なのか、と納得できて嬉しくなった。


「何か高級そうだけど、勝手に使っていいのかなぁ」


 と声をあげつつ、一つのリュックサック

の使用者を俺に限定した。

 素敵な叔父がいて俺は幸せだ。


 さっそく荷物を詰める。ピクルスの瓶、予備の盾、お茶が入ったペットボトル、スイカ包丁を入れる。

 今日は金属バットは持っていかない。叔父が残したもうひとつの武器、シャッター棒をメイン武器として試すことにしたのだ。

 片手に持って振ってみる。グリップはバットに比べるとちょっと細いが、長さは同じくらいで意外と使いやすいかもしれない。


 あとは野菜を食べると速くなるか?だけれど、ダンジョンの中を一周して測るか。

 でも一周ってどれくらいあるのか?そもそも、この入り口まで帰って来れるのか?


 ダンジョン入り口のドアノブを握ったまま考え込んだ俺は、今日はマップを作る日にしようと学校用のカバンからルーズリーフを取り出した。

 よし準備万端だ。


「じゃねぇ。

 俺の最大の目的は幽体離脱して女湯だ。もしくはスイミングスクールの更衣室。狩りに狩りまくってムフフなボーナスタイムを稼ぐぞ」


 と気合いを入れたが、一旦冷静になってドアを開く。


「丸森翔吾、ダンジョン3日目参ります」



 昨日と同じ草原である。ルーズリーフに特徴的な形の木を書き込んでいく。丘を下ると小川が見えた。川沿いを上流へ登っていく。

 途中、川面から覗いた岩に亀が日光浴をしている。


「あれは魔物なのだろうか?」


 シャッター棒を上段に構えて静かに近づく。俺はシャッター棒の先端、ひらがなの『つ』のカーブの部分を打ちつける形で振り下ろした。


 が避けられた。亀は奇妙な鳴き声をあげて水面に飛び込む。


 シャッター棒は亀がいない岩を打ちつける。

 この時俺は、稲妻が落ちる時にドンという音がすることを知った。



 この棒、雷属性だわ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る