第24話 茉莉の決断、ダンスダンスダンス
ピンクのスーツで、茉莉を出迎えた紡。
誰がどう見ても、カッコよく決まってる。
ピンク色も淡い色で上品。
繊細な金色の糸で紡がれた刺繍が、淡く輝く。
そのスーツに合わせた、レースが施された純白のシャツ。
ふわっとしたアスコットタイには、小さなパールが縫い付けてある。
「……お、王子様そのものでしょ」
誰がどう見ても、童話に出てくる王子様だ。
「ふふ、あやかしにんげん王子だからね」
紡はまた、自信たっぷりの笑顔を見せる。
「茉莉はどのドレスを着る?」
紡が指差すハンガーラックには色とりどりのドレスが並んでいた。
「え!? わ、私も?」
「当然さ」
「私が着付けのお手伝いをいたします」
お菊さんが、にっこり微笑んでくれた。
ふわふわでリボンとフリルがいっぱいのお姫様のようなドレスがいっぱいだ。
「うわぁ……でもこんな可愛いの、私に似合うかな?」
「似合うに決まっているさ。茉莉に似合うドレスを俺が選んで持ってきたんだから」
「えっ……」
私の事を考えて!?
ドレスを持ってきてくれた!?
そんな発言は恥ずかしすぎる。
紡は普通に微笑んでいるけど、茉莉はドレスを選ぶふりをして赤くなった顔を見せないようにした。
「茉莉、ヘアアクセサリーも用意しているぞ。ドレスは御祖母様が作ったアンティークだけど、リボンは俺が作ったものもある」
ジュエリーボックスに並べられたリボンはどれも綺麗で可愛い。
「わぁ! 綺麗! 私も今度作ってみたいな」
「あぁ今度一緒に作ろう」
「じゃあこのピンクのドレスにする! だからリボンは……選んでくれる?」
似合うかはわからないけれど、今一番可愛いと心に響いたピンクのドレスにした。
「もちろん。そのドレスならこれかな。……うん、いい」
「紡が作ったの?」
「そうだよ。お菊さん、ヘアメイクもしてあげてください」
すっと、茉莉の髪に合わせて紡は頷いた。
「はい、編み上げましょうか。茉莉さま、こちらへ」
お菊さんがドレスとリボンを持って、試着とメイクができる部屋へ誘ってくれた。
ドキドキが止まらない。
「待ってるよ」
「う、うん……!」
お菊さんの手によって、髪を編み上げてリボンが付けられた。
上品なピンク色のリボンの真ん中には綺麗な宝石が輝いている。
そして初めてのドレス。
ふわふわと足首までの裾が揺れてスカート部分には小さなリボンが可愛く付けられている。
胸元は大きなリボンとレースとパールがあしらわれて最高に可愛い。
肩もふんわりとして王道のプリンセスドレス!
仕上げにピンク色のリップも塗ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
「とってもお綺麗ですよ、茉莉さま」
少し緊張して、茉莉はドアを開けて紡の前に現れた。
恥ずかしい……でも紡は絶対に笑わない。
「うん、最高に似合っている。素敵なお姫様だ」
笑わないけど、恥ずかしい事を言う王子様!
「も、もう、どうしてそういう恥ずかしいことを言っちゃうのかなぁ!」
「俺は思った事は素直に言うんだ。伝えられなかったって後から後悔したくないからね」
「それはわかるけどぉ」
「さぁ、パーティーだ」
紡がエスコートするように、手を差し出してくれた。
お店の中に用意された豪華なテーブルとチェア。
そこには薔薇の花のようにデコレーションされたケーキやゼリーなど沢山のスイーツが!
椅子を引かれて、座る。
大人が飲むような素敵なシャンパングラスが用意されていた。
お菊さんがボトルに入ったジュースを注いでくれる。
「わぁ……なんて素敵……すごいよ」
「気に入ってくれたようで、よかったよ。美味しいサイダーで乾杯だ。事件解決に乾杯」
「うん! 乾杯!」
綺麗なピンク色のサイダー。
飲むとほのかに薔薇の香りがした。
「……紡、たくさんたくさんありがとう」
「茉莉?」
「手芸も教えてもらったし、なんだかすごく沢山の色んな事を教わった気分……」
「いや……」
色々思い出すと、また泣けてきてしまって涙が溢れきてしまった。
紡が綺麗に刺繍されたハンカチを渡した。
「ありがとう」
「怖い思いをいっぱいさせたね……でももうこれで終わりかな」
なんだか寂しそうに紡は微笑んだ。
「え?」
「ドレスと一緒にこれも頼んで、さっき届いたんだ」
紡がテーブルの上に、何か巻かれたテープのようなものを置いた。
「……これはなに?」
「とりあえず応急処置になってしまうんだけど、切れた魂の縁を塞ぐテープだよ」
「……私のための?」
「あぁ。これを使えば、あやかしの世界からは縁が切れる。以前の生活に戻れるよ。そしてゆっくり縫い方をマスターしてから縫えばいい」
「えっ……」
また紡は寂しそうな顔をしながら、でも笑った。
茉莉の心はざわざわする。
自分はどうしたいの?
怖いものなんか見たくなかった。
でも……。
気づけば、もふりんと葉っぱのあやかし達がテーブルの上で踊ってる。
ニコニコ微笑んでいるお菊さんの後ろにも、狐やたぬきのあやかしがケタケタ笑ってる。
天井で遮られて見えないはずなのに上空で、もののけ達がじゃれあってるのを感じる。
桜の精霊さまの言葉……。
桜子さんが笑顔で空へ行った事を思いだす。
みんなの笑顔……。
「私は……」
思った事を、素直に言えばいい。
「……私は、テープは使わない」
「えっ」
「せっかくだけど、ごめんね紡。私はこのままで大丈夫」
「茉莉」
「それで、また何かあったらお手伝いをしたい……お手伝いをさせてほしい!」
驚いた顔をした紡だったが、珍しく少し照れたように瞳をそらす。
「……いいのかい?」
「うん!」
「……うん、ありがとう。じゃあまたこれから手芸クラブコンビとしてよろしく」
「えへへ! こちらこそ!!」
いつも紡から手を差し出してくれるので今日は茉莉から手を差し出した。
「あぁ」
紡がぎゅっと茉莉の手を握った。
「もう見たくないって言われるかと思ったんだ」
「……そっちの方がよかった?」
「いいや、嬉しいよ。終わってしまうのが寂しかったから」
「私もだよ……」
照れたけど、でも目はそらさずに見つめ合った。
でもやっぱり恥ずかしくなって、イヒヒと誤魔化すために笑ってしまう。
「えへへ! じゃあコンビ名を決める?」
「コンビ名か、いいね。茉莉は何がいい?」
「じゃあ……私達の好きな色は?」
「ピンクか」
紡がニヤリと笑う。
「ピンク・ハートとか……?」
「うん、いいな。じゃあこの店の名前もピンク・ハートにしよう」
「えぇ!? そんな決め方でいいの?」
「迷ってたんだが、茉莉から聞いて納得いった。『ピンク・ハート』で看板を出せば困ったあやかしや幽霊が訪ねてくるだろう。解決ピンク・ハートだな」
「あやかし、幽霊……」
ちょっと怖いと思ったけれど、紡の自信たっぷりの笑顔を見ていたら何があっても乗り越えていけるような気がした。
「うん! 素敵! 『ピンク・ハートがみんなの悩みを解決します!』だね!」
「あぁ」
二人のコンビ『ピンク・ハート』が結成された。
「じゃあ、踊ろうか」
「え!? お、踊る?」
「王子と姫は踊るもの。だろ? お菊さん、楽しい曲をかけてくれ」
「はい、お坊っちゃま」
お菊さんがレトロなレコードをかけると、小さなあやかし達がみんな喜びだす。
「さぁ俺と踊ってくれませんか? お姫様」
やっぱり自信たっぷりの笑顔。
それを見たら、茉莉も笑う。
「もう! 仕方ないわね! 王子様! 私は踊りなんかできないよ!」
「楽しければいいのさ!」
「あはは! そっか」
茉莉は紡の手をとって立ち上がる。
楽しい笑い声と音楽が『ピンク・ハート』の店内に響いた。
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