第21話 感動の再会


 桜子さん以外には、プレゼントは渡せないと言ったヒロシさん。

 彼を連れて、校舎に入り……そして向かうのは家庭科室の横のトイレ前。


 今日も薄暗い。


「こんな場所へ連れてきて……さっきの話と何か関係あるのかい? 桜子ちゃんは家庭科が大好きだったんだよ」


「じゃあ……無意識に此処にいたのは居やすいだけじゃなくって、家庭科が好きだったからなのかな」


 自分のことなのに、すっかり忘れてしまった桜子さん。

 居やすいから、と言ってたけれど最初は家庭科室にいたかったからなのかもしれない。

 

「君たちは桜子ちゃんの親戚か何かなのかい? でも桜子ちゃんはきょうだいはいないはず」


「あの、その、それは」


 聞かれると、困ってしまう。


「実は僕達は、桜子さんから頼まれてプレゼントを探していたんです」


「ええっ!?」


「つ、紡!?」


 まさかダイレクトに、本当のことを言うとは思わなかった!!


「闇土門君……いくらなんでも、そういう冗談を言っていいか悪いかはもうわかるだろう」


 いつも優しい用務員さんも、少し怒ったのがわかった。

 茉莉はヒヤヒヤ冷や汗が出てくる。


「冗談ではない事を、本人から聞いてください」


「えっ……!?」


 紡は何か胸元のポケットから取り出した。

 携帯用の裁縫キットだとわかった。

 そこから、輝く針と糸を取り出す。


「き、君は何をするつもりだい!?」


「霊体の負担にもなるので短い時間だけですが……」


 玉結びを終えた糸、そして針で宙を縫うように紡の手が動く。


「まさか、紡……!」


 縫った空間から徐々に姿が見えだした。

 現れたのは、もちろん桜子。


「えっ……わ、私……どうしたの?」


「君の名前は桜子というらしい、ヒロシくんを連れてきたよ」


 なにより誰より驚いていたのは、ヒロシさんだ。


「さっ……さっ……さっさく……さく」


 口をパクパクさせて声にならない。

 それなりに、おじいちゃんのヒロシさんなので倒れたりしないか茉莉は心配になった。


「ヒロシさん。おわかりのとおり、彼女は桜子さんです。僕達は、彼女の心残りを解消するためにタイムカプセルのプレゼントを探していたんです」


「えぇー!! あなた、ヒロシくんなの!? うっそぉー!! いつもいる用務員さんよね。掃除をしたりしている姿を何度も見ていたわ!」


「……桜子ちゃん……」


 桜子もまさか幽霊になって眺めている景色のなかにヒロシくんがいるとは思いもしなかったようだ。


「定年して、すっかりおじいちゃんだよ。……桜子ちゃん、僕とのタイムカプセルが未練になって……幽霊になっちゃったのかい?」


「あぁ……私、桜子って名前だったわね、忘れちゃってた。うふふ、そうなの。だってどんなプレゼントが入ってたのか気になっちゃって」


 恥ずかしそうに桜子さんは笑う。

 おじいちゃんになっても桜子さんにとってヒロシくんはヒロシくんのままのようだった。


「そんな……僕達のタイムカプセルが桜子ちゃんの成仏のさまたげに」


 ヒロシさんは、ショックを受けているようだ。


「ヒロシさん、彼女は僕が必ず安らかに天へ昇るように導きます。だからもし彼女の願いを叶えることができるなら協力してください!」


「ちょ、ちょっと待っていてくれ!」


 ヒロシさんは、そう言うと走ってどこかへ行ってしまう。

 茉莉は慌てたけど、すぐにヒロシさんは戻って来た。


「はぁ……はぁ……場所は変わってしまったが、この学校の中にあるべきだと思って……此処で働くようになってから、ずっとロッカーに入れていたんだ」


 走って息切れしながらも、手のひらサイズの缶。

 予想以上に綺麗だった。


「埋めてすぐに、桜子ちゃんが亡くなって……僕はつい掘り出してしまった。缶は埋めた時のまんまで僕は辛くて辛くて……でも処分することはできなかったんだ」


「ごめんね、ヒロシくん……もしかして、中を見ちゃった?」


「いいや、二人で見るって約束だったからね」


 ヒロシさんの目は潤んでいる。

 大事なお友達を失うなんて、茉莉には想像もできない悲しみだっただろう。


「じゃあ、今、二人で見てもいい?」


 桜子が、また恥ずかしそうに笑う。


「あぁ……一緒に見よう」


 なんだかお邪魔になりそうだと思って、茉莉が二人を見ないようにすると紡も同じように二人に背を向けた。

 紡がこっちを見て微笑んだので、茉莉も頷く。


「きゃあ、嬉しい! 桜のバッジと桜模様のハンカチ……! そうだわ! 桜が大好きだったの思い出したわ!」


「僕にはバスの絵のバッジとバスのハンカチか……はは……僕の夢を応援してくれたんだね」


「うん、そうよ。夢は叶ったの?」


「うん。バスの運転手になれたよ。定年退職までずっと運転したよ」


「すごいわ、ふふ……!」


 手紙も読んだ二人は、にっこり微笑んでいた。

 ヒロシさんは涙を拭っている。

 きっと二人は気持ちが通じ合ったことだろう。


「ツムグ、マツリ、ありがとう。私、これでもう思い残すことは……」


「桜子ちゃん」


 これでもう桜子は次へ進むことができる。

 茉莉はホッとする。


「思い残す事あるわ!!」


「えぇ!?」


 なんで!? と茉莉は叫ぶ。

 

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